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episode 40 信じられない光景



お、お気に入りが200……ですと……?


みなさんありがとうございますっ!!

もう感激のあまり泣きそうです(泣)


これからもよろしくおねがいしますっ!!_(._.)_ペコリ



「ハァ……ハァ…………くそったれがッ」


己を叱咤するように、ライラは大剣を杖代わりにして毒吐いた。


あれからどれだけ時間が経っただろうか。先程から男たちを同時に相手しているおかげで、体力も魔力も底をつきかけている。


不意に頬を伝う血に気がついた。それと同時に思い出したように身体が痛みを訴えだした。

翌々考えてみればこの人数差では怪我をしない方が可笑しい。というより未だに大きな怪我を負っていないことの方が奇跡であろう。


周りに意識を傾ける。

近くでは桜が剣使いの男と1対1で渡り合っている。いや、姉譲りの刀技を持ってしてもやはり苦戦中のようだ。

和彦と綾芽は後方支援に撤している。危なくなったら敵の注意をひいてくれるお陰で何度助かったことか。

だが、遥はというと、やはりまだ立ち直っていないようで、和彦たちの後ろで震えている。

そのためライラは一人で殆どの敵と戦っているという状況に陥っていた。だが、それももう保つか怪しい。


(まだか、まだ来ないのかッ)


未だに学園からの救援は来ない。学園都市全域でこの男たちが暴れているのであれば到着が遅れるのは当たり前である。事実そうなのであろう。

だが、それとともに身体を這う痛みによって焦燥感が積もるばかりた。


援軍が来ない以上、今のライラには時間を稼ぐしか出来ないのだが、もう余力も殆ど残っていない状況では援軍を祈るしかない。


奥歯を噛み締めていると、目の前の男が動いた。

手に持つ斧槍(ハルバート)を振りかぶり、こちらへ殺意を向けながら迫ってくる。

それを大剣で払い、切り返して一閃。


だが、大剣は男の脇を掠めただけで、致命傷とまではいかなかった。ただ、男の血が大剣に付着して、鈍く光っている。


これは夢なのだろうか?


未だに自分が殺し合いの真っ只中に居ることが理解できない。だが、大剣を染める赤黒い液体も、全身から湧き上がる痛みも、掠ったとはいえ自分が切った感触も全てが現実だと訴えかける。それがまた不気味で、今日で何度目かの疑問を浮かべてしまう。


このまま目を瞑れば元の平穏な日常に戻れるのではないか?

起きたらこんな夢も忘れて、学校で悠希とバカやって、紅葉に怒られて、みんなで笑って。


そんな幻想に捕らわれ、先程までの決意が揺らぐ。

そんな精神状態のせいか、ライラは脇をすり抜けていく男に注意が回らなかった。


「和彦!!綾芽さん!!」


叫ぶも虚しく、男はどんどん和彦たちに肉迫してくる。

前衛であるライラより、後衛である和彦たちの方を先に片付けた方がいいと判断したのだろう。そんな推測を頭が冷静に打ち出してくる。

事実、後衛の和彦たちでは接近戦は不向きだ。接近されたが最後、武器が体に食い込むことは目に見えてくる。


そんな光景が目に浮かび、身体の中から血の気が失せるような感覚に見まわれた。


これではさっきの遥の時と同じではないか。

変な幻想を抱いた挙げ句、注意が散漫になり、仲間に危険が及んでいる。

何が“タダで済むと思うな”だ。アホらしいにも程がある。

自分はこんなにも愚かで脆弱なのに、何が仲間を守るだ。自分が仲間に危険を招いているというのに。


「アホか俺は!!」


叫ぶ前にはもう動いていた。

身体を反転。全速力で男を追いかける。

膨れ上がった殺意と魔力を背中で感じて尚、足は止まろうとしなかった。


「ライラ先輩、後ろッ!!」


近くで桜が注意を促してくる。しかし、ライラはそれも聞かずにひたすら足だけを動かした。そのお陰で直ぐに背中に激痛が走った。

だが、苦悶の叫びもあげず、前に吹っ飛ばされながら走り続ける。

そんなライラの姿に男たちは動揺した。それが背中に伝わってきたが、それでも必死に走り続けた。


眼前では和彦たちが斧槍使いの男に魔法を仕掛けているが、するりとかわされるか弾かれていて、時間稼ぎにもなっていない。


それを追いかけながら、再び背中に焼け付くような痛みが走った。歯を食いしばり、前のめりに倒れかけたがなんとか持ちこたえ、脚に力を入れる。


「くはッ!?」


そんなときだ。

急に何発もの魔弾が背中に浴びせかかってきた。

視界が一瞬白く染まったが、なんとか意識を繋ぎとめ、歯を食いしばる。

しかし、それと同時に足がもつれ、地面に突っ伏した。


「くっ………!!」


咄嗟に起き上がろうとしたが、背中に強烈な痛みが走り、再び地面に倒れ込む。痛みの原因を見つけようと背中に目をやると気を失いそうになった。


皮膚はただれ、焦げたような匂いを放ちながら背中全体を覆うように出来た火傷があった。

一体何発貰ったのだろうか。もはやそれすらもわからない。しかもご丁寧に炎属性の魔法ばかりだったらしい。


だが、そんなことを思った瞬間には視線が和彦たちへと向けられていた。


「に、げろ……」


叫んだつもりが切れ切れな弱々しい言葉が漏れた。

しかし、そんなことは気にならなかった。


「ら、ライラぁあぁあ!!」

「キィヤァァアアア!!」


変わりに和彦の声が轟く。綾芽さんは叫びながら蒼白になった顔を手で覆っている。

そんな二人に斧槍の男はどんどん接近し、とうとう斧槍の間合いに入ってしまった。


「くっ!!」


その瞬間、反射的に和彦は魔法障壁を張った。咄嗟の行動とはいえ、この学園都市でもトップクラスの実力を誇っている和彦のそれは強力だ。だが、


「かはッ!?」


斧槍使いが振るった斧槍と魔法障壁がぶつかった瞬間、和彦は後ろへ吹っ飛ばされた。


ふ、防ぎきれなかった!?あの和彦が!?


驚愕に目を見開くライラ。しかし、それは綾芽もだった。

斧槍使いが次は綾芽へと目標を変えた。


「や、めろ……!」


掠れた声を出した瞬間、背中の傷が痛んだ。痛くて痛くてたまらない。だが、それよりも何もできない自分の心が痛んだ。


しかし無情にも男は斧槍を振り上げる。


やめろッ!!


驚愕が抜けきらない綾芽は、男が振り上げる斧槍に怯えて動くこともできないでいる。まず間違いなく避けられない。


「やめろぉぉおぉおおお!!」


傷の痛みも関係無しにライラは叫んだ。叫ばずにはいられなかった。

そんなライラの思いを嘲笑うかのように斧槍が鈍く光った。


自分は無力だ。

でかい口叩いても所詮は仲間一人守れないクズだ。


自分自身に絶望した。

弱い自分を憎悪した。


目から溢れる涙と刻一刻と過ぎる時間の中で、ライラは信じられないものを見た。


―――ガキィィイイン!!


金属同士の済んだ音がアリーナに響く。それと同時に優しげな男の声が耳に届いた。


「大丈夫か、綾芽さん?」


眠っているはずの黒髪黒目の少年―――華瀬悠希が、左腕に持った一丁の白銀の銃で受け止めていた。

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