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episode 23 五回戦−本気−


歓声と言う名の騒音を浴びながら俺は対戦相手、ニコラ・ベーレと向かい合っていた。なんと彼女は前の試合が終わってすぐに上がってきていたらしい。

多少罪悪感を感じはしたが、今更どうこうなることでもないし、向こうは何も感じはしないだろう。ていうか何考えてんのかわからんからそう思うしかない。

俺が来たとき少し顔を動かして以来微動だにしないニコルを見て、なんだか無性に帰りたくなった。


そんな俺の内心とは裏腹に観客の声援は時間がすぎるごとに激しさを増す。恐らく謎の転校生二人の対決、みたいな感じで興味を持ってきた人がかなりいるだろう。東京ドーム並みの広さのアリーナの観客席はほぼ満席状態だ。

これは紅葉たちが控え室に留まったことが正解だったな。


そんなことを思っていると、開始前のサイレンが鳴った。


「これより第5試合、ニコラ・ベーレvs華瀬悠希の試合を開始します」


アナウンスが響く。それと同時に俺は短い単語を呟いた。


「ジェネレート」


もう見せてしまったので出し惜しみする必要も無い。二丁の銃形態の補助武装を呼び出し、術式弾の詰まったスペアマガジンと交換する。


「……おし!!」


最後にガシャッ、と音をたてて入れ替え完了。気合いを入れるために頬を叩き、試合に集中する。


「悠希さん」


しばらくそうしていると、ニコルが呼びかけてきた。その抑揚の無い声が発せられたことに驚き、首を傾げながら彼女を見た。


「本気できてください」


ニコルがそう呟き終えるのと同時に試合開始の合図が響いた。


「始めてください」


それと同時に俺は地面を蹴ってニコルへ接近する。だが、


「――ッ!!」


突如背中に寒気を感じ、勘に従って右に飛ぶ。ブオンッ、という何かを振った音が寸前まで俺が居た場所から発せられた。

ニコルを見る。だが相変わらず動いた気配がない。


(幻術……ってわけでもなさそうだな)


俺の第六感があれは本物ニコルだ、と告げている。その通りだとするならば、あいつが動かずに武器を振り回す方法は一つしかない。


「……こりゃ、ガチでやらんと死ぬな」


苦笑しながら俺は右手の銃口をニコルに向け、それと同時に走る。

地面を踏みしめる感触と同時に“何か”が空気を切り裂く音が聞こえる。それを右へ左へ飛んでかわし、両手の引き金を引いた。


ズガガァンッ


二発同時に銃弾が飛ぶ。全て先程入れ替えた術式弾だ。


それが同時に弾ける。

右側の術式は巨大な水球を生成するものだ。それをニコルへと放つ。

だが、見えない“何か”によって水球は真っ二つに切り裂かれ、ニコル本人に届いたものは無かった。


だがこれでいい。


二つ目の術式を発動する。

瞬間、周りに飛び散った水はニコルの周りに幾つもの水球を作り出す。

先程より幾分小さいが、それを補う数がある。水球の数は約30個。それら全てがニコルへと殺到する。

たが。


「まぁそうなるよな……」


水球の下から影が伸びる。その影が水球を包み込み、影へと引きずり込んだのだ。正直気色悪い。

そうなるとわかっていたとは言え、さすがに目の前でグロテスクな光景が広がっては俺の気分も萎えるものだ。


だがいつまでもぼーっとしているわけにはいかない。そう思って再び走り出すと、突如俺の足下の影が蠢きだした。


「あー、もう!!気持ち悪い!!」


女性が使うにあるまじき魔法に、俺は思わず叫んだ。地面を蹴り空中に飛ぶ。

だが、それと同時に影から手が伸び、俺を引きずり込もうと迫ってくる。


うげ、キモイ。

どんどん距離が縮まってくる俺と影の手。もう魔獣なんかより断然気持ち悪い。

どっかのホラー映画でありそうなシチュエーションに思わず苦笑しながら、今度は普通の銃弾が詰まったスペアマガジンを呼び出し、今入れてあるマガジンと交換した。


影との距離、およそ一メートル。こんなことなら刀かなんか呼び出した方がよかったかなー、などと考えながら空中で回転。魔力を込め、引き金を引いた。


【氷属性添加:銃:纏−氷結−】


着弾と同時に影が氷る。だが、水球を飲み込んだ影までもが俺に殺到しだした。


形勢逆転とはまさにこのこと。いや、最初から俺の方が不利だったのかもしれない。

迫り来る影全てに銃弾を当て続ける。弾数はギリギリってとこか。


数秒後、着地と同時に全ての影を氷付けにした俺は次の攻撃に警戒しながらニコルへと向き直った。


「あぶねーよ、殺す気か」

「あなたはこれぐらいでは死にません」


偉く高い評価を受けてんのな、俺って。

再びの風切り音を聞き、反射的に身を屈める。もう銃じゃまずいかもな。


「トレースッ!」


瞬間展開、銃の代わりに刀を。今日何度目かの風切り音を展開した刀で防ぎ、弾く。

そのままニコルへと突っ込み、殺到する影を全て切り裂いていく。


久し振りの高揚感。


影の手をやたらめったら斬りまくっていると、そんなものを自覚した。


楽しい。


俺ってこんなに戦闘狂だっけ?などの疑問も今はどうでもよく感じた。まるでおもちゃを得た子供だな。

きっと俺の顔は狂喜に歪んでいることだろう。


斬る、走る、また斬る。


そうこうしてる内にニコルが間合いに入った。確認するより早く俺の腕は動く。


「うらあぁぁ!!!」


雄叫びをあげながら刀を振り下ろす。もう結界の補助が聞かないほどの威力と速さを備えた一撃。


カキィィンッ。


突如金属同士がぶつかり合った時特有の澄んだ音がアリーナに響いた。

俺の刀を黒光りする真っ黒な物が受け止めていたのだ。

それを確認した俺は一旦距離を取り観察する。


ニコルの手に握られたそれは、本人と同じくらいの大きさの巨大な鎌だ。装飾の施されたそれは、禍々しくも心を奪われそうな程美しい。観客も思わず息を飲んでいる。


「ようやく“デスサイス”のお出ましか。いい加減疲れた」


漆黒の鎌、それはニコルの所持する伝説武器、“死神の(デスサイス)”。この“デスサイス”のみの無系統魔法、それがさっきから見えない攻撃の正体だ。


「無系統魔法“霧の中の首狩り(ミストリッパー)”。鎌自体を魔力で操って、おまけに見えないんだから他の生徒が不思議がるのも無理無い」


伝説武器の名前と所持者の名前は調べれば割と簡単に分かる。だが、無系統魔法については完璧に情報が漏れないようにされている。

理由は単純に不利になるから。当然のことながら情報を持っているのと持っていないのではえらい違いだ。得意属性、使用武器、攻撃パターン、などなど持っていれば持っているほど有利になる。

それはレア持ちの場合も同じだ。伝説武器の能力まで開示されては他国へ侵略に出る国まで現れるかもしれない。特に今はロシアが控えているのだから尚更だ。


これらの理由によって無系統魔法、特に伝説武器の能力を知るものはほとんどいない。よってニコルの能力を知っている者はこの中では俺だけだろう。


そんなことを考えていると、突如今まで動かなかったニコルが走り出した。


――いや。


俺は前方のニコルではなく、何も無い背後に向かって切りかかる。


刀は振り切るより早く止まった。再び金属同士の衝突音が響き、それと同時にニコルが突然現れた。

幻術で自分を作り出し、さらに自分の姿を隠して攻撃。セオリー通りではあるが、ニコル程の高レベルの術師が使うとまるで本物の死神に狙われているようだ。


刀と鎌が交錯する。

何度も何度も切りかかるが、その度に弾かれ、いなされる。

身体はすでに思考で動いていなかった。体調のことなど頭には入らなかった。


ただ自分についてこられるだけの術師に狂った獣のごとく切りかかる。もう止まらない。


楽しい。


その単語が頭を占めていた。これだけの戦いはいつぶりだろう。もう結界の許容量を超えたこれは本物の殺し合いだ。


まだいける。まだ動く。


斬撃の数が増す。斬線の煌めきが俺の視界を覆っていく。それにつられるようにニコルも鎌を振るう。


もっと速く、速く、速くッ!!


「――ッ!!」


だが、変化は起きた。鈍い感触が俺の手に伝わってくる。―――刀が折れた。

おそらく激しい打ち合いのダメージが補助武装の耐久値を上回ったのだろう。


根元から折れた刀身が宙を舞う。だが、それには目もくれず、俺は迫り来る鎌を見つめていた。




もう、どうなっても知らねー。



「トレース」


俺は新たな武器を呼び出す。一際輝く光が俺を覆った。

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