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その背中を押さない、  作者: MilkLover
そして彼は彼女と出会う
2/5

入部

 姉が死んだ翌日。僕はしっかり学校に行った。そして、三時間目の水泳の授業で気絶した。

「わざとでしょ。」

 養護教諭の長谷川先生は、僕が睡眠導入剤か何かを飲んで、わざとプールで溺れて死のうとしたのでは、と言った。実際その通りだ。しかし、その目論見は阻止された。そりゃ、そうだ。

「海優ちゃんのこと、本当に残念だと思うわ。でも……」

 そう言い残して長谷川先生は保健室を後にした。

 でも? でも、なんだというのだ。僕は生きろってことなのか?馬鹿馬鹿しい。姉さんのいない世界なんて……。

「また、死のうとしたの?」

 聞き覚えのあるような、無いような声がして、見覚えのあるような無いような女子生徒が保健室に入ってきた。

 身長は目測百五十センチくらい。童顔。胸は控えめ。学年は、青い上履きの三年生。僕は二年生だから、彼女は先輩ということになる。三年、姉さんと同じ学年。

「駄目だよ、死んだら。」

「駄目なんだ、生きてちゃ。」

 先輩は、僕を諭すように、僕はすべてを諦観したようにそれぞれ言った。

「「どうして。」」

 二人の声がだぶる。

「愛するものが死んだ時には自殺しなけあ――」

()()が悲しむもの。」

 美優。僕の姉さんの名前だ。

 先輩が僕の言葉をさえぎって告げた言葉は、僕を行動させるのに十分な力を持っていた。その言葉を聞いた瞬間、僕は、ベットから起き上がり、先輩の胸ぐらを掴んでいた。

「やめてみなとくん。怖いよ。」

 先輩が本当に泣きそうな顔で、訴える。はっ、として僕は制服の胸元から手を離した。

「ごめんなさい。」

「いいよ、別に。海優からよく聞いてたから。」

 よれた胸元を正しながら先輩は言う。

「わたし、有栖川宮卯月。文芸部の部長です。優秀な部員の弟を勧誘しに来ました。」

 その手には、入部届が握られていた。

「嫌です。僕は死ぬんだ。」

「駄目。」

 先輩は僕の頭を撫でて、優しく呟いた。

「わたしが海優に怒られちゃうもん。」

「ずるいです、姉さんを理由にするなんて。」

「それはみなとくんも一緒でしょ。」

 やはり、先輩は諭すように言った。見た目はまるで中学生だが、こう見えてきっと、頭のいい人なのだ。

「そう、ですね。姉さんを死ぬ理由にしちゃ、駄目ですよね。は、はは、はは……。」

 笑う。昔、姉さんが言っていたことだ。『つらい時ほど笑っていなくちゃ。』

「いいんだよ、つらい時くらい、泣いてもいいんだよ。」

 そう言う先輩がすごく優しくて。でも、先輩もいつの間にか泣いていて。僕は姉さんの言いつけを、生まれて初めてってわけでもないけど破って、思いっきり泣いた。泣かせてもらった。チャイムの音が遠くで聞こえた気がした。

 余談だけど、先輩は五限に遅れた。


                ***


 放課後、文芸部の部室である『第二図書開架室』、通称『二架』に行った僕は、先輩から入部届を受け取り、顧問に提出した。その時に判明したことだが、どうやら文芸部は、元々、先輩と姉さん以外部員がいなかったらしい。

「ねえ、先輩。」

 二架に戻ってきた僕は、躊躇なく『みゆ』と刺繍されたクッションの置いてある椅子に座った。第二図書開架室なんて大層な名前ではあるが、実際は教室で使うような普通の机が四つと図書室から持ってきたみたいな普通の本棚が四つあるだけの教室だ。広さも当然普通の教室と変わらない。グループ活動の時のように向かい合わせに置かれた四つの机のうち、先輩は、僕のななめ前の席に座っていた。

「うん、その先輩っていうのやめよう。」

 先輩はいきなり席から立ち上がった。

「どういうことですか。」

「なんか、自分が呼ばれてるって気がしないんだよね。名前で呼んでよ、先輩つけていいから。」

 確かに名前は大事だ。

「有栖川宮先輩……言いづらい。」

「じゃあ、」

「ありすせんぱい。」

「え?」

 先輩――ありす先輩はきょとんとする。ハトが豆鉄砲食らったらきっとこんな顔だ。

「ありす先輩……。うん。いい。分かった、それでいいよ。」

 先輩は、はぁ、とため息をつく。

「気に入りませんでした?」

「ううん、違うの。でも、ちょっと……」

「ちょっと、なんですか?」

「卯月って呼んでほしかったかな……。」

「え?」

「なんでもないっ!」


 こうして、僕は文芸部に入部した。

 それと、ばっちり聞こえてました。卯月先輩。

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