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episode 6 後でゆっくり話を聞かせてもらおうか♪


騒がしい自己紹介を終え、生徒たちがそれぞれの席に散っていく。紅葉も名残惜しそうにしていたが俺が言うと渋々戻っていった。俺はというと、ミレア先生に促された席へスタスタと歩いていた。


「よっ。俺は黒崎ライラ、ライラでいいぜ。半分日本人の血が入ってるけど出身はドイツだ。よろしくな」


丁度席についたとき前の席から声をかけられた。そこに居たのは銀髪黒目の人懐っこそうな少年だった。

「あぁ、よろしくなライラ。俺は・・・・・自己紹介したっけな」

苦笑しながら頭を掻く。

「悠希でいい。出身は日本だ」

そう言ってがっしり握手を交わすと、ライラは満足したのか満面の笑みを浮かべる。

「私も隣だからよろしくね、悠」

隣から声をかけてきたのはもちろん紅葉。こちらも満面の笑み。

「あぁ、よろしくな」


俺が言うのと同時に授業開始の鐘が鳴った。




☆☆☆☆☆




退屈だ。

今は魔術学の時間。この学校では魔術師、精霊術師、召還術師、死霊術師、超能力者の線引きは無い。現にこのクラスでもこれらの術師が混ざり合っている。授業も一緒、模擬戦も一緒、寮も一緒。こうやって他の術師への偏見を無くしていく目的なのだろう。いいアイデアだと思う。思うのだが。


退屈だ。

今日何度目かの呟きを心の中で吐き続ける。

レベルが低い。そう思った。

ここはほぼ強制的に小学生から入学させられるため、エレベーター式がほとんどだと言っていたのでそこそこ面白い授業かと期待していたのだが。


授業終了まで残り三十秒。だが一秒一秒が長い。まるでさっきの自己紹介前のような感覚だ。


15、14、13、12・・・・・。


そう言えば昨日追われてたときもゲートまでの距離を数えてたなぁ、などと下らないことが頭をよぎった。


10、9、8、7、6・・・・。


残り十秒を切った。早く追われ早く追われと念じ続ける。



5、4、3、2、1・・・・・。


「ゼロ」

キーンコーンカーンコーン。


呟くと同時に終令がなる。号令をして教師がでていく。授業が終わった。


「終わったー・・・」

「おつかれー」

机に突っ伏す俺、苦笑しながら振り返るライラ。

「昼休み終わったらまたあるんだけどね」

と、紅葉。うげぇ、まだあんのかよ。

「昼飯どうする?俺腹減ったわ」

突っ伏したままポツリと呟く。早くこの体力を回復しなければ午後まで持たない自信が俺にはある。

「あ、ちょっと待って、もう少し―――」

紅葉が言い終わる前に教室のドアが勢いよく開かれた。クラス中がそれに注目し、俺たちもそちらに振り向く。

黒髪を肩ぐらいで切りそろえ、前髪も揃えた可愛らしい少女が息も絶え絶えに立っていた。

その少女はこちらを見ると小走りにやってくる。


「悠お兄ちゃ〜〜ん!!」

「げふっ!?!?」

いきなり飛びついてきた。お陰で俺は真後ろから倒れ、頭も強く打った上に鳩尾に頭が入ってしまった。

きっと俺の頭には多数の星、またはひよこが回っていることだろう。


「さ、桜っ!!悠ぐったりしてるっ!!!」

「わわっ!!どうしようお姉ちゃん!?」

そこからどいてくれるだけですごくありがたい。

テンパっているこの少女は一葉と紅葉の妹の波風桜(なみかぜ さくら)。おっちょこちょいなんだか確信犯なんだか天然なんだかよくわからない子だ。

現在、俺の上、もっといえば鳩尾に桜が座っている状態。桜が動く度に膝が入ってもの凄く痛い。

だが、幸か不幸かこの体制だと桜のスカートの中身が見えてしまいそうなのだが。

(いやいやいかんだろ!?相手は桜だぞ!?)

妹のように接してきた桜にそんな下心を向けていいはずがない!!いくら美少女だからといってもこれだけは譲れないっ!!


「あっ!ご、ご、ごめんなさいっ!!」

するりと俺から降りる桜。

ふぅ、危なかった。色々な意味で。


「ご、ごめんねお兄ちゃん。お姉ちゃんに念話でお兄ちゃんが帰ってきたって聞いていてもたっても居られなくて・・・・」

上目遣いで見つめてくる桜。そんな捨てられた子犬みたいな目で見つめられると怒るもんも怒れないではないか。


「・・・いや、俺も突然いなくなったりして悪かった。心配かけた」

頭を下げる、すると再び桜に抱きつかれた。

「・・・もうどっかいっちゃ嫌だよ・・・もう、戻ってこないかもって・・・」

嗚咽を漏らす桜の頭を撫でてやる。柔らかい髪を梳くとミントの香りが広がってくる。俺は昼飯を蹴ってでもそのままでいると決意した。



☆☆☆☆☆




結局桜はすぐに泣き止み、俺、ライラ、紅葉、桜の4人は学食で昼食を取ることになった。

この学園は人数も尋常じゃないらしい。現にバカでかい学食内は人で溢れかえっている。俺たちは奥の空席を見つけ、桜とライラに場所取りを任せ、俺、紅葉は食券を買いに行くことになった。


「・・・ねぇ」

販売機の列に並んでいると紅葉は深刻そうな顔でこちらを伺ってきた。

あぁ、なるほど。


「なんで出て行ったのか、だろ?」

俺が先回りして言うとコクンと一回頷いた。


「別に。任務で出てただけだ」

嘘を吐いた。


「・・・・そう」

紅葉が背を向けると同時に俺の体を刺すような痛みを伴って罪悪感が沸き上がってくる。


ごめんな。


言葉にしなければわからないとわかっているのに俺は心の中で呟いた。



☆☆☆☆☆



俺たちはテーブルを囲んで昼食を取る。だがしかし・・・。

「なんかさっきからジロジロ見られて落ち着かねーな」

「そうかな?」

桜が可愛らしく首を傾げる。なんだかリスみたいだな。別にシスコンじゃないんだよ?

兄妹ではないから別にシスコンではないのだろうがそれはそれ、これはこれだ。

因みにみんなのメニューは桜と紅葉が鮭定食、ライラが肉うどん、俺がエビフライ定食だ。


「そりゃー、高嶺の花と今まで数々の男共が挫折してきた波風と中学トップの美少女の桜ちゃんと一緒に昼食なんて、この学園都市在住の生徒に喧嘩売ってるようなもんだしな」

「あー、納得」

この幼なじみ二人に適う美少女なんてそうそう存在しないだろう。彼氏の一人や二人できてもおかしくないんだがな。

「私ってそんなに話がたいかしら?」

「多分な。俺は小学からずっと同じだったから気にならないけど」


紅葉が不満そうにライラを睨む。そうか二人は小学から一緒・・・・・。


「は!?マジで!?」


何?ってことは彼氏彼女てきな関係でも――。


『違うっ!!』


「うぉっ!?」


思考を読まれただと!?身を乗り出し、二人共顔を真っ赤にしながら詰め寄ってくる。え、エビフライが落ちるって!!


「なんで私がこいつと付き合わなきゃならないのよ!!」

「そうだぜ!!好きだったのは中二までで、今はどうも――」


場の空気が凍った。いやマジで。自分の失体にようやく気付いたのか、赤面を通り越して蒼白になったライラに俺は慈愛の笑みを浮かべる。


「ライラ」

「ゆ、ゆうき〜」

涙目ですがりついてくるライラ。

「後でゆっくり話を聞かせてもらおうか♪」

「・・・・・・・イィィィヤァァァァ!!!!」


食堂内に絶叫が響く。



俺の笑顔は無慈悲な天使のそれだった。



☆☆☆☆☆




「・・・・俺が惚れてたのは小5のときだった」

精気の無い瞳で罪を告白するがごとく一方的な恋バナが始まった。


場所は寮の俺の部屋。

授業が終わって放課後、ミレア先生に寮について聞いたところ、1708号室を使っていいとのこと。偶然にもライラの隣で、この真上が紅葉と桜の(姉妹ということで同室)部屋だ。

そんな俺たちが何故俺の部屋に集まっているのかというと、ライラの暴走によって思わぬいじりネタを見つけたからである。


手筈はこうだ。

まずライラを捕獲。止めに来た紅葉を魔法で拘束。実にシンプル、そして堅実的だ。

予定通りライラを捕獲し、紅葉を拘束。部屋の隅でウーウー唸っている。桜はというと、意外にもこの手の話が好きなのか目をキラキラさせてライラの話を聞こうとしている。


そして色々尋問――もといいお願いをしたらすんなり口を割り出したのだ。


「その頃の紅葉は、すげー明るかったんだ。一回聞いたんだ、なんでそんなにテンションたけーのかって」

「波風」って呼んでたのに今は「紅葉」なんだな、と思ったが口にはしない。


「そしたらさ、あいつ『王子様が助けてくれたの』、って嬉しそうに言ってさ。そんときはその誰とも知らないやつに嫉妬したよ。でもいつか俺が紅葉を守ってやるって決心して対抗心燃やしたっけな・・・」

自嘲気味になってきたライラ。なんだかかわいそうに思えてきた。それにしても王子様ねぇ、そんなやついたのか?


「でも、中二んときには変わっちまって、いつも寂しそうに俯いてたんだよ。表面は笑ってるけど内心は泣いてる。そんときに確信した。あいつがどこかに行ったんだなって」


だんだんシリアスになってまいりました〜!

さて中二ね・・・俺と同時期に紅葉の前から消えたやつってことか。


「こうなったら俺が紅葉を守ってやる。ついにその時が来たって思って、思い切って告白してみたんだ」


おぉー!!


「結果は見事撃沈。そんときのセリフがこりゃまた傑作で『私はあの人を待ち続けるから』だってよ。そこで俺の初恋は終わっちまった」


話終えると魂が抜けたようにその場でボーッとしだすライラ。紅葉のほうは・・・・・。

「おーい、紅葉?」

「・・・・・・」

返事がない、ただの屍のようだ。

桜はというと、うっとりと肌をツヤツヤさせている。よっぽど満足だったんだな。


こうしてこの第1回恋バナ選手権は幕を閉じた。



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