episode 58 虚勢の仮面
遅くなってしまってすみません((汗
最近上手い文字が浮かばなくて……
スランプですorz
↑はい、言い訳ですね。
なるべく早くできるように努力します!
また、同時投稿中の“表と裏”もよろしくお願いします!
では、『犯罪者は英雄?』をお楽しみください。
重苦しい沈黙が室内に充満する。
既に、病院特有の消毒液の匂いも気にならなくなっていた。
――ファランクスの能力の代償、それは命。
所持者の命令を実行する、まさに王の剣。
絶対的な力は自らの魂をすり減らし、やがては全てを喰らう貪欲な剣。
使えば使うほど死へと近付く。
とはいえ力を得るにはこれぐらいの代償は当たり前だろう。
――俺は英雄ではない。ましてや王などではないのだから。
王の命令は王によるものでなければならない。
それを、犯罪者である俺が行うことはできない。それを代償があるとは言え、扱うことができる。それは俺からすれば安い代償だ。
この力を使うことに不思議と抵抗感はない。
それは自殺願望か、はたまたただの身の程知らずか、それとも両方か。
どちらでもいい。
やつを殺せるのならばなんだって使ってやる。
生物としての生への執着心など、とうの昔に置いてきている。
今更死ぬのが怖いなんて思ってなどいない。
俺は俺のために、この剣を振るうだろう。
例え、誰が止めようと――――
「――悠希……もうファランクスを使わないで」
気付けば一葉が真剣な眼差しを俺へと向けていた。
右を見ると、何も言わないがニコルもこちらへと視線を向けている。それは、一葉と同じ種類の眼差し。
――悪い。
「わかってるよ」
嘘を吐いた。
彼女たちに対して、嘘を吐いた。
――俺は多分、これから何度もこの剣を使うことになる。
「けど、このことは紅葉たちには内緒にしといてくれ」
――知れば、この剣を使ったときに止めに入るだろうから。
――そうなったら、躊躇うかもしれない。
――泣かせてしまったら、心が揺らいでしまうから。
「……わかったわ」
そう答える一葉はどこか悲しげな表情をしているように見えた。
恐らくは気付いているのだろう。俺が何を考えているのか。
精神系統魔術師だから心を読むこともできるだろう。
だが、それをしなくても彼女は気付いている。身近に居たから気付かれてしまう。
それでも止めようとしないのは、このときの俺は梃子でも動かないと知っているからか。
知っているからこれ以上何も言わない。紅葉たちにも何も言わない。
それは歪んだ信頼。
端から見ればそう言われるだろう。実際に歪んでいるのだから。
それでも信じている。
例え歪んでいようとも、俺は一葉を信じている。
この都市に居られているのだって彼女のお陰なのだから。
「さて、暗い話はこれぐらいにしましょう!」
手を叩くと同時に、明るい声で一葉は場の雰囲気を変える。その表情に陰りは見られない。
「実はもう1つ言わなきゃならないことがあるの」
「ん?なんだ?」
「そうねえ……」
そう言うとトコトコと俺のもとへとやってきて、そして――
――バシィィン!
病室内に甲高い音が響いた。と同時に頬に衝撃が走る。
……あれ?デジャブ?
そんな疑問が浮上したが、訳も分からず混乱する俺に一葉はにこりと笑みを浮かべている。
「……ライラに“あんなこと”言って、また避けようとしたでしょ」
「…………」
責めるような声音で投げかけられる言葉を否定できなかった。
――俺は、ライラたちを避けようとした。いや、この学園からも、もう……
「“この学園からも、もう離れよう”とか思ってるんじゃないでしょうね?」
「――ッ!!」
思っていたことを先回りされたことに飛び上がるように驚く。
視線を一葉に合わせると、厳しい視線をこちらへ向けていた。
「大方、“狙われるかも知れないからもう迷惑はかけられない”ってとこでしょうね」
「…………!」
図星を突かれて言い淀む。
これ以上迷惑をかけられない。一葉にも、紅葉たちにも、この学園にも。
だから、俺はいない方が――
「ふざけるな!!」
途端に胸倉を掴まれる。
一葉の顔が自然と近くなり、その瞳に映る怒りから目を逸らせない。
「また逃げるの!?“あの時”みたいにまた私たちから逃げ出して、かっこつけてるつもり!?」
掴まれている拳に力が入った気がした。
一体何をこんなに必死になっているのだろうか。
俺は、居るだけで周りの迷惑になる存在。
「自分が周りに迷惑かけるって思い込んで……本当にそう思ってる!?」
「何、言って……」
「本当は自分が傷つきたくないだけなんでしょ!?」
「――ッ!!」
一葉の言葉が心に響く。
心なしか、何かが軋むような音が聞こえた気がした。
「違――」
「人に嫌われて、罵られたくなくて逃げてるだけよ!!」
「違うッ!!」
「違わないわ!!」
ギシギシギシギシと軋む音。一体これは何なのか。
答えは簡単。
俺の心が軋む音。
言い訳で塗り固めていたメッキにヒビが入っていく音。
否定の言葉を否定され、逃げだそうにも逃げられない。
――聞きたくない。
――認めたくない。
崩れそうな心の壁が、徐々に音をたてて崩壊へと近づいていく。
ここは病院だと言うのに、大声が口から漏れていく。
「俺は犯罪者だから!!殺戮者だから!!俺はあいつらに関わっちゃいけないんだよ!!」
「嘘よ!!じゃあなんでライラたちと関わったの!?」
「ッ!それは……」
わかってた。
全部わかってて、俺は逃げようとしていた。
だから……ここで言葉が出てこない。
「あんたは自分が人殺しだって理由付けして、拒絶されたくなくてただ逃げてるだけよ!!」
「違う、違う!!」
「だけどあんたも友達が欲しかった!!だから最初からライラたちを遠ざけようとしなかった!!そうでしょ!?」
「何が分かるんだよッ!!」
軋む音がより鮮明に、より大きく。
崩壊は連鎖的に起こり、言い訳のメッキはぼろぼろ崩れ落ち始めた。
そこから溢れた感情が漏れだし、口から勝手に吐き出される。
「お前に何がわかる!?返り血で汚れた俺に、一体どうしろって言うんだよ!?」
喉が熱い。
言い訳のメッキが剥がれる。剥がれて落ちていく。
漏れ出す本音はとめどなく溢れ、溜め込んでいた思いが次々と吐き出される。
「人を殺して、兄さんを見殺しにして、それを知ってあいつらがどんな顔をすると思う!?」
痛い。
心が痛い。
嫌われたくない。
拒絶されたくない。
化け物を見るような目で見られたくないんだ。
「どうすればいいんだよ……!なぁ、俺は一体どうすれば……」
建て前で取り繕って、被ってきた仮面も全て剥がれる。
「助けてよ……“一葉姉さん”……」
何もかも、今まで培ってきた“虚勢の仮面”の何もかもが剥がれた。
辛かったんだ。
1人で居るのが辛かった。
拒絶されることが辛かった。
周りの、まるで化け物を見るような目が辛かった。
人殺しであることが、堪らなく怖かった。
だから今まで虚勢を張ってきた。
壊れそうな心を必死に繋ぎ止めて、歪みながらも人を殺してきた。
それでも、心の中では誰かに助けて貰いたかったんだ。
気付けば瞳から涙がこぼれ落ち、嗚咽が漏れ始める。
そんな俺の肩を、二人分の腕がソッと抱きしめ、耳元でまるであやすように囁いた。
「辛かったでしょ……もう我慢しなくていいのよ」
「……悠希さん、今まで気づけなくてすみません」
耳元で、一葉とニコルの声が囁かれる。
一葉はまるでは弟を愛しむような声音で、重傷であるはずのニコルは、普段のような抑揚のない声ではなく、どこか暖かい声音で。
「ニコル、傷、開くだろ……うっ……」
最後に精一杯の“虚勢”を張るも、もう我慢の限界だった。
「うっ、う、ああああああ!!」
堪えなくなった涙が嗚咽と共にとめどなく溢れる。
メッキの剥がれた冷たい心を、2人の暖かさがソッと包みあげた。
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