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episode 45 奇襲?



「よお、悠希。今日こそ俺に殺されろよ」


そう言って目の前の金髪眼帯少年、レイ・ケイフォードは“クレイモア”を振り上げる。


反射的に身を逸らし、素早く後ろに飛ぶ。その瞬間、大剣が振り下ろされ、先程まで俺が居た地面が豪快に抉れた。もし避けなかったら――――などという嫌な想像をしてしまい、俺は思わず身震いした。


いやいや、あれはマジで殺す気だっただろッ。


ダラダラと流れ出す冷や汗を拭う。それからは考えるより叫んでいた。


「な、なんでお前がこんなとこにいるんだよっ!?」


ツッコムところが違うと思うが、取り敢えず俺の口からはそんなことが発せられた。いや、訴えられたと言っていいだろう。

そんな俺の様子をレイは鼻で笑い飛ばす。


「ハッ!俺は一年前からここに通ってんだよ。なんでテメーがここにいるかなんてのはこの際どうでもいい。テメーは黙って俺に斬られてろッ!!」


「む、無茶言うなバカッ!!」


再び斬り込むレイを、今度は短剣で受け止めた。しかし、


(お、重ッ!?)


受け止めた瞬間、俺の足は地面へとめり込んだ。


釘打ちに例えるならば俺は釘だな。で、“クレイモア”がトンカチでレイが持ち手か。

呑気に考えてはいるものの、全身から吹き出す冷や汗は止まることを知らない。


ていうかコイツ、まだ“あのこと”怒ってんのか?

どんだけ執念深いんだよ……。


ため息を吐き、レイの鳩尾へと蹴りを繰り出す。が、それを左手で受け止められた。


やばい。


そう思って身構える。しかし、レイは何をするでも無く、俺の足を掴んだまま怪訝そうに眉を寄せた。


「おい、悠希。テメー、右腕どうした?」


唐突にそんなことを言い出したのだ。

一瞬、言われた内容を理解できず、キョトンとした俺だったが、すぐに思考を再開させた。


(…………まあ、流石にコイツにはバレるか)


ため息を吐き、「まぁ、仕方が無いよな」と結論づけることに。

もしかしたら誰かにバレるかもとは思っていた。恐らく一葉は既に気付いているだろう。だからと言って、この場にレイが来るとはまったく予想していなかったために動揺してしまっていたようだ。

しかし、やはりレイ程の魔術師、それに付き合いは長くはないが知り合いでもある。そんな彼にバレない方がおかしいもので、この結末は必然と言える。

幸い、この至近距離であるため、レイも声を抑えていたので周りの人間に気付いた様子は無い。


「ちょっと訳ありでな。今は右腕がピクリとも動いてくれないんだ」


自嘲気味にそう言うと、レイはいっそう怪訝な顔つきになり、渋々とでも言うように俺の足を放した。

この行動には少し驚いたため、レイの顔を窺うが、当の本人はくるりと背を向け、表情は見えない。

その行動が益々不可解に思えたのだが、そこで俺は閃いた。


「照れてるのか?」


「死にたいか?」


かと思えば、今度はいきなり憤怒の形相で“クレイモア”を突きつけてきたのだ。

取り敢えず左手だけピシッと上げ、降参の意志を示すとようやく許してくれたわけだが。


……照れ屋なやつめ。





そうこうして、やっとの思いでレイから解放された俺は、再びライラのもとへ――――というわけでは無く、未だに怯えている遥のもとへと向かった。


改めて見ると美人だな。

あのときは半分意識が朦朧としていたからわからなかったが、今見るとそう思う。


いかんいかん、何考えてんだ俺は。


そんな煩悩を頭の外へと追いやり、少し腰を屈めて遥と目線を合わせる。

一瞬ビクッと身体を震わせたが、俺を見るなりその涙を溜めた瞳を見開き、掠れた声を出した。


「ゆうき……さん?」


うおっ!?この上目遣いは反則だろ!?

その余りの小動物的な上目遣いで若干気圧される俺だったが、気持ちを切り替えて微笑みかける。


「遥、久しぶり……かな?どうかしたのか?」


できるだけ優しげな声でそう囁きかける。すると、少し間を置いて遥は頷いた。


「私、怖いんです……。殺されるかも、って思うと、足が……」


座り込み、震える足を抱く遥。スカートの中から覗かせた足がブルブルと震えていた。

俺も隣に座り、俯く遥の頭に手を置く。驚いたのか、顔を上げ、潤んだ瞳でこちらを見返してくる。そんな彼女を安心させるように俺はニカッと笑った。


「そりゃ人間だからな。死ぬのは誰でも怖いぞ?遥が怖がるのを誰も責めやしない。けどな」


そこまで言い終え、一拍置いてから俺は真剣な顔を作った。


「そこで震えてたって何も始まんないだろ?いや、始まんないどころか終わるかもしれない。もしかしたら大事な人が殺されるかもしれない。遥はそれでいいのか?」


それを聞き、すぐさま遥は首を横に振った。俺はそれを確認し、再び微笑みかける。


「怖いのはみんな一緒だ。俺だって死ぬのは怖い。でも俺らが動かないとみんなが死ぬ。戦ってるやつらはみんなそれが嫌だからがんばってる。きついようだけど、これが今の俺たちの現実だ」


そう言って俺は遥の頭を撫でる。柔らかい髪をゆっくり撫でると、ラベンダーのような爽やかな香りが漂ってきた。

少しドキリとしたが、平常心を保ち、俺は最後の言葉を発する。


「だからな、俺はお前『も』守ってやるよ」


「ゆうき、さん……」


「それからは自分で考えな。さっきも言ったけど、どんな決断をしても誰も文句言わないよ」


言い終え、頭から手を放して俺は立ち上がる。


先程までの震えは止まっていた。変わりに遥は若干頬を紅く染めていたが、何故かはわからなかった。しかし、心配はいらないだろう。彼女の瞳には光が灯っていたのだから。

後は彼女の問題だ。これ以上俺が言うことは無い。


俺は再びライラのもとへと向かった。





☆☆☆☆☆





「……この女たらし」


「何言ってやがる……」


ライラのもとへ駆け寄るや否や、いきなりそんなことを言われた。


ほんと、何言ってんだコイツ?


訝しげに顔をしかめるが、何故かあからさまに呆れた表情をされ、さらにはため息まで吐かれた。


…………何故か無性に腹が立つ。


「お前ってほんとに……いや、もういいや……」


「なんなんだよ、さっきから」


何故俺が呆れられなきゃならんのだ?


「ダメだコイツ」みたいな目で見られ、どうにも居心地が悪い。なぜそうなるのかわからないが、怪我人に八つ当たりしても仕方がないのでスルー。


…………いや、やっぱり治ったら殴ろう。


そう決意しながら、俺は周りを見回す。


(あれ?)


が、そこまできてようやく気が付いた。


「紅葉はどうした?」


彼女の姿が見当たらないのだ。ライラに尋ねるが首を振る。もちろん横に。

そこで、いつものメンバー以外の、これまた意外な人物が応えた。


「アイツなら“トート”とこっちに向かってるだろ」


応えたのはレイだった。


“トート”?

あー、ニコルを行かせた音の正体はコイツだったのか。なら余計なお世話だったな。


だが、何故紅葉まで?しかも遅れて。


訝しく思ったが、当の本人は飄々とした態度をしている。


「なんでお前が知ってんだよ」


「成り行きでここまできてただけだ。途中でレア持ちに出くわしたがな」


「は?で、どうした?」


俺が保々条件反射的に結末を聞こうとすると、レイは急に不機嫌そうに顔を歪め、苦々しそうに口を開いた。


「……逃げられた」


「…………ぷっ」


「殺されたいらしいなッ!?」


俺が思わず吹き出すと、憤怒の形相で迫ってきた。


逃がした?あのレイが?あの戦闘狂が?

珍しいこともあるもんだ。


絶好の弄りネタを見つけために、俺はつい調子に乗ってしまった。


「なんなんですかあなたは?殺す、殺されろって。物騒にも程がありますよ。……ぷっ」


「よーし、歯ぁ食いしばれ!首を落としてやるッ!!」


「いや、すんません。ほんと勘弁してください」


待て待てッ!目がマジだからな、コイツ。


本当にやりかねないので、ここは素直に謝って宥めることに。


「で、なんでお前だけ先に来てんだ?」


「あの女、なんか錯乱して普通じゃなかったからな。“トート”に任せて置いてきた」


「おい、何してやがる」


普通じゃなかった?

あの紅葉が?


確かにたまに感情で揺らぐことがある。だが、それも冷静さを欠く程でもない。


では、余程のことがあったのだろうか。それとも、



――――“あの時”のことを思い出したのか?



そうだとすれば頷ける。だが、そうであるならば心配だ。紅葉にとっても、“あの時”のことは忘れ去りたいトラウマなのだから。


本当ならば今すぐ駆けつけたい。だが、いつ敵に襲われるかわからないこの状況で、俺が下手に動くわけにはいかない。


――――兄さんのときのように。


歯を食いしばり、紅葉のことはニコルが付いているため、大丈夫だろうと結論づける。

俺はそれが正しいと思い込んでしまっていたのだ。



取り敢えずは、ライラを安全な所へ運ぶためにおぶろうとする。が、止めた。



(…………いや、待てよ)


俺の頭の中にあることが思い浮かんだ。


「一葉、ここの結界の名称は?」


「?“制限結界”の“衝撃制限”よ?」


“制限結界”それは効果範囲に入っているものに、何らかの制限を与える結界の名称である。

例えば“衝撃制限”。

これはある一定以上の衝撃を制限され、それ以上の衝撃は一定の値まで緩和されるというもの。

このアリーナの場合、競技場を囲むようにこの“制限結界”が張られている。その内容はこの“衝撃制限”だということだ。

他にも色々な制限内容があるが、それは置いておくとしよう。


それを確認した瞬間、俺はニヤリと笑った。


「よし、みんな聞いてくれ!」


声を張り上げて、全員に聞こえるようにする。

案の定、全員がこちらを向いたことを確認して、俺はこともなさげに言い放った。


「俺、もう一回結界張るわ」


それは、この場の全員が唖然とするには十分すぎる言葉だった。

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