過去
響がキーボードをやり始めたのは、三年前……
当初はただの興味本意だった。
周りがギター、ベース、ドラムなどをやる中、響はある女性のキーボードに惹かれた。
その女性が弾くキーボードは上手いだけではなく、どこか人を惹き付ける魅力があった。
その魅力に響は惹かれ、その女性にキーボードを教えてくれ、とお願いしに行くほどであった。
しかし、女性は響にキーボードを教えることはなかった。
女性はただ一つだけの事を響に教えた。
「いい?響君…音楽って言うのはね、誰かに想いを届けるための手段なんだよ。今はまだ分からないかもしれないけど……君も、そのうち分かると思うな!」
その女性は優しく笑って、響に言ったのだった。
そして、響がキーボードを始めて二年が経ったとき、その女性は病気でこの世を去った。
今、思えば、その女性は響にとって初恋の人だったのだろう。
女性が亡くなった白勢を聞いた響は、入っていたバンドを抜け、一人スタジオでただ、キーボードを弾くようになったのだった。
奏は物心ついた時から、歌を歌っていた。
両親も奏の歌声に才能を感じ、歌教室などに通わせるようなった。
奏は歌が好きだったし、上手くなる自分も誇らしかった。
歌教室で奏は一人の男の子に出会う。
奏よりも歌が上手く、成長すればオペラにも出れるのでは…と期待された男の子だった。
奏は競うように、男の子に絡むようになった。
奏自信もその時は気付いていなかったが、初恋だったのだろう。
男の子も奏と歌うのを楽しそうにして歌っていた。
奏はある時、男の子に聞いたことがある。
どうして、歌うのが楽しいのか?と。
男の子は迷うことなく、
「それはね、歌は幸せを届けるからだよ!」
と答えたのだった。
その言葉を交わしたのを、最後に男の子は事故に遭ってこの世を去った。
奏はしばらく、歌うことをやめ、歌教室もやめた。
しかし、男の子の言葉を思い出し、数年前から一人、再び歌い始めた。