poco a poco お正月 浅井side
人混みはあまり好きじゃない。ぎゅーって押し潰されて場所も気持ちも小さくなるから。見ているのは、ちょっと楽しい。人の流れが時の流れ、のように見えるから。その人混みの中を、お正月元旦に、鳥居の前に向かっているのは。
「み…奨、君」
「あ、あけましておめでとう、亮子」
二人で人混みの中にいるのは嫌じゃないからだろうか。
「おめでとうございます」
「何か改まった言い方って照れるな」
そう言いながら差し出された手をじっと見てしまう。
「手袋しないの?今日まだ寒いよ」
苦笑した彼は手袋をする。良かった、ちゃんと持っていた。
「じゃあ境内に入ろうか」
「うん」
手袋をした手がポケットに入れられてしまったので、仕方なく彼の二の腕辺りの服を掴んで迷わないようにする。ちょっと強く掴みすぎたのか、掴まれた所を凝視する彼。
「強かった?掴む力」
「全く。そうじゃなくて、こっちの方が…いや、何でもない」
視線があったので問いかけるとうっすらと顔が赤い。あたしの顔も熱い。寒さ予防の焚き火近くを通ったからだろう。
「やっぱり元旦は混むな」
「そうだね」
右も左も人、人、人。前も後ろも人、人、人。押しくらまんじゅう状態で、体が温められる。
「年末は何していた?」
「あんまり変わらないかも。年越し蕎麦は食べたよ」
「俺の家は…そう言われると食べてないな」
そんな事を喋りながら、人波にのってゆっくりと歩いていく。ふと視線を露店に向けると…。
「あれ…」
「何かあった?」
「…ううん、何でもないよ」
声をかけられ視線を戻し、もう一回露店に戻す。確かに見たと思った従姉妹の美弥子ちゃんと、言い合っていた男子の姿は見えなくて首を横に振る。
「そうだ、亮子は初夢見た?」
「ううん、特には。奨、君は?」
やっとお賽銭箱の前まで来た。お財布から五円玉を取り出して軽く投げる。
「見たよ」
「そうなんだ、どんな夢?」
興味があったので聞いたのに、笑っているだけで教えてくれない。
「初夢も願い事も教えたら効果ないって言うだろ?だから…駄目」
ならあたしも教えないで叶える努力をしていこう。そして今年も、宜しくお願いします。




