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episode 37 少女の決断、少年の勇気


紅葉がアリーナを出た頃、懐にしまっておいたケータイが唐突に鳴り始めた。


走りながら開いたケータイのディスプレイに写し出されていたのは『波風桜』の文字。


隣を走るレイになんとなく悪い気もしたが、今は非常時。向こうで何かあったのかもしれないし、出ないわけにはいかない。そして苦しくもその予想が的中する。


「もしもし?」

『お、お姉ちゃん!!大変だよっ!!試合が始まったらドカァァンって、もうドカァァンって!!―――』

「落ち着いて桜っ!!全然意味分からない」


聞こえてきたのは愛する妹の狼狽しきった声。なんとか落ち着かせようとするが、全く効果が無い。


『もしもし波風さん?和彦だけど』


突如ケータイから聞こえてくる声が変わった。この中性的な声音、間違いなく和彦だ。


「和彦くん?何があったの?」

『……ライラの試合開始と同時に観客席が爆破された』

「なッ―――!!」


少しの間を置いて発せられた和彦の返答に絶句する。


爆破された?それも衝撃減少の結界の範囲外を?

頭に嫌な想像が過ぎる。


『僕たちは控え室に居たから何ともなかったんだけど、まだライラが帰ってこないんだ……。モニターも映らなくなったし、何かあったのかも……』


足が止まる。そこは丁度ゲートの手前だった。

隣ではレイが怪訝な顔でこちらを見ている。だが、今の彼女にはそれを気にしている余裕が無かった。


彼女は今、究極の選択を迫られている。悠希を助けに向かうか、ライラの加勢に入るか。この二つが脳内でぐるぐる回り、思考を阻害する。


(ユウはまだ意識が……でもライラの方も……)


思わず唇を噛み締める。口内に血の味が充満するが、彼女の意識には入らない。


「わかった……」


ただ一言そう返し、通話を切る。それと同時に電話帳からある人物の番号を呼び出した。


『もしもし?』

「姉さん、お願いがあるの」


電話越しから聞こえてきたのは一葉の声。そして紅葉は決断をした答えを口に出す。


「ユウをお願い」


紅葉の選択、それはライラへの加勢だった。一葉ならば悠希の居る場所を知っている。ならば、一葉に悠希のことを頼んで自分がライラの所へ向かえばいい。


「頼める?」


確認のための問い。だが、返ってきたのは抑えたような笑い声だった。


「な、何よっ!?」

『ふふふ、ごめんごめん。あんまり真剣に言うもんだから何かと思えば……』


再び笑い出す姉を怒るでもなく、紅葉はただ困惑した。


『大丈夫よ。最初から向かうつもりだったんだから。もうすぐ着くから安心して』


返ってきたのは拍子抜けするような、しかしもっとも嬉しい答えだった。

考えていなかった。姉が悠希の下へ向かうなんてこれっぽっちも考えていなかったのだ。

一葉だって悠希のことを弟のように思っているのだから当然の行動。それをわかっていなかった自分は余程周りが見えていなかったのだろう。


心の中で謝罪を述べ、ライラの件は水に流すことに決め、最後にこう付け加える。


「……ありがとう」

『ふふふ、どういたしまして』


照れ臭くなってそのまま通話を切り、隣に立つレイへと向き直る。


「予定変更よ。第三高校に向かうわ」

「なんかあったのか?」


首を傾げるレイへ答えず、紅葉はゲートを指差した。


「話は行きながらしましょう」

「ん、りょーかい」


意外と切り替えは早い方なのか、それ以上は聞かずにゲートに入るレイ。


「転移、第三高校」


紅葉がそう言うと同時に、二人は光に包まれた。





☆☆☆☆☆





「なんだってんだよてめぇらッ!!」


迫り来る刀使いの一撃を受け止めながら、ライラは毒吐いた。


「―――ッ!!」


突如視界の端に何かが映る。反射的に後ろへ飛ぶと、真横から火の矢が飛んできた。思わず舌打ちしてしまう。


この男たちの個々の技量はかなり高いものだ。しかも統率された連携でこちらの動きを制限してくるため、このままでは後五分保つかすら怪しい。


遥はというと、今はライラの約十メートル後ろで状況の整理が追い付かず、混乱しているため加勢は期待しない方がいい。


再び刀使いの特攻してくるのが見え、ライラは身構えた。


ガキィィン!!


金属同士がぶつかり合う特有の澄んだ音を上げながら、鍔迫り合いを繰り広げる。

だが、そんなライラの脇を一人の男が抜けていった。


(こいつは囮ッ!?)


気づいたときにはもう遅かった。

追いかけようとするも、刀使いの後ろにいる術師たちに牽制され、動くことができない。その男たちの顔には嘲笑が張り付いていた。


「逃げろッ!!」


反射的に叫ぶライラの怒声も虚しく、男は後ろにいる遥の下へ駆けていく。普段の―――学年二位の遥ならかわすこともできるだろう。だが、あんな精神状態で魔法が発動できるとは到底思えない。


やばいやばいやばい!!


頭の中では警笛が鳴り響いている。そんなライラの思いとは裏腹に、男はどんどん遥へと接近していく。しかし、遥の方は近付いてくる男に怯えきっており、逃げ出すことすら頭に無い様子だ。

男の握った斧槍(ハルバート)が鈍く光り、遥の胴体を切り裂くかと思うと、ライラの覚悟は決まった。

意を決し、捨て身の覚悟で助けに向かおうと思った矢先に変化が起こった。


「ガハッ!?」


後ろから奇声が上がる。何が起こったのか確認出来ずに困惑するライラだったが、次に発せられた声はとても聞き慣れた物だった。


「ライラ!!加勢に来たよっ!!」


近寄ってくる足跡は三人分。それは間違いなく和彦、綾芽、桜の物だ。


だとすると、さっきの奇声は三人の内の誰かが放った魔法が男の意識を刈り取った際に発せられた声か。

遥が無事なことと、三人が加勢に加わったことに心から安堵し、目の前の男に集中する。


男たちも和彦たちに警戒しつつ、まずライラから倒すつもりのようで、先程よりも鋭い殺気を放ち続けている。


正直言えば逃げ出したい。だが、後ろには和彦がいる。彼らが来たという事は救援を呼んでくれたと考えていい。それが励みになり、同時に勇気へと繋がる。


ならば、なんとしてでも時間を稼ぐしかない。

ここにいる戦力ではこいつらには勝てないだろう。だから援軍が来るまで耐えきってやる。


「あんたらさ、どういう理由でここを狙ったのか知らねーけど」


唐突に放たれたライラの言葉に男たちは睨みつけるような視線を送ってくる。

けどそんなもん知るか。


深く息を吸い、空気を吐き出すと共に言葉も吐き出す。


「……ここは俺たちの第二のホームだッ!!土足で荒らしといてタダで済むと思うなよッ!!」


今の彼にできる精一杯の虚勢。だが、込められた思いは本物だ。


明日を掴み取るために。

みんなで笑い会うために。


そんなありったけの思いと魔力を大剣に叩き込み、構える男たちへと突っ込んでいった。



諸事情により、次回は少し更新が遅れるかもしれません。

すみません……。

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