poco a poco 始
人がいない廊下の窓から外を見るのが好き。
今日は視点を変えて空を見てみる。大きな雲が1つ、2つ。
遠くでボールの跳ねる音がした。
「また“自分空間”?」
「三上君」
あたしはいつも廊下の窓から外を見ている。人がいない隙をついているはずなのに、こうして見つける人がいる。そんな人達にいつの間にか名付けられたこの一時が、自分空間。
「三上君も知ってたんだ」
「何を?」
「あたしがこうしている一時を、そう呼ばれていること」
「そりゃ知っているよ、有名だから」
「へ?」
「ま、気にしないで。俺も一緒に見ても良い?」
「え?良いけど…」
納得いかずに空を見る。さっきとは違う空の風景。
「…」
「…」
しばし沈黙。
「さっきの有名ってのは、人がいないから逆に目をひくんだよ、浅井は」
そうだったのか、盲点だ。
「でもここだとお前と同じ景色は見えないな」
「はい?」
「浅井の隣で見ても良いですか?」
「は…はい、どうぞ」
丁寧語につられて丁寧語。制服が触れ合うほど近い隣に三上君がいる。何だか緊張してきて空を見た。またさっきの空と違う。
「………」
「………」
さっきより長い沈黙。いつの間にかボーっとしていたらしい。
「…さっき見た空と違うな」
「うん…」
自然に答えていた。
「浅井が隣にいるからかな」
「何それ、変なの」
「俺にとっては普通なんだけど」
「へ?」
三上君があたしを見る。あたしも三上君を見た。彼は照れくさそうに笑って言った。
「俺の願望の普通っていうのは浅井と同じ景色を見ることなんだけど…」
いったん言葉を切って、また続ける。真面目な顔。
「浅井…亮子さんの隣は空いていますか、空いているなら、俺がいても良いですか?」
「…はい…」
また二人で見上げた空は、違う色。




