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episode 21 探偵のような理事長



「和彦、次の試合は?」


場所は保健室。

すっかりお世話になってしまっているベッドに横になりながら次の試合の時間を聞いているところだ。

「ちょっと待ってて」と、ケータイを取り出してトーナメントのホームページにアクセスしだす和彦。やがて、終わったのか顔を上げて口を開いた。


「次は三時間後みたいだね。対戦相手はニコラ・ベーレさん。今までの試合を見るかい?」


尋ねてくる和彦、しかし俺は首を横に振った。


「いや、あいつが記録に残るような模擬戦で手の内明かすような真似するはずない」


それに本気でやるはずもない。そんなことしたら結界の中だろうと対戦相手の首が飛んでる。

言い切る俺に、和彦は多少目を見開いて驚きを表した。


「へぇ、よくそんなことわかるね。知り合いなのかい?」

「ああ」


一言だけ肯定で返すが、和彦もそれ以上のことは何も聞かずにいてくれた。こういう相手への心配りができるやつってすげーな。尊敬できる。

そんな感慨に浸っていると、コンコンとノックの音が部屋に響いた。


「どう――」


――ぞ、と続ける前にガラガラと、扉が開かれる。前にも言った気がするが、こんな失礼な入室の仕方をするやつを俺は一人しか知らない。


「悠希〜っ!」

「帰れ一葉」


いきなり飛びついてきた一葉をベッドから飛び降りてかわし、威嚇しながら睨みつける。傍から見たらさぞかし奇妙な光景だろう。


「り、理事長!?」


すっかり忘れていた和彦が素っ頓狂な声をあげた。何がどういうことなのかわからないと言った感じで、目を白黒させている。


「あ、新原君だっけ?悠希がお世話になってます」

「あ、え?は、はい、こちらこそ……」


いきなり一葉の矛先が自分に向けられて気が動転しているにも関わらず、彼女のお辞儀を反射的に返してしまうのは、彼の育ちの良さの現れだろう。確か医者の家系とか言ってたからな。

思わぬ発見をした俺だったが、さすがにこのままだと和彦が気を失いそうな程混乱しているので、いい加減説明してやることにした。


「和彦、少し落ち着け。こいつはただの知り合いだ。空気と思ってればいい」

「あー、それひどーい」


いきなり一葉が拗ねだしたが取りあえず無視。

和彦はというと、苦笑いしながらもどうにかいつも通りの俺の態度に落ち着いてくれたみたいだ。

それを待って、俺は一葉へと向き直った。


「で、何の用だ?」

「あ、そーだった」


わざとらしく手を叩いて、そんなことをほざきやがった。呆れてため息を吐く俺の心情などつゆ知らず、くるりと回って和彦のほうに向いて、申し訳なさそうに手を合わせて言った。


「悪いんだけど、悠希と話があるからちょっと席を外してくれないかしら?」


なんだがすごーく嫌な予感がするんだが気のせいだろうか?気のせいであって欲しい。

そう言われた和彦は一瞬どうしようか、と俺に目で聞いてきたが、とりあえず俺が頷くと素直に席を外してくれた。


ピシャリとドアが閉まったことを確認した一葉は、再び俺に向き直った。


「さて、聞かせて貰いましょうか。なんで術式弾まで使ったの?」


そのことか。


「別に。“トライデント”と“ジャッジメント”は使えないんだ。なら手持ちで使えるのを増やしたほうがいいってだけ。術式弾は公にしてないどころか、知ってるのはお前らと一部のレア持ちだけだし、正体がバレることもないからな」


実際そういう目的があって使ったわけだし、嘘はついてないよな?

自問自答を繰り返している俺を見て、「そう」とだけ答える一葉。なんか今日はやけに聞き分けがいいな。

訝しく思っていると、次の言葉を投げかけられた。それは奇しくも今朝の和彦と同じ問いで。


「で、体調は大丈夫なの?」


………………。


「……いつ気付いた?」

「二回戦のとき。いつもより脚裁きが固かったしね」

「良くわかるな。画面越しなのに」


俺の素直な賞賛に、えへんと豊満な胸を突き出して威張る一葉。褒めるすぐこれだ。


「風邪?魔力を循環させて回復力上げてる?」

「ああ。けど、どうにも効き目が無いらしい」


だが、俺のその言葉の次の瞬間には真剣な面もちで恐る恐る聞いてきた。


「……もしかして“転生継承の儀式”?これ以上はさすがに悠希でも……」

「いや、違うと思う。第一“痛覚系”ならまだしも俺は“血液系”だ。もしそうなら頭痛じゃなくて血管にダメージがくるはずだ」


他の人間が聞いても全くわからないだろう単語の嵐。

その言葉で安心したのか、一葉は表情を緩めて安堵のため息を吐いた。

その話はこれまでということで、話題は俺の次の試合のことになった。


「次は“トート”が相手なんでしょ?そんなんで大丈夫なの?」

「……ほんと良く知ってんな、お前。探偵にでもなってろよ」


こいつにニコルの話をした覚えは無いのだが……。

もう諦めた。はなからこいつに探り合いで勝てるはずがないんだ。今までの俺の人生がそう物語っている。

最後に一回盛大にため息を吐いて、言葉を紡ぎ出す。


「ああ、術式弾が使えるメリットがあるっつっても向こうはレア持ちだ。俺みたいにリロードせずにすぐ撃てる。下手すりゃ“ファランクス”使う羽目になるかもな」

「あれって情報漏洩されてないんだっけ?国際バンクのデータにも載ってないの?」


一葉の問いに頷く。別に一葉には隠すようなことでもない。


「あれもお前らと一部のレア持ち、それと日本の上層部しか知らないはずだ。そもそもあれはバレるような代物じゃない」

「あー、確かに」


一葉が想像したのか、少し苦笑を浮かべていた。

聞きたいことは全部聞いたのか、いきなり回れ右をして扉に向かいだした。だが、扉の前に立つとふと脚を止めた。

振り向かないまま口を開く。


「無茶はしないでね?」

「昔みたいな真似はしねーよ。だいたい学校のイベントで無茶なんてしないから心配すんな」


そう応えると、そのままドアを開けて出て行ってしまった。顔を向けていなかったので表情まではわからなかったが、雰囲気は笑っていた気がする。


少し元気が出た俺は、やっかい払いされた和彦を呼び戻すためにケータイのコールボタンを押した。



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