poco a poco 卒業式
まだ肌寒い三月初旬。
「ご卒業おめでとうございます。今日、この良き日にー」
校長、PTA会長、来賓代表、保護者代表…祝辞が次々と述べられていく。
「送辞、在校生代表ー」
「はい」
嬉しい、眠い、泣きそう、つまらない、様々な表情はあるけれど。
「答辞、卒業生代表ー」
「はい」
この日を迎え、この式に向かう、その意味がわかる日が、彼等に来ると良い。
「一同、起立ー」
今、分からなくても。これからもずっと、分からなくても。
「卒業生、退場ー」
会場を包み込む暖かさは、彼等が在校生として引いた最後の幕引きに、惜しみ無く与えられたものだから。
「卒業式、かー」
眼下に広がるのは制服、晴れ着。在校生から送られる鮮やかな花束や可愛らしい贈り物。一年後、あたしはどんな気持ちであの場所にいるんだろう。
「また“自分空間”?」
苦笑と共に足音が近付いてくる。あれからこの声を何度聞いただろうか。
「奨君。部活の先輩には渡してきたの?」
「今さっき最後の一人を捕まえて終わったよ。後輩に囲まれるのが照れ臭くて逃げ出したくなる気持ちは分かるけどね」
頷くと自然に隣に立つ彼。まだ身長伸びているのだろうか、見上げる角度が、いつもと違う。
「一年後、俺達もあそこにいるんだな」
「そうだね」
風が緩やかに吹き抜ける。人の間を、別れの間を。
「何か、寂しいね」
自分達を包み込む空気は、とても温かくて、柔らかく穏やかなのに。
「嫌だな」
「え」
「クラス替え。文理で三年次にするのは分かっているのに、嫌だ」
餓鬼みたいだと彼は笑うけれど、あたしが感じていた寂しさも、それだろう。
「うん…」
ずっとこうしていられるわけじゃない。分かっているつもりでも、現実を見せられると逃げたくなる、目を背けたくなる。別れという事実から、卒業という確実だろう未来から。
「でも俺の場所は変わらないっていう変な自信はある」
「?」
「ここ、亮子の隣。だよな?」
『浅井…亮子さんの隣は空いていますか、空いているなら、俺がいても良いですか?』
不意に鮮やかに思い出された、初めて二人だけになった時の言葉。
「…もちろん、だよ」
自然に浮かぶ笑顔を交わし合って。手をつないで、指先を絡めて。歩き出すのは陽のあたる道。
「「卒業、おめでとうございます」」
この季節からまた歩き始める、全ての人達に、祝福を。




