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episode 47 ジョーカー



「よし。じゃあ指示出すぞ……って、なんだよその目は」


「なんでもないよ?ただ、お姉ちゃんとイチャついてたから、ね?」


一葉に叩かれた頬をさすりながら、俺はこの場にいる全員に呼びかけたのだが、妙な雰囲気に首を傾げる。

この場の全員を代表して。桜が笑みを浮かべながら(目は笑ってない)毒吐く。その反応がいまいち良く解らずに首を傾げる俺。そんな俺の態度に呆れたようなため息を吐き、全員気を引き締める。それを確認し、俺は気にせず言葉を紡いだ。


「今、結界の制限を付け加えた。結界領域はこのアリーナの観客席までの全て。今起きてる火災も、既に消化完了だ」


そう言って目で周りを見るように促す。俺の合図で皆一斉に辺りを見回すが、直ぐに驚愕の表情を浮かべた。

先程まで燃え盛っていた火が消えたのだ。煙はまだ残っていて様子を伺うことはできないが、それも換気されているようでもうすぐ晴れるだろう。


しかし、ここからが問題だ。


「で、だ。この中で治癒系統の魔法が使える人は居るか?」


問いかけ、再び辺りを見回すが、正直期待はしていない。


治癒系統の魔法は生まれ持った才能に偏る魔法だ。人の傷を癒やしたりするのだから、それなりの知識も必要となる。

つまり、治癒系統の魔法を使える者は少ない。術師全体の中でも半分はいないだろう。


そんな背景があるのだ。そう都合よく―――。


「「は、はいっ!」」


「へ?」


予想外の反応に俺はつい間抜けな声を出してしまった。

それもそうだ。

無いだろうと思っていた矢先に声が発せられたのだ。それも二人分。驚かない方が可笑しい。


慌てて声の主を確認しようとするが、その二人―――綾芽と遥が手を挙げていたので直ぐにわかった。


「……え、使えるの?」


「「はいっ!!」」


確認のために聞いたのだが、二人は元気良く頷く。その反応に俺自身が面食らってしまった。

予想外に二人もの治癒系統の魔法を使える人物が都合良く見つかったため、俺は心の中でガッツポーズ。

しかし、気取られないように細心の注意を払いながら表情を維持し続けた。


「で、どうするの?私も使えることは知ってるでしょ?」


「あ、ああ」


そんな中、いきなりかけられた一葉の言葉に、若干詰まりながら相づちをうつ。瞳が訝しげに見つめられた気がしたが、この際無視だ。


「じゃあ、三人には怪我人の治療を頼みたい」


「「わかりました!」」


二人同時にそう答えてきたので、「頼んだよ」と微笑む。その瞬間、二人が頬を赤らめた気がしたが、それもスルーだ。

そんな俺の態度にため息を吐く理事長様もいたが、これもスルー。


和彦とライラへと駆け寄った三人を後目に、俺は気持ちを入れ替え、今度は他のメンツへと顔を向ける。


「次だ。ライラと和彦は怪我を治してもらえ。桜とレイはここで待機。以上!」


「ちょっと待て悠希ぃ!!」


短く有無を言わさぬ口調。

これで解散だとばかりに手を叩き、身を翻す俺だったが、怒鳴り声と共にレイが詰め寄ってきた。

自身の行動を止められたことにより、若干の不機嫌面を浮かべた俺だが、そんなことお構いなく……というか俺よりも不機嫌な形相を浮かべて抗議してくる。


「なんで俺が待機なんだ?お前もどっか行こうとしてたくせに。それ以前になんで俺がお前の言うことを聞かなきゃいけないんだよ!」


浴びせかけられる非難の声に、俺は若干うんざりしてきた。


まあ、こいつが反発することは目に見えていたので驚くことはない。


なぜならレイ・ケイフォードを一言で表すと『戦闘狂』。


戦うことが自らの存在意義などと思っている(実際どうかは知らないが)奴なのだから。

それに俺はどうやら嫌われているらしい。さっきもいきなり奇襲されたし。


その原因は知っている。というか俺が現況のような物だ。

しかし、知っているからと言って、レイの態度に共感できるというわけでもない。第一あれはアイツにも非がある。


そんなこんなで未だに出くわす度に切りかかるレイ。今でさえ俺に対抗心をメラメラと燃やしているコイツを、一つだけ鎮める方法がある。


だが、今ここで“それ”を使うには些か躊躇われる。それに“それ”はコイツが俺を狙う理由にも関わってくるのだ。


一度きりの切り札。こんな所で使うのは勿体無いような気がする。


しかし、背に腹は抱えられない。

渋々ながら俺はジョーカーを切ることにした。


「……約束」


ビクッ!


俺がボソッと呟くと、あからさまにレイが反応した。


「“あの時”の約束、まさか忘れてないよな?」


「テメぇッ!!あれは明らかに反則だろうがッ!!なんで俺がテメーを殺そうとするのかわかってんのか!?」


俺のその一言に過剰と呼べる程反応するレイ。周りにいるみんなはそんなレイの姿を不思議そうに見つめている。だが、本人はまったく気が付いていない。


明らかにキレたレイに、逆に俺は飄々とした態度で不適に微笑む。


「はっはっは!何を言ってんだ?あれは俺らがお互いの合意の上で成り立った約束じゃないかね?ん?」


「悠希ぃぃいいッ!!」


歯軋りが聞こえそうな程歯を食いしばる光景を見て、「扱いやすいやつ」と心の中で爆笑。

しかし、そんなことなど表情には出さず、仕舞いには肩を竦めてため息を吐く。


「はぁ。せっかくあの約束をチャラにしてやろうと思ったのになぁ…………」


「……なに?」


――――かかった。


ピクリと反応したレイを見て、俺はニヤリと口元を吊り上げそうになった。


まだだ。まだ笑うな。


そんな茶番劇を心の中で繰り広げながら、俺はわざとらしく再びため息を吐いた。


「あの約束―――“カレンとの1日デート”を実行させたくなかったら俺の言うことを聞け、レイ!はっはっは!」


高々と笑う俺に対して、どんな約束なのかと耳を傾けていた連中は揃ってずっこけた。と、同時に非難の眼差しを向けてくる。

特に、桜、遥、綾芽さん方向からは黒いオーラを感じる有り様だ。冷や汗が止まらない。


そんな中でも、投げかけられた本人であるレイの瞳が明らかに動揺していることを確認した。わかりやすいやつめ。




カレン。本名カレン・ケイフォード。

名前からも解る通り、レイの実の姉だ。

以前、俺が参加していたアメリカと合同の魔獣掃討任務のとき、たまたままレイとカレンも参加していた。それが丁度一年前、つまり一葉たちの前から姿を眩まして約一年後のことだ。


そんな中、同年代の人間が圧倒的に少ない宿舎で、始めに声をかけてきたのだカレン・ケイフォードだった。


いや、びっくりしたね。いきなり肩を叩かれて振り向いたら絶世の美女が微笑んでたんだもの。

髪はレイと同じ絹糸のような金髪。顔立ちは整っており、雪のような白い肌。穏やかな目には美しい金色の瞳が輝いている。何よりその完璧なプロポーションは、グラビアモデルも裸足で逃げ出す程だ。


始め見たときには不覚にもどきりとしてしまったことをよく覚えてる。そのままいけば完全に見とれていたことだろう。




レイがいなければ。




カレンの後ろには不機嫌オーラを垂れ流しまくるレイがいたのだ。

そんなことなど気にせずにカレンが俺に話しかけるものだから、レイは俺に敵対心を持ち出した。


魔獣掃討任務の前夜。そのときに俺はレイに『話がある』と呼ばれたのだが、その話の内容とは、



『これ以上姉さんに近付くな』



と、いうものだった。

そのときの真剣さが余りにも面白かったため、俺は一つ賭け持ち出した。



『明日の任務で魔獣を多く殺した方が勝ち。もちろん俺が負けたら二度とカレンには近づかない。その変わり……そうだな―――』




――――俺が勝ったらカレンと1日デートさせてもらおうか。



別に本気で言ったわけではなかったのだが、その言葉でぶちきれたレイがその条件をのんだ。しかし、結果は現状の通り俺が勝って、今までその権利を残しておいた。つまり貸しがある。




「どうする、レイ?別に俺はどっちでもいいんだぜ?カレンとデートしてもよし。お前が俺の言うことを聞いてもよし。さあ。どちらがいいか言ってみろ」


「くっ……!」


なぜだろう。何か開いてはいけない扉を開きかけている気がするのだが気のせいか?


高笑いを上げながら俺はレイをいじめ―――もとい答えを促す。


「……わか、った」


「え?なんて?」


別に聞こえている。この問いはわざとだ。


「わかったッ!」


「何がわかったんだ?」


「くっ!」


下唇を噛み締めるレイに対して、俺は笑いを堪えるのに必死だ。


「お前の、言うことに……従う……」


「……ぷっ」


その言葉を言い終えた瞬間、崩れ落ちるように膝をついたレイを見て、俺は声を抑えることを諦め、左手だけで腹を抱えて笑い始める。

うなだれるレイを、俺以外の全員が同情の眼差しを向けていたことが、さらに俺の笑いを増長させることとなってしまった。

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