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第4話 偵察

少々短めです。

早朝、アジトとして使っているこの民家の一角で夏美にすがりつく一人の少女の姿があった。

 

「先生、また行っちゃうの?」

「ええ、今度は2、3日帰ってこれないと思うわ」

「うう、ここにいて」

「美由紀ちゃん、あなたのお母さんを捜すんだからね」


 美由紀と呼ばれたこの少女こそ二週間ほど前に夏美に助けを求めた女子児童であり、彼女の担当するクラスの教え子である。 富岡の家から脱出後、乗っていた車ごと川に転落するハプニングに見舞われるも夏美は何とかこの少女を守り通し、ここまで過ごしてきたのである。

 

「先生は俺が必ず守るから安心して待っててくれ」


 俺の言葉に対しても少女はフリフリと顔を横に振って夏美から離れようとしない。

 夏美の話によるとこの子は亡者となってしまった父親に襲われてしまい、母親の手によって何とか逃げてきたらしく余りにも衝撃的な体験をしてきたためか夏美以外の人間に心を許してくれないらしい。 

 

「いい子だから先生の帰りを待っててくれないかな」


 夏美の言葉に対し、少女は震える体を離しつつも夏美と向き合い口を開く。


「......待ってる」

「良い子ね」


 夏美は再び少女の体を抱きしめて彼女の体温を確かめる。


「先生のことをお願いします」

「ああ、任せてくれ。 守るのは得意だからな」


 俺たちは後ろ髪を引かれつつも子供たちの言葉を胸に秘めてアジトをあとにし、多くの人々が監禁されているであろう市民会館へと向かうことにする。


「ここか」

「ええ、捕まった人たちの多くがここに集められているみたいよ」


 茂みの中に隠れる俺たちの視線の先には武器を持った多くの亡者に囲まれた市民会館があった。

 先日倒した警官たちと同じように亡者たちの手にはそれぞれ猟銃や散弾銃、拳銃といった武器で武装しており要塞のような姿を見せている。 


「どこの武装要塞だ、屋上には土のうまで積んでやがるし」

「2人だけではさすがにつらいわね」

「これじゃあまともに近寄ることさえ出来ねえな」


 正直言って正面からぶつかり合えば間違いなく返り討ちにあってしまう。 何とか侵入したところで中にいる何百人もの人々を無事に救出する方法など無きに等しい。


「ここにいても連中に見つかる恐れが高いから移動しよう」

「ええ」


 俺たちはとりあえず亡者どもの目を逃れるために別の場所へと移動することにする。


「ここも荒らされてるな」

「連中、生き残った人たちを探しだそうとしているみたいね」


 市街地の一角に足を踏み入れたものの、人が住んでいそうな民家はどこも荒らされておりとても人が隠れられる状況ではない。 恐らく中に潜んでいた人たちは亡者になるか殺された、又は監禁されたであろう。


「この新興住宅地には若い世帯も大勢いたから真っ先に狙われたのかもしれないわね」

「君の生徒もここに住んでいたのかい?」

「ええ、無事だと良いけど」


 しかしながら、連中はなぜ若い女性や子供たちを狙っているんだ? 

 男や年寄りには出来ない何かがあるってことなのか?

 正直言って敵の親玉と思われる「上人」って奴の正体でさえよく分からねえし。


「ここからは私のカンだけど、もしかしたら連中は何か儀式の生贄のために子供たちを集めてるのかもしれない」

「儀式?」

「ええ、「上人」って言葉自体が高僧の称号と思われがちだけど元々は智徳を備えた人の敬称よ。 地元の郷土を研究している人から聞いた話なんだけどこの辺りでは昔、戦国時代の頃まで生贄を使った奇妙な地場信仰があったそうよ」

「詳しく教えてもらえないか?」

「残念ながら詳しい話を教えてもらえなかったわ。 この話自体が黒歴史だから教えたくないって」

「その人は今どこに?」

「お寺の住職さんなんだけど私が彼のいるお寺を訪ねたときにはどこにもいなかったわ」

「もしかしたら秘密を知ったが故に真っ先に狙われたのかもしれんな」

「そうかもね」


 俺たちは廃屋と化した市街地を探索しつつ商店街へと足を進める。

 そこは人口の減少により既にシャッター通りと化しており、人通りも全く見られず寂しい姿をさらしている。


「昔と違って寂しくなったな」

「連中が現れる前からこの通りはこんな状態だったわ。 因みに去年から立ち上がった再開発計画でここの住民の多くは引っ越してしまっているの」

「じゃあここも生存者はいなさそうだな」


 探索をあきらめ、潜伏に適した家を探していると俺たちの耳元に聞き慣れない悲鳴が聞こえてしまう。


「子供の声!?」

「向こうだ!!」


 悲鳴のする方へ駆け寄ると、商店の脇にある袋小路で二人の亡者に追い詰められている少年の姿があった。


「まだ子供がいたとはな」

「上人様も喜ばれる」


 市民会館で見張っていた連中と違い、亡者の手にはそれぞれ鍬や草刈り鎌が握られておりジリジリと少年との距離を詰め始める。


「く、来るな!!」


 ジリジリと壁に迫る少年の手には食料の詰まった袋が握られていることから、仲間のために身を挺して商店に忍び込んだことが覗えるが、残念ながら亡者に発見されてしまったのだろう。

 俺たちは少年を助けるために連中の背後に近づき、タイミングを計って一斉に襲いかかる。


「な、何奴!?」

「うっせえ!」

「くたばれ!!」


 夏美は金属バットで相手の意識がなくなるまで殴り続け、俺はナタで首筋を切り裂く。 お互い既に連中に対する処置には慣れており、お互いが相手にしていた亡者が死んだことを確認した後で少年に声をかける。


「大丈夫か?」

「まだまともな大人がいたなんて......」

「健吾くんじゃないの?」


 どうやら夏美とこの少年は顔見知りだったようであり、少年は彼女の顔を見た瞬間に食料の詰まった袋を置いて抱きついてしまう。


「先生!!」

「無事で良かったわ。 お祖父ちゃんは大丈夫?」


 夏美の言葉に健吾は首を横に振って「怪我をして動けない」と答える。


「そう......悟、紹介するわ。 この子は私の生徒の一人で堀口健吾くん、さっき話した住職さんのお孫さんよ」

「え......じゃあ彼も隠れてるてことか?」

「うん、二週間前に突然お寺の中に知らないおじさんたちが入ってきてお祖父ちゃんを出せって騒いだんだ。 幸いにも僕とお祖父ちゃんは裏のお墓でお掃除をしてたんだけど悲鳴が聞こえて駆けつけたらお寺にいた富さんと梅さんが連中に殺されているのを見てしまったんだ」

「連中、どうやら秘密を知る住職さんを真っ先に始末しようとしたみたいね」


 案の定、連中は郷土研究家の側面を持つ住職を警戒してたみたいだな。

 ここまで見つからずに過ごせたのも奇跡かもしれない。


「襲ってきた人たちの中にはお祖父ちゃんの友達までいたんだけどみんな目が真っ赤だった。 お祖父ちゃんはそれがどういうことか知ってたみたいで僕の手を引いて逃げたんだけど途中でお巡りさんに撃たれてしまったんだ」


なるほど、だからこそ危険を承知で一人食料の調達に向かったって訳か。 そう考えるとことは一刻を争うかもしれないな。


「君のお祖父ちゃんには色々と聞きたいことがあるから案内してもらえないか?」

「うん、この近くの洞窟に隠れてるよ」


 俺たちは健吾の案内で住職の隠れている洞窟へと向かうことにする。 

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