響
〜〜♪〜♪
スタジオにキーボードの音が鳴り響く。
響く音はギターのみで、歌はおろか、他のドラム、ベース、ギターの音すら混じらない。
時に高音、時に低音と波打つ音は嵐のように激しく音を響かせていた。
ー♪
弾き手の区切りがついたのか、音が止まり、スタジオ内に静寂がおとずれ……
パチパチパチ…
はしなかった。
拍手のした方向には、丸眼鏡をかけた、天パの男が笑みを浮かべて、拍手していた。
「相変わらず、良い音出してるな!」
男は笑みのまま、キーボードの前に立つ、茶色に染めた短髪をワックスでツンツンに立てた男に声をかけた。
声をかけられた男は無言のまま、近くにあった椅子に座る。
「……また、誘いに来たのか?」
少しの沈黙の後、男は天パの男に呆れたように聞いた。
天パの男は頭をかきながら、乾いた笑みを浮かべ、
「だってよ〜…響の音が入れば、オレたちは絶対最強だってリーダーが言うからさ〜!」
軽いノリで答えた。
「そのリーダーはお前だろ…太一…」
そう呼ばれた、天パの男…太一は笑いながら、
「予想通りのつっこみだな!さすがは響!」
意味もなく、響を誉める。
「誉めたって、俺は入らないぞ…」
響は冷静にはっきりと告げる。
「なかなか強情な奴だな…まぁ、それは最初からか!とりあえず、これだけ渡しとくわ!」
太一はポケットから、何かのチケットを響に渡す。
「…【ワールド・ウインド】野外ライヴ?」
チケットを見て、神崎が怪訝な顔をする。
「来週の日曜に市立の運動公園でやる!気が向いたら、来てくれ!」
太一はそれだけ告げて、スタジオから出ていった。