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episode 2 なんで疑問系?


血溜まりの市街地を俺は血の滴る剣を握って歩いていく。


――――まだ足りない。


俺の中で何かが囁きかける。



足りない足りない足りない足りない足りない足りない足りない足りない足りない足りない足りない足りない。



禄に考えられなくなった頭の中で、俺は求め続ける。



―――あいつらを殺せ。

―――兄さんを殺したあいつらを殺せ。

憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い。


既に頭の中は既にそれだけしか考えられない。体は勝手に殺すべき敵を求め続ける。



ひたすら歩き続けると視界に軍服を着た20名程の男たちが映った。

向こうも俺に気づいたようで10人程がこちらに向かってくる。手にはそれぞれ武器が握られている。



―――復讐だ。



駆け出し、剣を構える。一瞬で距離を詰め、一番前の低空姿勢で走ってきた男を斬り伏せる。血飛沫が上がり、顔に赤黒い液体が纏わりつく。だがそんなものは俺の意識にすら入らない。

そんな俺の姿を見て、周りの男たちの顔が恐怖で歪む。今はその表情を見るたびに心地よい達成感が全身を包む。



もっとこいつらに絶望を。



手近に居たやつの腕を斬り飛ばす。苦痛の悲鳴を上げる男を放置して他の奴らに斬りかかる。



腕。胴。足。首。



気付けば辺り一面にバラバラの死体と血の海が広がっていた。



もっとだ。

もっと殺さないと。



☆☆☆☆☆



「・・・またか」

意識が覚醒していく。薄暗い部屋の中呟く。今日の夢も最悪だな、などと苦笑しながら内心で呟く。気付けば背中がじっとりと濡れていた。

ここ五年間、良くさっきと同じ夢を見ることがある。

嫌な夢だ。

忘れてしまいたい記憶。でもうまく忘れられないらしい。現に今でもまだ鮮明に覚えている。

そんなモヤモヤした気持ちに浸っていると、いつもと違う違和感を覚えた。視線を動かすとどうやら俺が寝ていたのは見慣れない部屋のソファーだったらしい。


「・・・・あー」

するとすぐに昨夜の事を思い出した。

あの後一葉と入学についての説明を受けたあと、まだ正式に転入していないから寮の部屋を使わせることはできない、ということで都市庁(一葉が昨日呼び出したでかい建物のことだそうだ)の15階、つまり昨日行った理事長室のすぐ下の宿直室で一夜過ごすことになったのだ。本当に彼女には頭が上がらなくなるな。


ソファーから起き上がり、バスルームへ向かう。この宿直室にはバスルームやトイレまで完備されているらしい。

服を脱ぎ捨て、蛇口を捻る。勢いよく冷水が出てきたが、構わず体にかける。徐々に温度が上がっていき、丁度良いお湯になったところで体を洗う。

数分間浴びると蛇口を閉じる。バスタオルで体を拭き、先程まで着ていた服を着ろうとするが止めた。そういえば昨日はこの部屋にたどり着くとそのまま泥のように寝た。当然服は着替えてなかったので汚いし、所々破れたり焦げたりしている。

昨日の帰りに一葉に新しい着替えと制服を貰っていたので問題無いのだが、なんだか捨てるのも勿体無いなぁ、などと思う自分も居る。

数分悩み続けて結局捨てることに結論づけ、制服に着替える。


まだ登校するには二時間程早く、どうするか再び思考する。


コンコン。

うんうん唸っていると澄んだノックの音が聞こえてきた。


「はー―――」

はーい、と答える前に扉が開けられた。こんなふうに入っくる人物を俺は一人しか知らない。

「おっは・・あれ?なんで起きてるの?」

「寝てたらどうすんだよ・・・」

入ってきたのはやっぱり一葉だった。溜め息を吐きながらの抗議もこれも予想通りスルーされた。

「まぁいいや。さ、行くわよ」

「行くってどこに?」

いきなり言われても理解が追いつかない。

「どこって、学校?」

「なんで疑問系?」

的確にツッコミを入れていく俺。うん、絶好調だな。

「ほら、あたし一応理事長だから。今日高校に用事あったし、ついでにと思って」

ニコニコしながら俺の手を引っ張る一葉に、「わかったから引っ張るな」とついて行く俺だった。



☆☆☆☆☆



登校中はまだ時間も早いということもあり、あまり注目されずにすんだ。

そんな中一葉が「学校大きいよー。顎外れちゃうかも」などとニヤニヤしながら言ってくる一葉に「まさか」と真っ向から否定。そんなはず―――。


「・・・・・でかっ」

・・・・あった。

横で腹を抱えて笑う一葉など気にも止めず、俺は“それ”呆然と見続ける。

学校が見えない。正確には校舎が見えない。目の前に広がるのはバカでかい校門と柵ばかり。一体どれだけ金使ってんのか、などと考えるのも馬鹿らしくなるほどの広大さだった。


「・・・・帰っていい?」

「だーめ」

逃げ出そうとする俺の腕をがっしりホールドする一葉。傍から見ると腕を組んでいるように見えるのだが、そんなこと意識する余裕なんてない。


校門をくぐり、五分程歩くとようやく校舎が見えてきた。

「森の中の城みたいだな・・・」

もう驚くのも馬鹿らしくなってきた。城と呼ぶに相応しい校舎の広さに、初代理事長、各国首相に脱帽。

中に入るとやっぱり生徒は疎らだが、俺と一葉を見るとギョッと目を見開く姿に苦笑いを浮かべるしかない。

一葉は理事長だ。この都市のトップが俺みたいな一般生徒と一緒に歩いていると必然的に目立つ。

今が登校時間じゃなくてよかった、などと場違いな安堵をしていると突然一葉が足を止めた。訝しく思って足を止めた部屋を見る。


校長室。

そう書かれた部屋の前で彼女は深呼吸をしだした。

たかが高校の校長室に入るだけで何を緊張してるのだろうか? 一葉の方がよっぽど権力強いだろうに。

そんな俺の疑問を察したのか彼女は振り返り、小声で囁きかけてくる。


「ここの校長、ほんとムカつくの。何か嫌なこと言われるかも知れないから気をつけてね」

「げっ。まじで」

そんな奴が校長なんてしていて大丈夫なのだろうか?などと呑気なことを考えていた俺は、この後その嫌な校長に対面することを覚悟して一葉のノックを聞いた。


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