episode 5 自己紹介で再会
その後、さんざんいじられてげっそりしたヘイル先生、いじりまくってつやつやしている黒髪女性教師――白貝清子先生――と、柔らかい笑顔を浮かべる水色髪の女性教師――ミレア・フォーカス先生――、俺、一葉で校長室へ向かった。
おっさんこと校長は最初俺が来たとき仏頂面を崩してニタニタしていたのだが、息子が負けたことを聞いて顔面蒼白に。終始不機嫌だったおっさんに、今度は俺がニタニタする番となった。
結局俺の転入は認められ、今は俺の担任となったミレア先生に教室へと案内してもらっているところである。ちなみに一葉は校長室で話があるとかどうとか。
今はHR間際なので生徒の数が少ない。前を歩くミレア先生は柔和な笑みを浮かべたままだ。
俺たちはそのまま時折会話を混ぜながら教室へと向かった。
☆☆☆☆☆
「ちょっと待っててね」
そう言われて何分たった?いや、実際の時間はそんなにたっていないはずだ。じゃあなんてこんなに時が進むのが遅い。
緊張している?
ま、まっさかー。国際会議に出席した時でも緊張なんてしなかった俺に限ってそんなことはないだろー。あの時は黒スーツの怖いおっちゃんたちに睨まれてたのに。
あ、あれ?
なんか足がカクカクしてきたぞ? ち、違う。断じて違うぞ。これは武者震いだ。そう、これから行われるだろう強敵たちとの激戦―――。
「華瀬くーん。入っていいわよ」
「は、はい!!」
うわやばっ。声が裏変えっちまった。
教室内からクスクス、ハハハ、などと笑い声が聞こえてくる。くそぅ、お前らも同じ立場に立てば俺と同じようになるんだからねっ!
(ツンデレか俺はっ!!・・・・・はぁ)
つい自分にツッコミを入れてしまった。もうどうにでもなれ。俺は意を決して教室のドアを開けた。
「・・・ん?」
どうした?なんでみんなそんな口を開けて唖然としてんだ?
(え、ばれた?)
だが俺はマスコミの取材なんかは断っていたから外見だけでバレるはずがない。
頭に疑問符をいくつも浮かべる俺だったが、すぐに変化は起こった。
「き・・・」
「木?」
「きた〜〜〜〜!!!!」
「うぉっ!?」
いきなりの絶叫に比喩ではなく教室が揺れた。
「え?なになに??」
あっと言う間に俺の周りに生徒が集まりだした。その中心は女子ばかり。
「あ、あのっ!彼氏とかいますか!?」
「あ、ずるい真由!抜け駆けは許さないよ!」
「猿ばかりのこのクラスにとうとう恵みが。神様ありがとう・・・」
「泣かないで結衣。これからは猿どもなんて気にしなくてすむんだから笑顔でいましょう」
『んだとこらぁぁ!!』
男子の怒りを物ともせず、というより平伏させて騒ぎ立てる女子。意味がわからない。
もう頭の中は混乱を通り越してパニックだ。もうなにがなにやら。
そんな中一人の女生徒が人垣に埋もれながら俺の前にやってきて――。
「え?」
―――いきなり抱きついてきた。周りからは悲鳴が上がる。あれ?・・・。
長い黒髪、表情は見えないが覚えのある髪留め、俺よりも頭一つ小さい背丈。
ポン。
いきなり胸を叩かれた。大して痛くは無いのだがその拳が俺の心に響いた気がした。
「も、紅葉!?」
「・・・悠のバカ。何も言わずに出て行って。心配・したん・・だから」
切れ切れに発せられる澄んだ声。覚えてる、いや忘れるはずがない。
「・・・ごめん」
「・・・バカ」
顔を埋めてくるこの少女は波風紅葉。一葉の妹にして俺の幼なじみ。といってもそこまで付き合いが長いわけではない。
俺は一時期波風家に居候させて貰っていた。諸々の理由で情緒不安定になっていた俺を引き取ってくれたのが一葉だ。
そんなわけで俺は波風家に大変ご恩があるわけなのだが、その話はまたの機会に。
そんな感慨に浸っていると、周りの生徒は何が何やらといった感じで静まり返っていた。
「あー、すまない。自己紹介してなかったな。俺は華瀬悠希。紅葉の友人だ。これから一年間よろしく頼む」
先程の緊張などどこ吹く風、俺は場を収めるために改めて自己紹介する。そんな俺の対応のお陰か、生徒たちは平静を取り戻したのか「よろしくねー」「よろしく」などと返してくれた。
予想外な出来事が起こったがこれから騒がしくなるな、などと呑気にも思った俺だった。