episode 52 認めたくない
本当に遅れてしまってすみませんorz
正月のあの抱負はなんだったんだって話ですねorz
これからも少し遅れ気味になるかとは思いますが
みなさん、どうぞ暖かい目で見てやってください((汗
“ガイスト・クイーン”波風一葉。
今尚呼ばれ続けている彼女の通り名だ。
今世紀確認された唯一の“精神系統術師”。
一葉は、そのこの地球上に1人しかいない“精神系統魔法が使える術師である。それがこの学園都市の理事長として君臨する一つの理由だろう。
ただ、精神系統術師と言っても、“念話”程度を使えたからと言ってそう呼ばれるわけではない。
『他人の心を操り、支配する能力者』
その類い希な能力を先天的に発現させた彼女は、当初世界規模で危険視された。
その能力を絶対に悪用させてはいけないから。
人の心を操るという彼女の――――彼女だけの魔法は危険すぎるから。
それでも彼女の性格のお陰か、そのような危険な行いをすることはなかった。
だから、学園都市の理事長になった。いや、させられた。
精神が不安定な少年少女をケアするために。
そして監視の意味も含めて。
ドイツ語で精神を表す『ガイスト』に、女王を意味する『クイーン』。
繋げて“精神を司る女王”。
その殺気が、目の前の男たちへと襲いかかった。
☆☆☆☆☆
「へー……これが“干渉糸”か」
周りに倒れた部下たちのことなど見向きもせず、アレークと名乗った男は宙を見ながら感慨深げに呟いた。
いや、より正確に言うと宙に浮かんでいる“糸”にだが。
そう、彼ら三人の周りには何億本もの極細の糸が張り巡らされているのだ。
【精神系統魔法:干渉糸】
一葉が先程そこに転がっている人物たちに使った魔法だ。
糸一本一本が一葉の魔力で作り出され、触れた人間の精神に干渉することができる。
だが、それ以前にこれほどの数の糸を自由自在に操れるのは流石としかいいようがない。
因みに、悠希が来た際桜たちに一葉使った魔法もこれだ。
「ふむ……思っていたよりも凄いものですね」
セルゲイもまた、張り巡らされた糸の数々を見ながら感嘆の声をあげる。
その、まるで博物館にでも来たような感想を各々呟いているが、何も一葉が仕掛けていなかったわけではない。
糸を向かわせていたが“弾き返された”のだ。
魔法を使った気配は無かった。にも関わらず一葉の“干渉糸”は彼らに届かない。
これは、まさしく――――
(悠希や雅人と同じじゃないッ!!)
一葉の勘が正しければ、彼らは魔法を使っていない。
自身から漏れ出る魔力を“干渉糸”にぶつけて弾き返しているのだ。
圧倒的な魔力保有量。
自らが以前に体験したことが頭の中でビジョンとして流れる。
――――初めて出会ったときの悠希と雅人と同じ。
それが余りにも悔しくて、信じたくなくて、一葉は思わず唇を噛み締めた。
認めたくない。
こいつらが悠希と雅人と同じだなんて認めたくはない。
ただ単純に伝説武器保有者として認めたくないわけではない。
こんな人の命をどうとも思ってないようなやつらが悠希と雅人に酷似しているのが無性に許せないのだ。
再び自身の魔力を刀身叩き込む。
今度は“干渉糸”の数と強度を増やすために。
だが、それを遮るように低い声が響いた。
「おい、誰が相手するんだ?誰もやらないなら俺が全員貰うぞ?」
イリヤの威圧感を込めたセリフに、後ろにいる桜たちが身震いした。
だが、そんな彼に呆れるようにセルゲイがため息を吐く。
「君は本当にせっかちですね。もう少し自重した方がよろしいのでは?」
「ハッ!お前にだけは言われたくなくないぜ。じゃあこいつらは――――」
そこで一旦言葉を区切るイリヤ。そして、ある方向へ振り向いた。
学校のある方向。
その方向を見つめたイリヤは、心なしか嬉しそうに口元を歪めた。そんな彼にアレークは首を傾げる。
「どうしたんだい?随分うれしそうだけど」
「……やっぱこいつらはお前らにやるわ」
「は?」
頭に疑問符を浮かべる二人。だが、その瞬間に疾風がアリーナを駆け抜けた。
「――ようやくお出ましか」
イリヤは呟きながら、口元をつり上げた。
まるで獲物を見つけたように。
そして一葉の視界に“何か”が映る。
その“何か”は疾風と共にアリーナを駆け抜け、そして――――
――キイィィィイン!!
澄んだ金属の音が響き渡った。
音の根源にはイリヤ、そして左手に握った白銀の剣を振り下ろした悠希の姿があった。
「ハッハァ!ようやく英雄様のご到着かぁ!!」
どこか楽しげなこえをあげるイリヤに、悠希は何も答えない。
ただ、その瞳に燃え盛る殺意の炎を浮かべて、剣を再び振るい始めた。
「そういや、あんときもこんな感じだったなぁ。お前を餌に兄貴をおびき出して、さ!」
それら全てを避け続けながらも、イリヤは武器を出そうとすらしない。
いたずらに悠希の傷口を掘り返し始める。
「紅葉を――どこにやった?」
ようやく放たれた悠希の言葉は、普段からは考えられないようなゾッとするような冷たい声音だった。
それを聞い、イリヤは笑みをより深める。
「心配しなくてもいたぶっちゃいねーよ。セルゲイ」
「はいはい、わかりましたよ」
イリヤが呟くと同時にセルゲイが応える。そして、その手に光が現れた。
光が収束すると、その右手に赤い、真紅の指輪が現れた。
「転送」
呟くと同時に、セルゲイのすぐ横に先程と同様に光が現れる。
光が薄れる。
その瞬間に悠希は走り出していた。
一葉も薄目でよく見る。
光から現れたのは真っ黒な黒髪。小柄な背。それを見た瞬間、彼女の背筋に寒気が走った。
――現れたのは妹。紅葉だったのだから。
ようやく彼女の全貌が明らかになったとき、急に何かが外れたように身体が傾きかける。
すぐさま悠希はセルゲイへと剣を向ける――――が、当の本人はまったくその気はないとばかりに後ろへ後退。
排除すべき相手がいないことを確認し、そのまま抱き上げその場から一葉のところまで一足で到着した。
それを確認した一葉は瞬時に紅葉を受け取り、そのまま容態を見る。
よかった。特にこれといった外傷はないようだ。
薬で眠らされたのだろう。本当に良かった。
安堵したも束の間、悠希は目線を後ろにいる桜たちの方へ向け、声を投げかけた。
「遙!綾芽!ニコルが重傷を負ってる!校舎内にいるから治療してやってくれ!一葉、敵に遭遇せず、かつ最短ルートで二人のナビを頼む」
「「わ、わかりました!」」
その余りにも切羽詰まった表情にすぐ頷く二人。
だが、対して一葉は困惑した表情で悠希を見る。
「ナビは、できるけど……けど――」
「心配しなくていい」
目の前の相手が、と言いかけるが悠希がそれを遮った。
再び感情を押し殺したような表情を向ける。
「アイツを殺すのは、俺じゃないといけないんだ――」
悠希はそう言い切ると背を向けゆっくりと魔力を放出し始めた。