第四話
今日は、朝から生憎の雨でだった。母上が濡れながら、食糧をとってきたのだが…
一本の角が生えた白い鹿をくわえている。
『此れは魔力を多く秘めておるのだ。今日は運が良い、常なら雨上がりにしか狩れなんだ。』
「ぎぃ、…ぎゃぃあああ!?(え、…此れって、ユニコーンじゃね!?)」
前の世界でなら、白いペンキに特殊メイクかCG合成しか疑わなかったが、今は違う。
なんせ、俺は龍だ。てか、ドラゴンだ。
そう、自分自身がすでに空想の生き物になっているため、一概にユニコーンを否定出来ない。
だが、想像してみて欲しい。触れそうなくらい近くに、物語でしか存在出来ないユニコーンがいることところを。
螺旋状に巻いた細い角は宝石のようで、白く滑らかな毛は光沢がある。1.5mはある躯は細身でありながら、筋肉が外見を損なわせずにしっかりとついている。
瞳はアメジストを差し込んだように、美しい紫色で周りには白い睫毛が生え、知性を感じさせる瞳をしている。
そして、もう1つ想像して欲しい…。
母上が俺の為に狩ってきたという事を。
長く均整の取れていたであろう首は螺曲がり、有らぬ方向に顔が向いている。
詳しく説明すると、俺に背中を向けて倒れているのだが、首が直角に曲がり悲惨な表情が丸見えになっている。
口が半開きになり、赤く染まった泡が口角から垂れて頬を汚していた。
折れた首からは、脊椎らしき白い骨と筋肉の繊維が見えている。
分かりきったことだが、敢えて言おう……死んでいる、と。
「ぎぃ………。(夢が…)」
子供の夢であるユニコーン、の死骸をかじる俺は多分最低だが、腹が減った。ぐちゃぐちゃ、と音をたてながら内臓に歯をたてて引きちぎる。
魔力が上手い…
最後まで取って置いた魔石を噛み砕き、俺は食事を終えた。
因みにユニコーンの魔石は、心臓の壁にめり込むように張り付いていた。魔石が躯の表面に出ている動物擬きもいるが、ユニコーンみたいに体内にある動物擬きもいる。
これは母上から簡単に習った事だが、魔石が躯の表面にあるものは躯の身体機能を向上させる為だけにしか魔力が働かないが、その分攻撃力が高くなり動きは素早くなる。
また俺やユニコーンのように魔石が体内にあるものは、魔力を変換して炎や水、即ち魔法を使うこと出来る。
ならドラゴンは身体機能は向上させることは出来ず、鱗の硬さだけが頼りなのだろうかと不安になっていたが、
『我らドラゴンは、多大なる魔力を内なる魔石に宿らせておる。我らの様に魔力の多いものは魔石から魔力が溢れ、躯を覆い身体機能を無意識に向上させておる。
そこいらの魔獣など、相手ではない。』
と、母上は宣った。え、ドラゴンって無敵じゃん?と思ったが、弱点があるらしい…。
なんでも、自分の本当の名前を知られると隷属させられてしまうらしい。
あーだから、母上は名前を明かさず俺のことも我が子とか、愛しい子とか適当に呼んでんだなと現実逃避をしてしまうくらい衝撃的だな弱点だった。