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episode 42 惨状に参上



遡ること10分前。

俺こと華瀬悠希は不思議な安らぎを覚えながら目を覚ました。


気が付くと花のような香りが鼻に広がり、視界にはゆさゆさ揺れる―――え?


目の前に飛び込んできたのは、驚くことに長い女性の髪だった。


「悠希!?」

「うわっ!!」


いきなり至近距離に驚愕に目を見開いた顔見知りの女性の顔が飛び込んできた。


「……一葉?」


それはまさしく波風一葉だった。どうやら俺は今一葉におぶっててもらっているらしい。俺が起きたことに気づいて振り返ったからこんなに至近距離に一葉の顔があるようだ。

だが一つ疑問がある。



…………一体何があればこんな状況になるのだろう。


そんな俺の疑問に気づいたのだろう。一葉は先回りして答えた。


「悠希、あんた丸一日寝っぱなしだったのよ!?ニコラちゃんと試合してるときにいきなり倒れて心配したんだから!!」

「丸……一日?うそだろ?」


“ニコラちゃん”なんだな、と突っ込む余裕も無いほど、一葉のその言葉は信じられなかった。


というかあの精神世界(?)でそんなに時間が経ったか?

いや、感覚ではせいぜい半日程度しか経っていないはずだ。


つまり、どうやら俺の感覚にズレが生じているらしい。やはりあれはただの夢だったのだろうか。

とりあえずそう結論づけ、内心でホッとしながら一葉の話に耳を傾ける。


「で、今学園都市が襲撃されてるの」

「いや待て!何が『で』だ!話をはしょりすぎだろ!」


いきなり話が飛んだことに、反射的に突っ込んでしまう。

俺が寝てたから学園都市が襲撃された!?意味がわからん。


「説明めんどくさいから後で話すよ。今は第三高校に向かってるわ」

「はぁ、向かう理由は?」

「桜から電話がきたの。観客席が爆破されたみたい」

「おいおい、そりゃまずいだろ」


確か観客席は衝撃減少の結界の範囲外だったな。最悪死人が出てる可能性がある。

眉を寄せ、あからさまに顔をしかめる。こんな学生ばかりの都市で、そんなことが起こって適切な判断ができる奴がどれだけいることか。恐らく都市全域がパニックに陥っているだろう。


「で、俺は何をすればいい?」


当然こんな状況下で俺が動かないなんて論外だ。別に自惚れているばけではないが、俺程の力がある人間が呑気に寝ていれば一体何人の人間が死ぬことか。

幸い、ここには優秀な指揮官殿がいる。一葉の指揮ならば俺も安心して従えるだろう。

だが、やはり俺の体を案じてくれているのだろうか。一葉は少し間を置き、耐えるように口を開いた。


「……第三アリーナに到着後、そこにいる生き残りを保護。それが終わったら都市内にいる敵勢力の殲滅。―――警告無しで殺していいわ」

「了解であります、波風第一小隊長」

「健闘を祈るよ、華瀬悠希副隊長」


軽口を挟みながら二人で笑いあう。そこで俺は先程からこちらの会話を盗み聞きしている『彼女』に声をかけた。


「聞いての通りだ。いい加減、姿隠すのやめろよ、ニコル」

「わかりました」


声は真横から聞こえた。と、同時にプラチナブロンドの無表情な少女が現れた。途端、一葉がビクッと肩を震わせたが、そこはやはり一葉と言うべきか、まるで「驚いてませんよー」とでも言うようにすまし顔を浮かべた。


「一葉、“索敵”してないのか?」

「あ、忘れてた」


おいおい勘弁してくれよ。襲われたらどうすんだ。

はぁ、とため息を吐く。そこで重要なことに気づいた。


…………いつまでこのままなのだろうか。


未だに一葉におぶって貰っているという凄く恥ずかしいことがまだ継続中だった。


「そろそろおろしてくんない?すげー恥ずかしい」

「あらあら、そうだったわね」


一葉の背中から下り、再び走り出す。しかし、このときにようやく気がついた。




――――右腕の感覚がないことに。





☆☆☆☆☆





第三高校のアリーナに着いたころ、俺たちの耳に金属同士がぶつかりあうような音が届いた。


だれかが殺りあってる?学生か?


学生ならば助けに行かなければならないだろう。相手も素人ではないのだから。現に、トーナメントで聞くどの音よりも、音同士の感覚が狭いのだ。つまり相手の攻撃が速い。

しかし、それはこちらとて同じ。アリーナの中からも轟音が飛び交っている。


一葉に目を向けると、俺の意図がわかったのか、素早く指示を出す。


「悠希は私と一緒にアリーナ、ニコラちゃんは向こうをお願い」

「あいよ」

「了解です」


指示を聞いたら即行動。ニコラは学校方面へ向かい、俺たちはアリーナの中へと急いだ。





アリーナへと到着したとき、俺は血の気が失せた。


一目で重傷だとわかるライラの背中の火傷、壁まで吹っ飛ばされた和彦、必死に刀を振るう桜、斧槍を振り上げた男が眼前へと迫った遥と綾芽さん。


その光景を見た瞬間、頭は真っ白になり、気が付いたら左手に“ジャッジメント”を握っていた。

一瞬で二人を庇うように立ちふさがり、斧槍を銀色の銃で受け止めた。


「大丈夫か、二人とも?」


言いながら男を蹴り飛ばす。

振り返るとこの場にいる俺と一葉以外の人間全員が驚愕に目を見開いていた。


「ゆう……き?」


そんな中、一番早く立ち直った和彦が信じられないとばかりに口を開いた。まるで亡霊でも見ているようなその表情に苦笑させられる。


改めて状況を確認する。

敵は約20人、ライラが重傷、和彦と桜は軽傷、遥と綾芽さんは無傷、か。

確認しながら俺の中でふつふつと怒りが沸き起こる。この怒りを込め、俺は言い放つ。


「お前ら全員―――原形残ると思うなよ」


いつもよりずっと低い声と同時に抑えていた殺気と魔力を解き放つ。アリーナを飲み込む程の膨大な魔力に男たちは震え上がった。


だが、今更後悔してももう遅い。お前たちが幕を上げたのだ。途中放棄など許されない。


「一葉」

「はいはい」


俺の意図を察した一葉はため息を吐きながら右手を翳した。


「ちょっと寝ててね」

「お姉ちゃんッ!!それ―――」


これから何が起こるのかいち早く察知し、斬り合っていた男と距離を取った桜だったが、言い終えることは無かった。


そこで桜たちの意識は途絶えた。

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