poco a poco お正月 三上side
とても暖かい。じんわりと体内からも温かくなるような暖かさ。
「…ているの?」
微かに聞こえてきた声。まだ全て聞き取れなくて。
「寝ているの?奨」
やっと理解する、亮子の声だと。けれど暖かさを失いたくなくて、肩に掛かっているものを引き上げた。が、上がらない。そうだ、こここたつだ。
「猫みたい」
小さな笑い声。笑い声がおさまると聞き取れるかもしれない微かな音量で歌を歌い始めた。
ぼんやりしている状態に子守唄にしか聞こえなくて、全力で睡魔が自分を襲う。彼女の声に少し違和感を感じながら意識が薄れる、次の瞬間。
「奨っ、お年玉くれっ!」
「ごほっ」
「由隆っ」
「ぐえっ」
「ごほごほっ」
「奨、大丈夫?」
腹部をすごい衝撃が襲い一瞬息がつまる。咳が出て反射的に起き上がる。
「由隆」
「何だよ~良いじゃねぇか。社会人なんだし」
宥めるように背中をさすられる。亮子の手だ。呼吸が落ち着いたところで目を開ける。目の前にいたのは不貞腐れたような顔をした中学生位の少年と…。
「亮、子?」
「由隆きちんと謝りなさい、お願いする姿勢じゃないでしょ。まだ息苦しい?」
覗き込んだ時に顔にかかった髪を耳にかける仕草が似ている。淡い色カーディガンを羽織って、今より大人っぽくなった彼女がいた。
「亮子姉ちゃん奨認知症じゃねえの。魂抜けてるぜ」
ごいんっ。無意識に少年の頭を殴っていた。
「あだっ」
「家庭教師に向かってお前は~。大体出来たのか?課題」
思い出した。亮子の弟だ。家庭教師をやって今は課題を出して持ってくるのを待っていたんだ。
「あはは、ちょっと息抜き…すぐ終わらせて持ってきますっ」
俺が眉間に皺を寄せると誤魔化したように笑い、去って行った。その様子を見ていた彼女が苦笑している。
「ごめんね、あんな弟で」
「良いよ、大切な人の弟だからね」
そう言って微笑むと、顔を赤くした彼女が恥ずかしがったのか軽く俺を叩いてくる。その動作に笑みが一層深くなる。何年一緒でも、彼女の隣が一番心地良い。
「亮子、あのさー」
ごいんっ。鈍痛響く頭を押さえ、目を開ける。自宅のこたつ、デジタル時計は…。
「…正月…夢オチ…願望か?俺」




