episode 62 宿題
更新ペース戻ってきて、作者としてもとても嬉しい限りです!!
こんな更新不定期な作者を見捨てないで頂き、ありがとうございます!!
明日は過去編を更新する予定です。
書ければ、本編も更新します。
それではどうぞ。
楽しいことは直ぐに過ぎ去っていく……そんなことを思ったことは無いだろうか?
それは精神面がそう感じるのであって、実際にはそんなことは起こっていない。
だが、やはり人間という動物は精神的な感情に左右されやすい。つまりは実際には起こり得ないとわかっているのに、そう感じてしまうということだ。
まあ、細かい話は俺も好きではないのだが、取り敢えずはこれだけ覚えておいてくれればいい。
学生にとって、夏休みは掛け替えの無い物だ。
……え?当たり前だろって?
はっはっは。わかっていないな。つまりはこういうことだ。
……宿題が終わっていない。
諸君たちも経験したことはないだろうか?
「あはは、夏休みはどうせまだまだあるしー、後で片付ければ問題ないっしょ?」
そんなことを思っていたらいつの間にか夏休み終了まで後数日。
それだよ。それ。
そんなお気楽思考でいること数週間。
現在、夏休み終了まで後……1日。
始業式を明日に控えた俺たちは今、血反吐を吐く思いをしていた。
☆☆☆☆☆
「おぉぉりゃああああ!!」
「おー、頑張れー頑張れー」
「ユウも真面目にしなさい!!」
「いてっ!!」
俺たちは今、最後の山場を迎えようとしていた。
場所はいつもの通り俺の部屋。聞いた話によると、もうご近所様もこの騒音に慣れて頂けたようで、気にせず過ごすことができているらしい。
……いや、なんか本当にごめんなさい。
そんなこんなで、今日来ているのは紅葉、ライラ、遥、綾芽、里香の5人。
桜の方は友達と同じく勉強会らしく、和彦とセシルは一旦実家に帰っているらしい。夜には戻るとか。
ニコルはいつも通りどこにいるのかわからないし、一葉は今都市庁で書類と睨めっこ中。
というわけで、宿題を残している組――俺、ライラ、綾芽、里香は、収納机を出してきて4人で囲んでいる状況にある。宿題を携えて。
残り2人、紅葉と遥はというと、まあお目付役というかなんというか、ようは監視という役割で落ち着いているらしい。現に先程ライラを茶化していると叩かれた。
「あー、つまんねー」
「おー、ゆっきー余裕だねぇ」
「ふっ、諦めてるのさ」
「無駄にかっこよく言わない!」
俺が里香に決め顔でそう言うと、すかさず紅葉のツッコミが入る。
最近、キレが良くなってきている気がする。
それは一先ず置いといて、
「まあ、実際は冗談なんだけどな。ホイ、1抜け」
「「「「「は!?」」」」」
俺が放り投げた宿題に、全員が目を見開いて注目する。
全員が同じタイミングで恐る恐る覗き込むと、そこには一言一句間違いの無い、完璧に仕上げられた宿題があった。
「う、嘘ぉ……」
「ゆ、悠希さんが一番喋ってた気がします……」
「こ、これ、全部答えあってますよ?」
「あ、あれ?予想じゃ、なんだかんだでユウが一番最後だと思ってたんだけどなー……」
「失敬な!!俺はやるときはやる男なんだぜ?」
里香の呻くような呟きに始まり、綾芽が落ち込み、遥は信じられないようなものを見る目で、紅葉は苦笑しながら目を逸らすなど、皆思い思いの反応をとっている。
その中でも1人、黙っていたライラは、唐突に机をバンッと叩き、俺へと詰め寄ってきた。
―――そして。
「お前……誰かの宿題盗んだんだろ?」
「……は?」
いきなりの話についていけない俺。だが、そんなのお構いなしにライラは納得顔で頷いた。
「可笑しいと思ったんだよなー。お前が真面目に勉強するなんてありえないだろ。はは、想像しただけで笑えて……痛い痛い痛い!!」
「人聞きの悪い……さてライラ君、君はどの腕を折られたいんでしょう?右腕?左腕?それとも頭蓋骨?」
「待て!!素が出てるぞ!?というか最後のは腕じゃな、ちょ、いや、待って、イィイイヤァアアアア!!」
……この日、ライラの断末魔の叫びは、近所のクラスメートにいつものこととしてスルーされたとか。
☆☆☆☆☆
「全く、そんな卑怯なことするわけねーだろ。ていうか、俺の宿題が白紙なのお前も見ただろうが……」
「はい、スミマセン」
復活したライラを正座させ、今は説教中。
別に自慢するように言うことでも無い気がするのだが、それはそれ、これはこれだ。
「で、でも悠希さん?本当にあの短時間でどうやったんです?あれだけで終わるとは思えないんですけど……」
だが、やはり気になったのか、綾芽がおずおずと切り出してくる。
俺はそんな反応に「ああ……」と頷き、惜しげ無く答えた。
「といっても身体強化でペンの動きを速くしただけだぞ?答えは問題見れば解るし」
「ちょっと待って。整理する時間を頂戴。少しプライドをズタズタにされた気分だから」
何気なく答えたつもりだったのだが、はて?何故紅葉は胸を抑えて拳を震わせているのだろうか。
不思議に思って周りを見るも、皆反応は違うが微妙な表情をしている。
「悠希、お前って頭までチートなんだな」
「は?何言ってんだ?」
また訳の分からないことを言うものだ。
そう思ったが、周りの皆は納得顔で何度も頷いている。正直、意味が分からない。
「……つまり、悠希さんは問題を見れば答えが解る。そういうことですか?」
「ああ、そうだけど?」
「……考えずに?」
「え?覚えてれば考えずに済むんじゃね?」
「そうなんですけど……でも、その……」
遥の疑問に逆に首を傾げる俺。そんな態度に複雑そうな顔をしながら視線を紅葉へ。
紅葉はと言えば、ダメージから未だ立ち上がっていないのか、眉間を抑えて唸るように呟いた。
「……みんな。ユウはそういう物だったということにしときましょう。はい、手を動かして」
「お、おう」
「はい……」
「うぅ……」
「はあ……」
「え、何この反応?俺なんか悪いこと言った!?」
俺の全力の叫びは、しかし全員に冷たい目で見られてスルーされるという悲しい結果になるだけだった。
……泣いて、いいですか?
部屋の隅で落ち込む俺を無視して、皆思い思いのにペンを走らせていく。
こうして、夏休み最後の日はなんとも言えない光景を残しながら過ぎ去っていった。
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