episode 20 四回戦−術式弾−
「体調は?」
心配気に見つめてくる和彦に「問題ない」とだけ答えておく。
第18高校、第2アリーナ控え室。
そこで俺たちは次の試合を待っていた。あと10分後にはここで俺は学年5位のエリオ・コンティと戦うことになる。戦うと言ってもたかが学校の模擬戦なのだが。
和彦の最後の体調チェックを受け、軽く伸びをする。
まだ体調は悪い、それも最悪だ。だが魔力で身体全てを動かせば問題ない。普段より魔法には制限がかかるが、どでかいの一発撃ってアリーナを吹っ飛ばすわけでも無いのでこちらも問題ないはずだ。
「じゃあ行ってくる」
そう一声掛けて、競技場に向かっていった。
☆☆☆☆☆
場内では既に対戦相手が待っていた。テレビで見た以上に優しそうな顔をしている。
「君が華瀬君だね。今日はよろしく」
突然話しかけられたらことに多少びっくりしたが、差し出された手にいつまでも反応しないわけにもいかず、手を伸ばして俺たちは互いに握手を交わした。
「ところで、和彦に勝ったんだって?じゃああの噂は本当だったんだね」
手を離すと、いきなりそんなことを言ってきた。こんなやつにまで広まってるのかよ、などと自分でやったことを棚に上げてげんなりする俺。
そういえば、
「和彦とは知り合いなのか?妙に仲良さそうだけど」
なんか和彦も“リオ”って呼んでた気がするし。
俺の疑問を肯定するようにエリオは頷いた。
「同じ第3高校のクラスメートだよ。中学の頃何度かトーナメントで一緒になったからね」
なるほど、クラスメートなわけか。どうりで。
一人で勝手に納得していると、試合開始前のサイレンが鳴った。
「これより四回戦、華瀬悠希vsエリオ・コンティの試合を開始します」
その宣言で俺の五感が徐々に冴えていく。それと同時に身体の痛みも引いていくようだ。
「「ジェネレート」」
俺とエリオは同時に呟く。光が集まり、俺の両手には二丁の銃が、エリオの手にはハルバートが現れた。
「あ、そうだ」
言い忘れていたことがあった。
「どうかした?」
首を傾げるエリオ。試合前に呑気にこんな反応が出来るのは、彼の自分が負けるわけが無いという自信のためだろう。そんな彼に一つ言っておかなくてはならないことがあったんだった。
「負けても恨みっこ無しな」
「ははは、お互いね」
笑い合う俺たち。きっと周りから見るとアホにしか見えないんだろうなぁ。
「始めてください」
バカなことをやっていると、開始の合図がアリーナに響いた。
俺たちは同時に駆ける。
そういえば入学試験のときにもハルバート使いのヘイル先生とやりあったな〜、などと思いながら銃口を向け、両手の引き金を引いた。
二回の銃声。
牽制目的で放った銃弾は狙い通り、エリオの脚を一瞬止めた。
それで充分。
「トレース」
瞬間展開。一瞬で武器を呼び出す俺だけの技能。他の人間には何も無い空間に突然現れたように見えるその技を使って呼び出したのは日本のスペアマガジン。
素早くリロードを行い、そして再び引き金を引いた。
飛び出す銃弾。さっきと同じようパターンだ。だが、
「術式展開」
俺が呟くのと変化が起きるのはほぼ同時だった。
銃弾がはじけたのだ。
突如エリオの周りに冷気が漂い始める。変化を感じ取ったエリオは、さすがの反応速度で後退しようとする。だが、
「発動」
再び呟く。
エリオの周りの水分が凝結。瞬く間に巨大な鳥篭ができあがった。
「な、なんだよ、これ……」
呆然と立ち竦んで消え入りそうな声でそんなことを呟く。まぁ驚くわな。
これは俺が適当に考えて作ってみた簡易魔法術式具“術式弾”だ。銃弾一発に術式一つ分を詰め込み、魔力を込めて打ち出すと発動できる優れもの。
元々は「一発一発違う魔法使えたら面白いなぁ」などという子供心から作り出した物だが、なんとまぁ何だかんだで出来ちゃったのだ。特許取ったら儲かりそうだが、生憎そっちには全く興味無いので今のところ広めるつもりはない。
そんな隠し玉ならぬ隠し弾を持っていたことなんて知るはずないエリオは、もう脱出しようともせずポカンとしている。
「おーい」
手を振っても反応が無い。これって俺の勝ちでいいの?
審判に尋ねようにもその審判さえもポカンとしているのでどうしようもない。
………………イラッ
だんだんイライラしてきた俺は、通常弾に入れ替えて球切れおこすまでガンガン撃ちまくった。もちろん魔力コーティングして威力を落としている。
「いたたたたたっ!!!」
今やパチンコ玉並みの威力に変わった銃弾がエリオの身体のあちこちに当たり、彼は涙目でうずくまりだした。
「目ぇ覚めたか?」
「……痛い」
こいつは意外と泣き虫なのだろうか?涙目で訴えてくる姿が妙に様になっている。なんだか自分が弱いもの虐めしている気分になってきた。
「やらないなら降参してくんない?なんか俺が惨めになってくる」
「え?あ、ああ、すまない」
再びエリオがハルバートを構え、氷でできた鳥篭の檻に一振り――。
ガキィィン。
金属同士が衝突したときのような甲高い音を上げたと同時にエリオは数歩後ろによろけた。
「か、かったいなー……」
「そう作ったからな。もう終わらせるぞ?」
問いではなく確定として呟き再び術式弾のマガジンと交換し、エリオに向けて引き金を引く。
「発動」
銃弾がはじけ、術式が発動。
【雷属性魔法:蛇竜】
名前の通り雷でできた蛇竜が現れ、標的に向かって這うように進む。そして鳥篭の中に入った瞬間、獲物に飛びかかる。
さすがにまだ動けないなんてことはないエリオだったが、必死にかわそうとするも、完全に避けきることはできず尾に触れた。
「がっ!?!?」
その瞬間、流れ込んできた電流に短い呻き声のようなものをあげてついに倒れ込んだ。
「勝者、華瀬悠希」
勝敗が決した。これで次はニコルとだな。
ピクピク、と痙攣しているエリオを尻目に俺はその場を後にしたのだった。
すみません。
明日から更新に少し日を空けるかもしれません……。