大暑
「あ~つ~い~~」
小暑の時にもこんな会話を聞いたような気がするが、高校2年の井野嶽幌は、双子の姉の桜が発している声を無視していた。
「暑い暑い言ったって、どうしようもないさ」
扇風機がゆっくりと首を振っている。
「でも、暑いものは暑いよ~」
「まあ、今日は大暑だからな」
「大暑?」
「暦便覧に曰く、「暑気いたりつまりたるゆえんなればなり」。暑さが一番強い頃ってことだな。ちょっと前に夏土用が始まって、もう少ししたら土用の丑がくるな。あ、そうそう。そろそろ暑中見舞い出しとかないと」
「土用の丑ってうなぎ……」
桜は幌によだれを垂らしながらじっと見つめていた。
「まあ、鰻だな。暑中見舞い、姉ちゃんも出す?」
「かもめ~るでしょ、あれよりもご飯が食べたい」
「飯はもうちょっとしてから。何通ぐらい?」
「友達に出すぐらいだから、10通ぐらいで。今日のご飯は?」
「予定じゃ、炊き込みご飯。じゃあwebで申し込んどくから」
幌はそう言って、携帯から申込をした。
「炊き込みご飯かぁ……」
桜はうっとりした顔になっている。
「んなことよりも、早く宿題。8月になったら、遊びに行くんだろ」
「大丈夫、大丈夫。一気に済ませるから」
そう言って、桜は幌にひらひらと手を振っていた。