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episode 32 不合格


運命の歯車が狂ったあの日、本来なら俺が死ぬ筈だった。


第6時世界大戦開始から約一年と半年後、当時中国に侵攻していたロシア軍が、何故か日本の領土である北海道に標的を変えた。


多少の戦力を残していたとはいえ、最強の軍事大国であるロシアに適うはずもなく、北海道は徐々に制圧されていった。


当時、俺たち兄弟も伝説武器保持者として中国へ赴いていたが、侵攻の知らせを聞いてすぐさま帰国した。しかし、帰国時の戦況は圧倒的に不利。他国もいつ自分の国が狙われるかわからなくなったこの状況では迂闊に兵力を動かすことができなかったのだろう。戦争終結の最後まで熱心に防衛に参加してくれたのはアメリカ、ドイツ、そしてあろうことか現在も残党が残っている中国だった。


北海道防衛戦、後にそう呼ばれたこの戦いは、四国が戦力を集結させたにも関わらず、ほんの少し優勢という結果にしかならなかった。



そして戦争終結からちょうど1ヶ月前。俺はある命令違反を犯した。あろうことか兄さんの命令を。


簡単に説明すると、仲間を目の前で殺されたことに激情した俺が一人で突っ走って捕まった、そういうものだ。

兄さんの命令は「撤退」の一つ。だが、俺はそれすらも聞き入れられない程頭に血が上っていた。


結局捕まった俺は、通信端末を奪われ、交渉の為の道具にされた。その通信をした男―――銀髪の伝説武器保持者の獰猛な笑みが今でも頭に張り付いて忘れられない。


その通信が終わった五分後に兄さんは現れた。それも一人で。兄さんは俺を助けるために部屋にいる兵士を片っ端から斬り殺していった。


それからは兄さんの言ったとおり、俺は攪乱したロシア兵の盾にされ、それで怯んだ兄さんが銀髪の男に斬り殺された。その時、兄さんは何かを言ったのだが、聞き取ることができなかった。そして俺は生き残った。

いや生き残ったのではない、生かされたのだ。


兄さんが死んだ後、工場に居た兵士は全員俺には見向きもせず引き上げ始めた。

そして俺は兄さんが血に濡れた光景を、ただ呆然と見ているしかできなかった。



狂った俺はそれからというもの、ただ無茶苦茶に敵兵士を殺して、殺して、殺すだけの日々。何かしていないと狂いそうで、自分が兄さんを殺したと思うと怖くて、自分を誤魔化すために力を振り回した。


そして戦争終結まで、一睡もせずに死体の山を築き上げていった。


最後の兄さんの言葉、それはどれだけの恨みを込めた言葉だったのだろう。それを思う度に怖くて眠れない。





☆☆☆☆☆





「不合格。まぁでも“複数保持者”としては合格ってところね」


その声が正面から聞こえてくる。だが、目の前が真っ暗で何も見えない。


彼女の言った複数保持者とは、伝説武器を2個以上保持しているものだ。


そんなことを自分自身の確認をとり、しばらくしてようやく自分の瞼が閉じていたことに気がついた。ゆっくりと目を開くと、そこには先ほどの兄さんの顔も血に濡れた廃工場も無く、何も無い空間とさっきの少女が俺を覗き込んでいるだけだった。


「―――つっ〜〜!!!」


ふいに体を動かそうとすると右腕に激痛が走る。だが、腕を見てもさっき切られたことなど無かったように繋がっていた。しかし、そこから伝わる痛みは本物だ。


「だから言ったじゃない。あそこであったことは現実にも影響するって。戻ったら後遺症になってるかもね」


未だに頭が重い。思い出したくもないことが次から次へと沸き上がってくる。

そんな心身の痛みに体がうずくまってしまう。


「どうして、あんな……ことさせた……」


やっとの思いで紡ぎ出した言葉はそんな掠れるような声で発せられた。

だが、彼女は「何言ってるの?」とでも言いたげに首を傾げる。


「力が欲しいんでしょ?ただで手には入るとでも思った?力はその持ち主を選ぶんだからそんなことあるはずないでしょ?伝説武器と同じよ」

「そんなことじゃないッ!なんで兄さんと戦わせたか聞いてるんだッ!!」

「だから?」

「なッ!?」


すました顔で当然とばかりに言う彼女に俺は驚愕を顔に浮かべる。


「けど最初に力を欲しいって言ったのはユウキよ?ユウキがそう言わなければあんなことさせなかったわよ」

「くッ……」


正論だ。言い返すところの無い程の正論だ。所詮俺は子供なのだ。いつもその時の感情が優先で、全て自分が巻き起こしたことなのにそれを否定したくて。故に正論だからこそ俺は次の言葉を続けられないでいた。


「……はー」


すると彼女は、何を思ってか突然大きな溜め息を吐く。


「でも、そうね。ここまで来たんだから手ぶらで帰すのもあれだし、もうすぐ全部揃うし……」


全部揃う……?いったい何が?


そんな言葉に呆ける俺を後目に彼女は思案するように腕を組み、首を捻る。これだけ見ると可愛らしいのだが、もう本性を知ってしまったのでそんな気も起きない。

一時の間を開け、考えが纏まったようで腕を解いた。


「よし!じゃあ一つだけ枷を外しましょう。適合したのに眠ってる伝説武器を起こしてあげる」


いきなりそんなことを言い出す彼女に、俺の思考が一瞬置いて行かれそうになった。

だがやがて、自我を取り戻した俺は慌てて疑問を投げかける。


「ちょっと待て!!お前は何を知ってる!?なんでそんなことができるんだ!?そもそもお前は何者だッ!?」


枷を外す?伝説武器を起こす?何を考えているのか理解できない。


さっきまで人の過去をほじくるようなことをさせておいて、『手ぶらで帰すのもあれだし』って……。


思い出すだけでも胃がすり切れそうになり、右腕の痛みもひどくなりだす。


だが、肝心の彼女は「ふあ〜」と大きな欠伸をして眠そうに背伸びをしだした。


「うるさいわねー、質問は一回ずつにしてよ。それに私のことはそのうちわかるから気にしない」


そう言って彼女は背を向ける。この何もない空間のどこに行くつもりかはわからないが、別に適当にぶらつくわけでも無いらしい。


…………いやいやいや!!


「ちょっと待てよ!!まだ話は終わってないだろッ!!!」

「もう終わり。ユウキに干渉しすぎて眠たいのよ」


そう言ってもう一度欠伸をしながら歩いていく彼女を追おうとしたとき。


「―――ッ!!」


再び地面が消える感覚。足を踏み外した俺は、当然彼女の下へかけることもできずに穴に落ちていく。


「あ、そうそう!私の名前はユリ!覚えといてっ!」


ふと、そんな声が耳に入った。

ユリ……、やはり聞いたことが無い名前だ。そもそもこんな所にいるんだからいつどうやって会ったのかすらわからないんだ。



そして俺は再び暗闇の中へ落ちていった。




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