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episode 3 愚親賢子


コンコン。

「どうぞ」

中から男の声が響いてきて、入るように促される。

「失礼します」

「失礼しまーす」

一葉はキチンと、俺は間延びした常套句を告げて扉をくぐった。


中は思ったより広いのだが、殺風景という言葉が似合う程物が置かれていない。あるのはソファーが3つ、その間に長方形のテーブルが一つ、システムデスクが一つといったところだ。

そんな部屋に一人だけ、システムデスクの机にもたれてこちらを見ている人物がいた。

40代後半ぐらいだろうか。金髪の長髪を後ろで束ね、常に不機嫌そうな仏頂面を顔に貼り付けた男。


こいつか。

一目見ただけであまりいい印象を受けないこの男は、こちらの心情などお構いなしに口を開いた。


「・・・はじめまして、だな。ここの校長のマルク・ハイリルだ。お前がこの高校に転入してくるなんていう馬鹿者か。どんなコネを使ったかしらんが、試験もすっ飛ばして転入とはいい度胸だな」

「はあ?」

綺麗な発音の日本語とは裏腹に明らかな敵意を含ませた発言。さすがにこれにはカチンときた。こちらを伺う一葉とアイコンタクトを開始。

(このおっさん殴っていいか?)

(だめ。ここに入学できなくなるし、下手すれば追放されるわよ?)

(くっ!止めないでくれ一葉!男にはやらねばならぬときがあるんだ!)

(セリフはかっこいいけど動機が不純です、三点)

(せんせー、満点がどれくらいかわかりませーん)

そんな茶番劇をなんと1秒の間に済ませて、なんとか平静を取り戻した俺は満点の笑顔を浮かべてマルク校長に向かい直す。引き吊つってるなんて言われなくてもわかってる。

「じゃあ、どうしたら転入させてくれるんですかー?おっさんの気分になんて付き合ってられませんよー?」

うん。多少悪態吐くのも仕方ないだろう。ムカつくもん。それぐらい勘弁してほしい。

だが向こうは俺の言葉で眉間に皺を寄せて俺を睨んでくる。おー恐い。

「ずいぶん生意気なクソガキだな。よかろう、転入試験をさせてやる。感謝して平伏せ」

「さすがおっさん。やっぱバカは扱いやすいっすね」

がはははは、と笑う俺と校長。視線と視線が交わって火花が散ったような気がするのだが錯覚か?

そんな俺と校長をハラハラしながら挙動不審に見守る一葉。もうパニクっているのだろう。口をパクパクさせて金魚みたいだ。

「で?何すればいいんだ?まさかおっさんに勝てばいいってのか?腰が抜けてもしらねーぜ?」

「慌てるなクソガキ。お前如きに私が相手するものか」

そう言うとおっさん――もとい校長は携帯を耳に当てて誰かと通話しだした。

数分後、部屋にノックが響いた。校長が「入れ」と言うとドアが開かれる。

入ってきたのは金髪を短く切った、いかにも体育会系の若い男だった。

「なんだよ親父?いきなり呼び出したりして」

「ヘイル。ちょっとこいつを懲らしめてやれ」

「は?」

親父と呼んだからには息子なのだろう。ヘイルは父親に言われたことを理解できていないのか、首を傾げていた。

「転入試験のことだ。このクソガキがお前に勝ったら転入といった形でな」

「ちょっ!?それはやりすぎだろ!?俺も一応ここの教師だぞ!?」

混乱しているヘイルを見ながら息子はまともなんだな、と一人で納得していた俺は、話がややこしくなるまえにまとめることにする。

「別にいいですよ。そこのおっさん、絶対折れそうにないですし」

「え!?ま、まぁそうなんだけど・・・・」

口ごもるヘイルに止どめの一撃。

「それに俺強いですし」

俺の自信過剰な態度にムッとしたヘイル先生は、予想通り俺に向き直る。

「・・・わかった。適性があるのであれば俺の方から推薦を出す。その辺は心配しなくていい。じゃあアリーナに向かうか」

「わかりましたー」

いい人だな、などと感慨に浸りながら俺と一葉はヘイルについていく。後ろでおっさんが「ふん」と、鼻を鳴らしていたがスルーした。

愚親賢子。ふとそんな言葉が俺の頭をよぎったのだった。

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