episode 54 幕引き
遅れてすみません!!((汗
急ピッチであげたので後で編集するかもしれません。
「王剣……ッ!」
突如色付けた剣を見て、男――セルゲイは驚愕の声を上げる。
(王剣……?)
知らない単語に首を傾げるが、しかし、ようやく自身の身体の変化に気が付いた。
「治って、る?」
そう、右腕の感覚が戻っている。
ピクリとも動かなかった右腕を上げ下げしてみるも、これと言った障害も感じられない。
感覚が戻っている。いや、ひょっとすれば前よりも研ぎ澄まされているかもしれない。
しかし、何故だ?
色々と腑に落ちないこともあるが、取り敢えずは保留しておくことにする。
今は目の前の男――イリヤに集中しなくてはならない。
見えなかったはずの剣を両手で握り、腰を落として構える。
鋭い眼光で見据える俺の視界の外で別の声がかかった。
「なんで王剣が!?まだ全部揃ってないのに!イリヤ――――」
「余計な真似するなよアレーク!コイツは俺の獲物だッ!」
視界の外でアレークと呼ばれた男がイリヤに何か言おうとするが、当の本人はそれを遮って釘を指す。
と、同時に動いた。
10メートルは離れていたはずのイリヤが、一瞬で眼前に現れたのだ。
本来であれば、この段階で斬り伏せられていたはずだろう。だが、今回は違った。
(――――見える!)
掻き消えたと錯覚するほどの速さで迫ってくるイリヤが今ははっきりと見える。
左からの薙払いを、持っている剣で受け止める。
――キィィン!
金属音が鳴り響き、魔力同士がぶつかり合い、辺りに突風を巻き起こした。
受け止められるとは思わなかったのか、驚愕に目を見開くイリヤ。周りでも同様の反応を示している。
だが、そんなもの関係ない。
「ハアアアアッ!!」
気合いと共に押し返し、そのまま斬りつける。
すると、今まで易々と避けられていたはずの斬撃が、僅かに服を切り裂いた。
「チッ――!」
舌打ちをしながら後ろへと飛ぶイリヤを確認しながら、俺もまた後方へと下がる。と、同時に首を傾げる。
(どうなってんだ?)
明らかに身体能力が向上している。
“小鳥”の剣閃を使っても捕らえることができなかったイリヤに、僅かとはいえ斬ることができたのだ。
例え右腕が使えるようになったとはいえ、それでも本来は掠ることすらできないはず。それなのに掠った。
(いや、ほんとにどうなってんだ?)
再度の疑問。
しかし、それに答える者はおらず、ただ漠然として“何か”が身体の中を駆け巡っているような錯覚に捕らわれる。
恐らくこんなことを考えられるのは幾分か余裕を持てているからだろう。落ち着けていると言ってもいい。
目の前に“アイツ”がいるのに、これはどういう心境の変化かと苦笑する。
「悠希ッ!後ろ!」
突然一葉が叫び声を上げた。聞き終わる前に真横へと飛ぶ。
破砕音が俺が元居た場所から鳴り響く。
アレークと呼ばれた男が槍――“ゲイ・ボルグ”を振り下ろしていたのだ。
「おい!お前らッ!」
「言ってる場合ですか!?私だってこんなに早く“覚醒”するなんて予想外なんです!取り敢えず回収しますよ!」
吠えるイリヤを、走り出しながら宥めるように言い放つセルゲイ。その声が多少上擦っている。まるで焦っているように。
「ジェネレート!」
言うと同時に光が溢れる。
セルゲイの手から光が消えると、そこには一振りの刀があった。
“ブリューナク”
それが刀の銘だったと記憶している。
白銀の刀身は、まるで見る者全てを凍り付かせるような美しくも寒々しい光を放っている。
“ゲイ・ボルグ”、“ブリューナク”、“ガラドボルグ”。
3人の伝説武器保持者に囲まれてなお、俺の心は落ち着いていた。
――大丈夫。あなたは死なないから。
脳内に声が響き渡る。
念話のように頭の中に響く声に、驚いて反射的に振り返る。
勿論振り返ってところで声の主が居るわけでは無いのだが。
(――ユリ?)
――さあ、望みなさい。あなたは望むだけでいいの。望めば全てが手には入る。
内心で尋ねるも、返ってきたのは暗示のようにも聞こえるセリフだった。
訳が分からず顔をしかめる俺だったが、その瞬間3人は動き出した。
――手に入れたいなら望めばいいわ。全て“ファランクス”が叶えてくれる。その代わり、“代償”は頂くけどね。
(“代償”?)
代償という言葉に引っかかったが、今は気にしている場合ではない。
3つの伝説武器は、もうすぐそこまで迫っていたのだから。
――さあ、望みなさい。そして“王の命令”を。
「消えろ」
大して声を張り上げたわけではない。寧ろ小さな声だった。
それでも、その小さな声は辺りに響いた。
「「「なッ!?」」」
その直後、驚きの声が上がった。
振り下ろされかけていた武器が、煙のように消えたのだ。
目を見開く3人を尻目に、俺はファランクスを振り上げた。
――斬。
目の前まで迫っていたイリヤへと袈裟切り。
鮮血が飛び散った。
「イリヤッ!?」
膝を崩すイリヤに向けて再び斬りつける寸前、アレークと呼ばれた男が横から抱え込んでそのまま後方へと下がった。
「セルゲイ!!一旦退く!」
「わかってますよ!!」
言うが早いか、セルゲイは再びあの指輪を取り出した。
「――まさか、転移結晶石!?」
それを見た瞬間、紅葉が現れたところを思い出し、その指輪の正体にようやく気が付いた。
転移結晶石。
“太古の遺物”と呼ばれる古代の人類が残した宝具だ。
伝説武器などもこれに該当し、現代の科学力をもってしてもわからないブラックボックス。
その中の一つがこの“転移結晶石”。
指定した座標へと転移できる代物だ。
だが、転移の能力を有する超能力者ならば現代にもいる。違いはその飛距離だ。
転移能力者が移動できる最大値はおよそ5キロ。
しかし、この転移結晶石は移動範囲が限定されていない。
大陸の端から端まで移動することができる。
そんな世界に20個も無いと呼ばれるその宝具が意味するところは。
「待てッ!!」
叫びながら足に力を入れて駆ける。
3人が合流する前に決着をつけなければ逃げられる。
そうなれば今度はいつチャンスが来るかわからない。
だが、思いも虚しくもう少しの所で終了の合図が呟かれた。
「転移!」
呟かれると同時に3人の周りを光が包む。
あと一歩届かなかった。例えまだ見えているとはいえ、斬りつけでもってすり抜けることだろう。
つまり完全に逃がしたことになる。
悔しさに歯を食いしばるが、俺が逃げていたときの追走者たちの気持ちもこんな感じだったかと思うと皮肉なものだ。
「最後に一つ、君に教えておいてあげましょう」
そんなことを考えていると、光に包まれた中でセルゲイが声をあげた。
「現在、現在確認されている伝説武器の数は我々ロシアを含めて102個です」
何を言っているのかわからないとばかりに怪訝な顔をする俺を尻目にセルゲイは続ける。
「そして、最終的な伝説武器の数は111個。これは古代の文献に書かれていたことです。しかし――」
そこで一旦間を空け、再び口を開いた。
「あなたのその王剣は、他の物と違うのですよ」
「なに?」
聞き返す俺に、しかしセルゲイは答えない。まるで、まだ知るのは早いとばかりに。
やがて、光は臨界点に達する。
「全ての伝説武器が揃ったとき、我々は再びあなたの前に現れるでしょう」
最後にそう言い捨てて、3人はその場から姿を消した。
後に残ったのは俺と、ずっと黙っていた和彦、ライラ、一葉、桜、そして気絶したまま起きない紅葉。
突然、視界に霞がかかった。
「悠希!?」
一葉の叫び声があがる。
走ってくる足跡が聞こえ、その後にライラたちが何か言っていたが、そこからは聞き取れなかった。
そこで、俺の意識は暗転した。
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