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episode 56 真実



「えーっと、つまり遥は学年2位で、里香が9位、セシルが15位で、勝ち進んでいたから別々のところで試合してた……そういうことか?」


「「「はい!(そだよぉ)」」」


訳が分からず困惑していた俺は、和彦の懇切丁寧な補足説明のお陰でようやく3人が別々だった理由を理解した。


ただ、


(…………え?まじで?)


こんな具合で内心では信じられないと思う気持ちもあったのだが、さすがに本人たちの前で言うわけにもいかず自重することにした。


現在、病室内では一葉、紅葉、桜、ライラ、綾芽、遥、セシル、里香の8人と、俺、ニコルの2人がベッドで寝ている状況となっている。

2人用の部屋にこれだけの人数が押しかけるのは当然予測されていないため、狭い室内では人がひしめき合っていた。


混沌(カオス)だ……)


そう、部屋の中は既に混沌と化していた。

幾ら何でもこれは看護師さんに注意されるのではないだろうか?


そんな心配を余所に、一葉がこちらへと近付いき、そして


「で、今回の件の詳細だけど……聞きたい?」


いきなり本題を切り出した。

恐らく、この言葉はここにいる全員に向けられたものだろう。

周りの空気が一瞬にして重苦しいものへと変化する。

俺は全員の顔を確認すると、ゆっくりと首を縦に振った。


「そう……」


そうして、一葉は語り出す。


「まず負傷者ね。重傷者はおよそ150人、でも全員命に別状はなかったそうよ。軽傷者の数は一万人、ってとこかしら。そして死亡者だけど――」


そこで一葉は言葉を切る。誰かが息を呑む音が聞こえた。


「――――ゼロよ」


暫し、沈黙が流れた。


「――は?」


……ゼロ?

この場の全員が口を開けて呆けている。

聞き間違いではないかと疑い始めた頃、一葉は再び言い放った。


「死亡者は0人。都市民全員の名簿で確認済みよ。少なくとも都市の住民は誰一人として殺されてないわ」


「は?え、ちょ……」


困惑する俺。周りの反応も同様で、どうやらまだ公開されていない情報だったということが窺える。問題はそこではないが。


「じゃ、じゃあ、あの人たちはなんでここを襲ったのでしょうか……?」


おずおずと手を挙げて言うのは綾芽さん。やはり彼女の表情にも困惑の色が窺える。

その質問に一葉はそっと目を伏せ、首を振った。


縦にでは無く、横に。


「端的に言うとわからない、ね」


「そ、そんな……」


信じられないとでも言わんばかりに目を見開く綾芽。


襲撃された理由が解らない。

それは、また襲撃されるかすら解らないということ。


術師だと言っても彼女たちはまだ一般の高校生だ。そんな状況に不安を抱かないはずがない。


徐々に取り乱し始める女性陣を尻目に、俺は一葉に話を促す。


「で?その辺の下っ端捕まえて吐かせても、なにも出なかったか?」


もはや実証された問いに、やはりというべきか一葉は首を横に振る。


ただ、続きは俺の予想とはまったく違った。


「正確に言えば吐かせられなかったの」


「は?なんで?」


「全員死んだから」


「…………!」


絶句する俺たち。

一葉は眉一つ動かさず淡々と続ける。


「歯にね、小型爆弾を入れられてたみたいなの。情報が漏れる前に死ねるように。ただ、最後の最後で躊躇う人も居たみたいだけど、あいつらが――イリヤたちが離脱したあとに遠隔操作で全員ボンっ、てね」


「…………下衆(げす)が」


一葉の言葉に対する返答は、自分が思った以上に低く、殺意を孕んだ声だった。


笑えるではないか。

自分はアリーナで沢山の人間を虐殺したというのに、何故怒気を放つ必要があるのか。

もとより全員皆殺しにする予定だったのだから手間が省けて良かったではないか。


そう割り切るのは簡単だ。なのに、俺は割り切ることができない。


(ほんと、どうしたんだろうな……俺)


自身の心境の変化を自嘲気味に笑う。

すると、一葉がこちらをジッと見つめていたことに気付いた。


「?どうした?」


「あんたは話さなくていいの?」


「何を?」


「だからあんた自身のこと」


ここで、ようやくライラたちが反応を示した。

素早く俺のもとへと詰め寄る4人。より正確に言えばライラ、和彦、遥、綾芽の4人だ。セシルと里香は何がなにやらとばからに首を傾げ、一葉、桜、紅葉は苦笑しながら見守っている。


「そうだぜ!悠希、お前何であんなの隠してやがる!?」


「そうだよ!なんで複数保持者なんて大事なこと隠してたんだよ!?」


「え、何々?ふくすぅほじしゃ?」


「里香は黙ってて!悠希さん、無理にとは言いませんが教えては貰えませんか?」


「り、里香?泣かないで、ね?」


「悠希さんって、やっぱりあの――」


「ああ、もう!!ちょっと落ち着けよ!!あと遥、里香泣いてるぞ!?」


カオスだ。

いや、本当にカオスだ。


4人に詰め寄られ、捌ききれない程の質問の応酬。あまつさえ約1名が泣き出す始末。


部屋の隅で丸くなる里香の姿に密かな同情を抱く俺。いや、泣きたいのは俺の方だし。

セシルのあの動揺っぷりも今の俺には和むというもの。いや、だから俺も慰めてほしい。というよりこいつらを止めてほしい。


そんな中、現実から目を逸らし始めた俺の胸ぐらをライラが掴んだ。


「質問に答えろよ悠希。お前は何者だ?」


威圧感を醸し出すライラの表情に、俺は1つ大きな溜め息を吐き、そしてジッとライラの瞳を見据える。


そして、決定的な言葉を――発した。


「お前らの察しの通りだと思うぜ?俺は華瀬悠希。同姓同名でもなんでもなく、正真正銘の複数保持者、華瀬悠希だ」


大して怒鳴った訳でもないのに、俺の声は自然と部屋中に響き渡った。


「英……雄……!」


信じられないとばかりに呟くライラ。途端に腕の力が緩くなった。


「……その肩書きは好きじゃない。俺は――」


そこで一旦言葉を切る。

俺の言葉を半分予想してはいたのだろう。だが、予想はしていても衝撃は大きかったようで、セシルと里香を含めた6人は目を見開いたまま動きを止めた。

その間にライラの腕を放そうともせず、俺は目を逸らさない。


「――俺は、ただの大量殺戮者だ」


決して目を逸らしてはいけない。

これは俺の中のちっぽけな決意。


「犯罪者なんだよ。俺は」







ぽ、ポイントが777pt、だと……?


みなさま、応援本当にありがとうございます!!


それにしても777pt……とても縁起がいいですね。


犯罪者は英雄?はこれからも続きますが、これまで応援してくださった皆様に最大限の幸福を。


どうぞこれからも末永くお付き合いください。




天川流でした。






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