始曲
「そっか…響君は、その女性の為にキーボードをやってるんだ…」
(だから、激しくも寂しい音だったんだ…)
奏が寂しい顔をする。
「奏も…似たようなもんだろ……男の子の言葉を信じて、歌ってるんだし…」
(似た者同士…だからかな……この事を始めて人に話したのは…)
響は響で、物思いに更ける。
二人は何故、お互い過去の出来事を話し、お互いが今、迷いながらも、互いに惹かれていることを、まだ二人とも気付いていない。
静かに時間だけが過ぎていく…
そして、一時過ぎ…
ジリリリ…
響の携帯がなる。
「もしもし…」
「響か!?悪いんだが、今日弾けるか!?」
太一の焦っている言葉に、響が耳を疑う。
「はっ…?どういうことだ?」
「なんか、昼飯が悪かったのか他のメンバーが食中毒で病院に運ばれちまったんだよ!オレは、今、着いたばっかりで大丈夫だったんだが、ギター一人じゃ何も出来ねぇ!頼む!」
響は、太一の言葉を聞いて、断ろうとしたが…
「…なぁ、俺ともう一人知り合いをメインでやらせてくれねぇか?」
全く逆の言葉を発していた。
(俺は何を言ってんだ!?奏にあの事を話して、変な気でも起こしたのか!?)
響が自分の言葉を疑う。
「はっ?」
太一が間抜けな声を出す。
「いや、ちょっと一緒にやりたい奴がいるんだ……そいつと一緒じゃダメか?」
響は自分でも何を言っているか、分からずに、しかし、それでも言葉を紡ぐ。
「……分かった!それなら、オレは今回でねぇ!だから、響の好きなようにやれ!」
太一が響の言葉に何か感じたのか、今回の件を響に任せた。
「そうと決まれば、すぐにステージ裏に来てくれ!事情はオレが説明するから!」
太一はそれだけ伝え、携帯を切った。
「………」
(マジで俺は何を考えてんだ?…太一達の代わりにステージに立つ?しかも、奏と一緒にとか考えて……そもそも、奏を勝手に巻き込んでるけど、奏にオッケーもらってねぇじゃん!…)
数々の疑問と今更ながらの後悔が、津波のように響に押し寄せる。
しかし、
「奏……悪いんだが、一緒にステージに立ってくれねぇか?」
響は自分の今、まだ分からない感覚に身を任せ、奏に聞いた。
「えっ…?それは、どういう意味かな?」
響のいきなりの誘いに奏はキョトンとする。
いきなり、そんなこと言われれば誰だってそうなる。
響は、さっきの太一の話と事情を説明する。
「……響君と一緒なら…良いよ…」
(奏となら…)
(なんだろう…響君となら…)
((答えが見つかる気がする!))
二人は音楽をやる意味を、やめられない意味を探していた。
そして、二人は出会い、音が始まる。