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episode 60 休日(前)




夏の日差しが肌をジリジリと照りつけ、潮風が鼻腔をくすぐる。


「なんで、こうなった?」


体中の汗腺という汗腺から汗が吹き出る中、俺は呆然と呟いた。――海パンとパーカーを着た状態で。


「仕方無いよ。だってライラだもん」


そんな俺の疑問に、隣に立っている和彦が苦笑しながら返す。因みにこっちも海パンにパーカー姿だ。



いや、本当に何が起こった?






――――数時間前――――





「よし!!海に行こう!!」


暑さで頭まで逝ってしまったのか、ライラは大仰にそう言った。


横では「ああ、可哀想に」と、俺と同じようなことを思ったのか、セシルが大変可哀想な物を見る目で見ている。ただ、こちらは本気で心配しているらしい。


今日もいつも通り、俺の部屋に朝からみんなで溜まっている。ただ、今日の人数は8人と、遥たち3人娘を追加した次第だ。大変部屋が狭く感じる。



俺のベッドに座っていたライラが、いきなり立ち上がったかと思うと、そんな妄言を吐き出したのがことの始まりだった。



「おお!!いいねぇ海ぃ!行こぉ、行こぉ!!」


と、そこで意外に乗り気なのが1名。今日ものほほんとした声で場を和ませる里香である。


里香もベッドに飛び乗ると、ライラとハイタッチして勝手に盛り上がっていく。どうでもいいが、あんまりバタバタ暴れないでくれ。壊れる。


「ま、まあいいんじゃないでしょうか?海……」


「そ、そうですね。いいですよね。海……」


ここでどういうことか、綾芽と遥までも賛成し、何故か俺をジッと見てくる。

その後、何を思ったのか、ボフッ!という効果音と共に赤面。へなへなと倒れ込んだ。


「お、おい!?どうした2人と――」


「駄目だよ悠希!今近付いたら逆に悪化しちゃうから!」


「そ、そうなのか?」


いきなり倒れた2人へ駆けつけようとするが、和彦から引き止められる。その顔は真剣半分、呆れ半分といった具合に微妙な表情だ。

兎にも角にも、医者の息子である和彦がそう言うのならそうなのだろう。何か納得が行かないが引き下がることに。


「んー、私も行きたいかも。海」


「お姉ちゃんが行くなら私も行きたい」


そんな中、波風姉妹までもが陥落。賛成6人。この状況は芳しくない。


と、いうのも、未だに他国からの使者が学園都市に在留中なのだ。そのため、こうやって引きこもっているわけであって、外に出るわけにはいかない。


その辺の事情までは話していなかったためにツケが回ってきたのか。今、俺はかなりのピンチに瀕している。


(ふっ、面白いじゃねーか)


だが、そこは俺。

こんな危機的状況でも何のその。すぐにこの案をボツに――――



「いいんじゃない?行くわよ、海」



――――唐突に、部屋のドアが開けられたかと思うと、そこには浮き輪と茶色いバケットを携え、オマケにサンダルを履いた一葉の姿があった。


「は!?一葉!?でも――」


「ああ、あの邪魔なクソオヤジたちはもう自分の国に帰ったわよ」


それから明らかに不機嫌そうに顔を顰める。


「なんなのよ、こっちは復興の書類纏めるのに忙しいっていうのにべらべらべらべら……あー、疲れた」


どういうことだろう。

後ろで黒いオーラが見えるのだが気のせいか?



……気のせいだよね?



延々と毒を吐き続ける一葉。その言葉には、蓄えられた鬱憤のせいか、棘というより刃が含まれていた。


……いや、ほんとなんかゴメンナサイ。


なんだか自分が悪いような気がして、ソッと目をそらす。周りはなんの話なのか首を傾げていたが、直に一葉の賛成でこの案は即決された。



「よーし!!じゃあニコラちゃんとレイも誘っていこうぜ!!」



……近くの部屋の皆さん。

毎日うるさくて本当にすいません。





――――――――――――





そして現在。

やはりと言うか、レイは来なかったために男子は俺、ライラ、和彦の3人。女子は意外にもニコルが来たので、紅葉、桜、一葉、ニコル、綾芽、遥、セシル、里香の8人。


……何、この人数比?



それは兎も角として、さっさと着替えた俺たちは、女子の着替えを待っているのだが、


「……遅い」


不満そうな声音で、ライラはぶつくさと呟く。因みにこちらは海パン一丁。


だが、まあ言っていることも解らなくはない。

俺たちは、着替え終えて30分はこうして突っ立っているのだ。


女子の着替えは長いとは言うものの、さすがに水着程度でこれは長すぎでは無いだろうか?



既に海は目前。

遊び盛りの少年たちにとって、この待ち時間は苦痛だった。

浜辺から聞こえる、子供から大学生程の人たちまでのキャッキャッとはしゃぐ声が耳に届き、早く行きたくてうずうずしてしまう。




「お待たせぇー」


「遅っ…………い?」


突然聞こえた里香の声。それに反射的に振り返ったライラは――いや、俺たちは言葉を失ってしまう。



――そういえば忘れてた。こいつら美人なんだった……。



日差しを受けて歩いてくる8人は、比喩抜きにして輝いて見えた。


真っ先に駆けてきた里香は、そののほほんとした雰囲気にあった黄色のワンピースの水着。彼女の水色の髪と合っていていつもより笑顔が眩しい。


その後ろに続くセシル。その身体に纏う黒のビキニは、高校生より少し発育したボディーを強調させ、腰回りに巻かれたパレオは彼女をさらに大人っぽく見せている。



……なんだかこの感想は変態よりな気がするのだが。

気にせず次へ。



「り、里香、セシル!待ってよー!」


セシルたちを慌てたように追いかけてきたのは遥。この場の誰よりも豊満な“それ”を包んでいるのはピンクのビキニ。その上にパーカーを着てはいるが、前を隠していないために逆に、なんというか……エロい。男たちは悩殺だろう。


その後ろを黙々と歩くのは、これは対照的に身体の凹凸が少ないニコル。

だが、その姿はあろうことかスク水だったのだ。マニアが見れば泣いて喜んだに違いない。


ニコルの隣でモジモジしているのは、緑色のビキニに同色のスカートのような水着を着た綾芽だ。彼女の藍色の挑発はキチンと後頭部で結われており、その綺麗なうなじが露わになっている。今日はその上目遣いに何人の男たちが散っていくのか。



……いや、待て俺。本当にこれ以上やると引き返せなくなるような気がする。

もう変態への扉を開きそうになっているような……。


隣ではライラが鼻血を出しながら放心している。


(――ッ!俺はこんなのになりたくは――)


「何してるの?ユウ」


決死の思いと少しの残念をもって、なんとか視線を外す――が、投げられた言葉に反射的に振り向いてしまった。



ああ、もういいや……。



首を傾げる紅葉の姿は赤のビキニにホットパンツという格好だった。遥程とまではいかないが、豊かに膨らんだ“それ”は水着の中で窮屈そうにしている。


その隣で恥ずかしそうにしている桜は、可愛らしい水色のワンピースの水着を身に纏っていた。胸元に飾られたリボンがさらに可愛らしさを引き立てている。


そして、流石は大人といったところか。我らが苦労人一葉は、純白の競泳水着を纏い、高校生組より一歩違う色気を醸し出している。



見る限り美人、美人、美人。

少し、いやかなり青少年には刺激が強すぎるかと思われる。目のやり場に困るというかなんというか……。


つまり何が言いたいのかと言うと、



「悠希……鼻血、出てるぜ?」


「バカだな、これはコーラだぜ」


…………ごちそうさまです。


「皆さん、お綺麗ですよ」

「「ここに猛者が居た!?」」



にこやかにそう言う和彦に、俺たち2人は驚愕と共に認識を改める。コイツはただ者では無い、と。ある意味。



そうして、俺たちは久し振りの休日を謳歌していくのだった。










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