表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
25/68

episode 24 眠り



すみません。


少し忙しかったものでいつもより更新が遅れました。



また日をあけることもあるかもしれませんが、今後ともよろしくおねがいします。


一際輝く光が俺を包む。この感じも久し振りだ。手に集まる光に感動を覚えがら見つめ、ふと目をニコルに向けると、彼女が振るう鎌がゆっくり見える。


……“ファランクス”。


心の中で呟くのと、手に重さが伝わるのはほぼ同時だった。それを強く握り締める。握った何かを振るい迫り来るニコルの鎌を弾く。

いつも無表情なニコルの顔が今回ばかりは驚きに見開かれた。だが、流石に反応が速い。すぐに距離を開け、こちらの様子を窺ってきた。


「……今のはなんですか?」


試合が始まって初めて開いたニコルの口からは抑揚の無い声が響いてくる。さすがにいつまでも動揺しているわけないか。


驚くのも無理はない。俺の手には何もないのだから。いや、確かに手にちゃんと握ってある、けど本当に何も握っていない。


ここにあってここに無い剣、それが“幻剣ファランクス”。俺の伝説武器の一つ。


誤解の無いように言うが、見えないのが能力ではない、剣自体に実体がないのだ。

というかそもそもこの剣に能力は無い。不思議なことにこれには伝説武器特有の無系統魔法の類が無い、あるのは普通の伝説武器以上に術式の保存容量が多いといったところか。

無系統魔法が使えない代わりにほぼ無限に近い数の魔法が使える剣、伝説武器の中の例外。


周りからは俺が手ぶらでニコルの鎌を弾いたように見えただろう。事実アリーナ内はざわめきだしている。そんな観客の反応など知ったことではなく、俺はニコルに向かって口を開いた。


「やり合ってりゃ分かる」


だが、俺が言ったのは色々と省略しすぎな言葉だった。一々説明するのも面倒くさい。これはただ楽しみたいだけという狂った理由で出しただけなのだから。

そう思った俺は、仕切り直しとばかりに再び地面を蹴った。それに反応したニコルも素早く俺へと肉薄してくる。


互いの距離が武器の間合いに入ったと同時にそれぞれの武器を振るった。何度も何度も繰り返される衝突音、完成された芸術のごとき交錯。


「らあぁぁあ!!」


吠えながら俺はありったけの魔力を見えない剣に叩きつけ、術式を展開。


【無属性魔法:剣技:旋断線−虚空−】


そのまま居合い切りの要領で一閃。だが、そこから放たれるのは魔力の塊。

斬撃と化した魔力がニコルに向かって飛んでいく。だが、それすらも彼女の鎌が防ぎきった。それがどうにも心地いい。


肉薄しながらも互いの魔力がまるで同胞を見つけたように呼応する。だがまだこんなもんじゃ足りない。


剣撃の嵐、そう呼ぶに相応しいほどの軌跡を描きながら俺たちは剣と鎌を振るい合った。




どれくらいそうしていただろう。5分か、10分か、あるいは一時間か。

半ば無意識で動く身体の中で、俺は少しの乾きを感じだしていた。


先程からニコルの反応が鈍ってきた。いや、俺の速度に追いついてこれなくなってきたのほうが正しいのかもしれない。


秒数が増すごとに俺の斬撃の数も増していく。さらに見えない剣を相手にしているのだから精神的疲労も少なくないだろう。

だが、心地よい満足感が薄れてきたのは紛れもない事実だ。


「まだだ、もっと付いて来いニコルッ!!」


叫び、俺の腕は一迅の閃光のように走り、握られた不可視の剣を振り回す。それについてこれなくなってきたニコルは、徐々に撃ち漏らしが出始めた。


剣先がニコルの端正な顔を掠める。そこからうっすら血が滲み出した。

それを確認すると、なぜか乾きがひどくなりだした。

苛立ちを抑えられず、俺はニコルの頭上に向かって無意識に剣を振り下ろす。



だがそこで自分が今しようとしていることを自覚して背筋が凍った。“幻剣ファランクス”はゆっくりと、だが確実にニコルの頭へと近づいていく。この距離ではもう防御もままならないだろう。


俺は今本気で剣を振り下ろしている。それはつまり結界の補助を突き抜け、殺そうとしていると言うことだ。


やめろッ!!


だがもはや止まれない。ニコルの頭を切り裂き、鮮血が飛び散る数瞬先の未来が頭をよぎった。


止まれぇえええ!!


心の中で叫ぶも口は開かない。自分の身体が乗っ取られた、そんな気がするほど身体が言うことを聞いてくれない。


《はい、ストップ》


頭の中に声響いたと思ったら突如頭を殴られたような衝撃が走った。急に身体の力が抜け、握っていた剣の重さも抜け落ちた。

視界が暗転し、俺はそのまま暗闇の中に落ちていった。





☆☆☆☆☆





「ゆうッ!!」


控え室の実況テレビで悠希がいきなり倒れたのを見て、紅葉たちは反射的に場内に向かっていた。

場内では観客がざわついているものの、誰も悠希を助けようとする者を居なかった。

そんな観客にふつふつと怒りが沸いてきたが、今は怒鳴り散らしている暇は無い。


そんな中、うつ伏せで地面に倒れている悠希の隣にぺたりと座り込んで唖然としているニコルの姿があった。彼女にも何があったのかわからないのようだ。では彼女が気絶させたのではないだろう。


「悠希ッ!!」


真っ先に悠希の下へ走り寄ったのは和彦だった。遅れて全員が到着し、取り囲むように和彦の診断を待った。

しばらくして和彦が顔を上げるが、その顔に焦りを浮かべていた。


「……わからない」

「「「は!?」」」


全員の声が重なる。それほど全員が驚愕させられたのだ。だが、そんなこととは裏腹に次の和彦の言葉に絶句させられた。


「なんで気を失ったのか全くわからない。体調的にはさっきより良い、寧ろ治ってると言ってもいいくらいなんだ……」

「どういうことだ!?」


拳を握り締め、唇を噛む和彦にライラは混乱しながら尋ねた。


「言葉通りの意味だよ。外傷はまったくない。脈も呼吸も体温も正常に戻ってるんだ。なのに意識が無い……」


全員が絶句する。だが、そんな中でさっきから座り込んでいるニコラが口を開いた。


「何にしても悠希さんを運びましょう。保健医の教師に見て頂いた方が確実です」

「……そうですね。ニコラさんの言う通りです」


ニコラの発言に綾芽が頷く。悠希を運ぶことに決め、ライラが担ぎ上げてアリーナを出る。未だにざわついている観客を冷たい眼差しで一瞥して紅葉は先に言ったみんなの後を追った。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ