落書きは器物破損罪なのでやめましょう
深夜徘徊をしていると、トイレに行きたくなる時がある。ほとんど店は閉まっていて、コンビニか公園のトイレにお世話になるのだが、トイレの落書はついつい読んでしまう。特に公園の公衆トイレの落書きは上手いこと書かれている。ちょうど用を足す時に、読みやすい位置に書かれているからだ。頭の悪い落書きをする癖に、こういうところには頭が回る。ワルガキのまま育ったのか、それとも悪ガキが書いたのか、どちらにせよろくな奴ではない。
と言っても、深夜徘徊をしているオレ自身もろくな人間ではないだろう。オレが未成年だったならば、立派な不良行為だ。
卑猥な落書きとメッセージが大半を占める中、たまに変わったものを見かける時もある。例えば、大喜利をしていたり、プロ並みの絵が書いてあったり、自作の張り紙を貼っていく奴もいる。くだらなければくだらないほど、深々と読んでしまう気がする。
昔のことだが、やたらと長い期間を通して見ていた落書きある。
4コマ漫画風の枠が書かれ最初の下手くそな絵で1コマだけが書かれていた。それから半年くらいはその一コマだけだったのだが、いつの間にか同じ絵柄で2コマ目が書かれていた。2コマ目が書かれた時から、余白に続きを書いてくれという応援メッセージが書き込まれるようになった。3コマ目はいつかかれるのだろうと思っていたが、2年ほどなにも書かれなかった。その間、清掃員に何度も落書きを消されていたが、なぜか4コマだけは同じ絵柄で書き足されていた。面白くもなんともない漫画だったのだが、なまじ眼に入るだけに続きが気になって仕方ない。更に半年ほど経ったある日、とうとう三コマ目が書かれる時がやってきた。相変わらず下手くそな絵で内容ないコマだったが、今回は1コマだけではなく、4コマ目まで書いてあった。しかし最後のコマは絵ではなく「打ち切りです」と書かれているだけだった。拍子抜けの結末に納得は行かなかったものの、何年も続いていたこの漫画が終わったという事に変な満足感を感じていた。それから清掃員に落書きを消されても、4コマが復活することはなかった。
ある日駅のトイレで大の方の用を足していた時にふと壁を見たら、模様が書かれていたのだが、よく見ると同じ言葉が羅列されていた。『死ね』とか『殺す』と書かれているのだろうと思っていたのだが、漢字の角張がなかった。小さい文字に目を凝らしてみると「acknowledge」とずっと書かれていた。意味がわからない文字だけに気持ちが悪い。途中から文字が変わっていた「sophisticated」という文字だ。気になってしまったし、ただ便器に座っているだけで暇なので、オレは携帯で検索をしてみた。「acknowledge=認める」「sophisticated=高度な」と出てきた。センター試験か何かだろうか。どのみちトイレで必死に覚えようとしてる時点で、あまり良い結果ではなかっただろう。
トイレというヒマな空間だと、こういうくだらないものでも変に想像を広げてしまう。
一番心臓に悪かったのが「12時になると○○がやってくる」と書かれていたやつだ。その落書きを見た時は、ちょうど12時を回るか回らないかあたりの時間にトイレにいたからだ。尿を止められず、やたらと響いて届く腕時計の秒針の音を聞きながら「まさか」と思っていた。案の定誰も来なかったし、なにも起こることはなかったのだが「もしかしたら」と頭にチラついてるうちは冷や汗が止まらなかった。何年か後にテレビの再放送で似たような話を見た時に「あの落書きは、これのパクリかよ」と、違うところを楽しんでいた。
落書きを楽しむの用を足している間だけ。
トイレを出てから「しょもうないことしてんなよ」と思うまでが大事なのである。
ペンで太く濃く書かれたものよりも、鉛筆でうっすら書かれているものの方が怖いことが書いてあることが多い気がする。