二重奏
二時五分前…
響と奏は、ステージ裏にいた。
太一が響達を見たときはホントに驚いていたが、運営に事情を話し、
「頑張れよ!」
響と奏の事を詳しく聞くこともせず、二人の背を押した。
「お二人とも、準備お願いします〜!」
運営が響と奏に声をかける。
二人は顔を見合わせ、頷く。
(音合わせとかはしてない…でも、奏なら…)
(正直、自信はないけど…響君ならきっと…)
同じような過去を持ち、同じような理由で音楽を続けた二人…
「では、次は【ワールド・ウインド】さんの予定でしたが、事情により、急遽変更で二人組のデュエットになります〜!それでは…どうぞー!」
二人が呼ばれ、二人は出した答えの音を奏で、響かせるためステージに立った。
二人が選んだ曲はたった一曲…
〜〜♪〜♪
ステージに立ち、二人は会釈だけし、何も伝えることなく、響のキーボードが音を奏でる。
誰もが聞いたことがあり、この場には相応しいとは思えない曲の音…
「今〜♪わたしの〜♪」
『翼をください』…明らかにこの場で使う曲ではないため、観客も唖然とし、場は静まり返る。
「願い事は〜♪」
〜〜♪
奏の歌と響のキーボードだけが運動公園に響き渡る。
「えっ…奏?」
美里がステージを見て、唖然とする。
「始めて組むって言ってたが、これをここでやるか〜」
太一が乾いた笑みを浮かべる。
それでも、二人は静かに、しかし、力強く奏で、響かせる。
「この大空に♪翼を広げ♪飛んでいきたいの〜♪」
♪〜♪〜
(響君、君も見つけたんだね!誰かに届けるための音を…)
キーボードを弾きながら、響はあの女性の声を聞いた気がした。
(そうですね…一人じゃ見付けられなかったですけど、これが俺の…)
(やっと、君らしい歌が聞けたよ!)
奏は歌いながら、聞いていた。
あの男の子の声を…
(一時はどうなるかと、思ったけど、もう大丈夫だね!)
(うん…やっと、分かったよ!君の言葉が…これがわたしの…)
((届けたい音だよ♪))
「〜♪」
〜♪
たった一曲…それも、『翼をください』というありふれていて、この場では場違いな曲…
それでも、二人は終わったあと笑顔で頭を下げた。
そこで、静寂だった観客から、
パチパチパチ…
最初はわずかに…しかし、それは徐々に大きく広がり、
パチパチパチ!!
大きな拍手となり、二人に届いた。
「あんな、歌と音を聞いたら場違いだろうと、みんな聞きいっちまう…」
太一が拍手を送りながら、呆れたように呟く。
「奏〜!すごい、響いたよ〜!」
美里が少し泣きながら、笑顔で声援を送る。
拍手と声援を浴びながら、響と奏はステージから下がった。
「ぐす…非常に心に響く演奏でした!…それでは、この調子で次いきましょう!次は〜」
「なんか…すっきりしたな…」
「うん…」
響達はステージを離れ、ステージからの演奏を遠くに聞きながら、芝生で横になっていた。
「ステージで弾いてるとき…あの女性の声を聞いた…気のせいかも知れないけど、それを聞いて俺は分かった気がするよ…」
「わたしもね…あの子の声を聞いたんだ…」
ステージからの音だけが、二人の周りにある。
「きっと、音楽を続けたのは…あの女性に音を届けたかったんだと思う…」
「わたしも、また歌を始めたのは、あの子に歌を届けたかったんだと思う…」
「なぁ…もし、奏さえ良ければ、これからも二人で二重奏しないか?」
「……うん…わたしもそうしたいなって、思ってた…」
「「もう一人、届けたい人ができたから!」」
響と奏は、顔を見合わせ笑い合う。
二人の音と歌が、今日も奏で合い、響き渡っていた。
〜fin♪