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episode 31 追いかけてくる過去


「構えろ、悠希ッ!!」


そう言い放った瞬間兄さんの姿が掻き消えた。それと同時に右から嫌な予感を感じる。


「ッ!!デュランダルッ!!」


瞬間展開。

一瞬という時間すらかけずに掌に武器を呼び出す。

手に治まるのはは透き通るような青みがかかった両刃の剣――氷剣デュランダル。

美しい装飾が施されたその剣を構え、全神経を集中させる。


ガキィィィン!!


ほぼ無意識に反応した腕は、見事に兄さんの刀の闇刀影月を受け止めた。その間、まったく兄さんの姿が見えなかった。


だが、別にそんなことが影月の能力ではない。かといって隠蔽(ハイド)の魔法でもない。あれに使っている魔法は身体強化だけだ。


―――『神速』


それは兄さんがかつて呼ばれた二つ名。人間の目では捕らえられない程の速さで敵を葬ってきた証。だがこんな物、この人にかかればどうってことはない。ただ速いだけが兄さんではないことを俺は知っている。

それでもこの速さは厄介だ。


「はぁぁぁぁああ!!!」


【氷属性魔法:氷触】


魔力を込め、剣を地面に突き刺し、そのまま術式を発動。その瞬間、接触点からもの凄いスピードで氷の大地が広がっていく。

この魔法は領域へ働きかける魔法だ。もちろん地面と接触していれば何でも氷る。唯一の例外は俺だけ。


広がって行く氷の大地が兄さんを追い詰める。だが、術式が発動した直後、左手に新たな武器を呼び出す。


パキッ


兄さんへの距離が残り一メートルをきったあたりで、大地を覆っていた氷に亀裂が走る。いや、それにしては不自然な程綺麗に切れている。

だが、その現象が起きるより、俺が左手に武器を呼び出す方が早かった。


俺が呼び出したのは白銀のリボルバー式の銃。銃身には美しい十字架が描かれているその名は光銃ジャッジメント。


俺がジャッジメントを呼び出したのは、あの程度では終わらないと踏んでのことだった。逆に言えば次で仕留める、そう決意したから。


決まってくれよ。


【無系統魔法:光銃:光子誘導放出(フォトンレーザー)


この光銃ジャッジメントの無系統魔法は、光を収束し、放出しているように見えるがそれだけでは無く光自体を物質化させ、熱量を自由に操作し、さらに光の形状、速度を光速から完全停止まで変化できる。真っ直ぐにしか飛ばないデメリットがあるとはいえ、それでも余りあるほどのメリットを持ったこの武器だけの魔法。今設定してある速度は、実際の実弾とは比べものにならないどころか、光と同じ速さで飛んでいくように設定している。


それが兄さんへと目にも留まらぬ速さで被弾して、利き腕である右腕に穴を穿く。



――はずだった。



既にそこには兄さんの姿が無かった。そのことに驚愕しながらも辺りを見回し、気配を探る。


ザクッ


「…………え、……?」


後ろから何かを突き刺したような音が耳に入る。振り向くが、そこには誰もいない。そして気づいた。気づいてしまった。


………………右腕が無かった。


「あ、あ……」


鮮血を上げる右腕を見た瞬間、頭の中が真っ白になる。さらに走る激痛で顔が歪む。


「あぁぁあああアァアあアあああ!!!!!!」


痛覚を直に刺激されたような痛み、飛び散る血に頭がパニックに陥る。


(落ち着け!!これは現実じゃない!!現実じゃないんだ!!!)


自分に念じるようにそう言い聞かせた。だが、頭でわかっていても、体は痛みに身悶えている。


「……なんで急所を狙わなかった?今更罪悪感がこみ上げてきた、なんて言うんじゃないだろうな?」


厳しい声が正面から聞こえてくる。痛みに耐え、必死に顔を上げるとやはり兄さんが居た。


「う……アサ、シン……」


返答になっていないどころか普通なら意味がわからない答えに、兄さんはあからさまに顔をしかめる。だが、そこには少しの賞賛の色があった。


「ほう、良くわかったな。わざわざ姿を消してまでカモフラージュしたんだが」


闇刀影月の無系統魔法、それが“影からの暗殺者(アサシン)”という魔法。この魔法は影がある場所から刀を具現化するという魔法。上手くイメージすれば複数の影から同時に刀で串刺しということも簡単だ。

ただ、これには発動までにある条件が必要となる。


「い、つ……影を……」


その条件とは具現化させる場所、つまり影を踏むこと。これをしなければ発動できない。だが、この動作をした素振りを見せなかった。


改めて振り返る。今、俺の周りには影が無い。唯一あるのは俺の足下の影だけだ。…………足下?


「―――まさか……最初……?」

「ああ、その通りだ」


兄さんが動いたとき、それは最初に俺へ攻撃してきたときだ。つまりそのとき、既に俺は死亡宣告を受けていた。

腕を押さえて呆然としている俺に兄さんは嘲笑を顔に浮かべる。


「あの時もそんな格好だったな。お前はそうやって地を這いずりながら、俺が殺されるのをただ見ていた」

「ち、がう……」


止めてくれと心が叫ぶ。だが、口から発せられたのはそんなか細い声だった。


「お前は俺を見殺しにしたんだよな?」

「違う……」

「何が違う?わざわざ捕まりに行って、俺を呼び出す餌になり、そして盾にされた。裏切ったようなもんじゃないか」

「……違うんだ」


止めろ。もう思い出したくない。止めてくれ。

誰にも話したことのない奥の奥までほじくり返されたように、胃が擦り切れるような痛みが走る。


「知ってるぞ。今は人殺しで追われてるらしいな」

「なん、で……?」


その言葉に衝撃を受ける。だが、兄さんはそんな俺をも嘲笑うかのように不敵に微笑んだ。


「ここはお前の中だぞ?俺は作られた存在。お前の感情、経験、全部ここに流れてくるんだよ」


そう言って頭を指差す。


「無様だよなぁ。英雄呼ばわりされといて次は犯罪者ときたもんだ。けどお前にはよっぽどお似合いな冠だな」

「止めてくれ……兄さん……」


もうそれ以上俺を責めないでくれ。


「何言ってる。事実だろ?お前は俺を殺した、つまりあの頃から味方殺しの犯罪者。何も変わって無い」

「止めてくれよ、もう……」


俺を否定しないで……。


心が壊れそうな程、言葉が胸に突き刺さる。

『あの頃から何も変わってない』、これは一番言われたくなかった言葉。今まで必死に強くなろうと努力して来た。もう誰かが死ぬのを見たくないから。


けどそれは偽善だ。俺はただ、八つ当たりしていただけなのかもしれない。


「この人殺し」


その瞬間、何かが壊れる音を、俺は聞いたような気がした。


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