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episode 22 決意、出陣


「で、なんで悠希なんかが理事長の知り合いなの?」

「それってちょっとひどくないか?」


保健室に帰ってきた和彦の一言はそれだった。ちょっとムッときたが、まぁ当然の疑問だろうと無理矢理納得することにする。

ただ、どう話せばいいか分からず、少しの間考え込んでしまった。


「えっとな――」


俺が口を開いた瞬間、幸か不幸か扉が勢いよく開かれた。


「ゆう!!」

「はっ!?紅葉!?」


いきなり扉が開いたことに驚いてそっちを見ると、いきなり紅葉が息を切らしながら走ってきた。そのあとからも桜、ライラ、綾芽さん、紅葉もあわせて4人が駆け込んでくる。

突然のことでニコルが居ないことなど気にかけることもできず、訳が分からなくなっていた俺に突如涙目の桜が抱きついてきた。


「一葉お姉ちゃんからお兄ちゃんが保健室にいるって聞いて……心配したよぅ……」


掠れ声をあげながら顔を俺に埋める桜。周りを見ても心底心配した、といった面持ちの三人と、俺と同じく気が動転している和彦がいるだけだった。


まぁ、一葉が教えるだろうことは何となく予想できていたことだが、余りにも早すぎるだろ。

一番考えられるのは誰かが試合中で、それが終わって来たってところなんだろう。

そんな憶測が脳内で飛び交っていると、黙っていたライラが口を開いた。


「ったく、とうとう倒れたのかって三人とも心配してたんだぞ。もっとすまなさそうな顔しろ、バカヤロウ」

「ライラさんもここに来るまでハラハラしてたくせに」

「なっ、何言ってんだよ綾芽ちゃん!!別にそんなんじゃ―――」

「別にライラさんだけじゃないんですから気にしなくていいのに」

「なっ――!!」


真っ赤になりながら抗議するライラにも動じずニコニコ微笑む綾芽さん。

そんな彼らを見て俺は――。


「すまん」


桜を離し、深々と頭を下げる。威勢を張った割に試合が終わるたびに保健室で和彦に介護されるこの始末。目も当てられない。


ゴスッ


「いってッ!!!」


そんなときにいきなり頭上から鉄拳が降ってきた。ズキズキ痛む頭を抑えながら顔を上げる。そこには拳を握り締めながら怒りの表情をした紅葉の顔があった。


「謝るなら最初から心配かけないでよッ!!私たちの気も知らないで!!」


叫ぶ紅葉。

返す言葉も見つからない。自分の意地の為だけにこんなにも心配してくれる友人たちが嬉しくもあり、同時に本当に申し訳ない。


「……すまん」

「……バカ」


再び頭を下げる俺をポカポカ殴る紅葉。

しばらくそうしていると、やけに言いにくそうな声が聞こえてきた。


「あのぉ……僕出てようか?」


居場所の無い和彦の情けない一言。だが、周りの反応は呆れなどではなかった。


「あれ?新原君?どうしてここにいるの?」


そんな彼が居たことに心底驚いたような表情をする紅葉。今まで気づいてなかったのか……。

半泣きの和彦を見て、なんだかすごくいたたまれない気分になってしまった。仕方ないので説明してあげよう。


「昨日の対戦で俺の体調に気付いたらしい。それで和彦の親が医者らしくて、面倒見てくれることになったんだよ。そうだよな?」

「う、うん」


コクコクと何度も頷く和彦に苦笑していると意外や意外、ライラが和彦に向かい合った。


「確か学年10位の新原和彦くんだっけか?こいつが迷惑かけたみたいで悪いな」

「お前は俺の保護者か!!」


なんだか先程の一葉のようにぺこりと頭を下げるライラと、同じく頭を下げる和彦に激しくツッコム俺。

そんなのお構いなしに世間話を始めた5人に、俺は苦笑しながらも混ざっていった。





☆☆☆☆☆





第11高校、第2アリーナ。

何の因果か俺とニコルの決戦の場は俺らのホームグラウンドとなった。

その控え室。俺たち六人はそこで試合時間まで待つことになった。

控え室には試合中継の大画面テレビが設置されており、ここで試合を見ることができる。何かあったときのために、と聞かない5人はここで応援してるとのことに決めたらしい。もう半ば諦めている俺は、集中するために昔ながらの黙想を始めていた。


「そういやお前知ってるか?」


そんなときに主語の無い問いをライラが投げかけてきた。思わず「何を?」と尋ね返し、目を開く。だが、答えたのは綾芽さんだった。


「ニコラさん、全試合その場から指すら動かさずに対戦相手を気絶させてるんです。上級生の間でもその話が持ちきりなんですよ」

「ふーん……」


あいつ意外と派手なことやってんだな。

考えられるのは幻覚系の魔法で攻撃を隠しているか、あるいは自分の居場所を錯覚させているか。まぁなんにしても、


(レア使ってんか……)


ここで言うレアとは伝説武器の呼称のことだ。

武装展開時の光を感じていないということは最初っから展開してんだろうしな。それも隠蔽(ハイド)かなんかの幻術で隠してるだろう。あんなの普通に持ち歩いてたら恐ろしすぎる。


そんなことを考えていると、開始10分前のアナウンスがなった。背中に走る寒気を振り払うように俺は立ち上がる。

しかし、場内に入ろうとしたところで袖を掴まれた。振り向くと紅葉が俯きながら袖を握っている。


「……どうした?」


なるべく優しい声でそう囁きかけると、彼女はゆっくり口を開いた。


「無茶はしないでね?」

「はははっ、一葉にも同じこと言われた」


それはさっき一葉が保健室から出て行くときの去り際のセリフと同じものだった。微笑みながらそう告げると紅葉は顔を真っ赤にしながらブツブツ言い出した。

そんな彼女の頭にポンと手を乗せ、他の4人にも目を向けて優しく微笑んだ。


「安心しろ。別に死にやしないって」


そんなバカみたいな宣言に、全員「なんだそりゃ」と言った感じでそれぞれ笑みを浮かべた。


「じゃ、行ってくる」

「気をつけてよ」

「勝ってこいっ!!」

「がんばってね!」

「怪我しないでくださいね?」

「何かあってもすぐ駆けつけるよ」


俺がそう言うと紅葉、ライラ、桜、綾芽さん、和彦の順で応援?の言葉をかけてくれた。そんな彼らに背を向け、俺は場内に向かう。



だが、一つ嘘をついた。

本気でやりあったら死ぬ、ということをだ。しかも俺の体調は最悪。さらにレアは使えない。悪条件に悪条件が積み重なり、俺はこの歩みが死へと繋がっているような気がして背筋を震えた。けどまぁ、


「後戻りなんてできるわけないよな」


それに簡単になんて死んでやるもんか。

そう自分へ言い聞かせ、徐々に聞こえてくる歓声へと向かって足を早めた。

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