2日目(1)
俺はここ数日の出来事を思い出していた。
結婚まで考えていた彼女が突然、自殺した。
目撃者の証言によると『交差点にふいに飛び出して車に轢かれた』ということだった。
注意深い彼女なら無意識にそんなことしない
そう思いながら、彼女のことが世間から忘れ去られていくのを他人のように眺めていた。
自分だけは絶対に彼女を忘れない、そう思っていた。
すると昨晩、俺の仕事用の携帯電話に未登録の番号から着信があった。
彼女の葬式から帰宅して少し経った後だったのでなにかあったのだろうかと出てみると
電話の相手は先日死んだ、優花だと言い出した。
誰かのいたずらだと思い、その言葉を聞いて激怒し、怒りの言葉を口にした。
俺はそんなことをしながらもどこかで信じたい気持ちを持っていたような気がする。
そして電話を切る直前の彼女の話はどれも懐かしいものばかりで
寂しさのなかにいる俺の心を温めていくのを感じていた。
「・・・崎さん、神崎さん!」
俺は考え事をしていたせいか事務の人が自分を呼ぶ声に気がつかなかったらしい。
「は、はい。」
「3番にお電話です。」
「ありがとうございます。3番ですね。」
俺はぼんやりとした頭のまま受話器を取った。
「お待たせして申し訳ございません。お電話変わりました、神崎です。」
「お仕事中、申し訳ございません。」
それは彼女の事故を担当している警察からの電話だった。
内容は『事件性はないと考え、自殺として処理し捜査を打ち切る』というものだった。
お礼を言って俺は電話を切り、溜め息をついた。
これで正式に彼女は自殺したということになった。