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episode 1 堕ちた英雄


魔術師、死霊術師、召還術師、精霊術師、超能力者。

術師と呼ばれる彼らが世界を発展へ導き、これらは世間の常識となっていた。

術師は生まれながらにして一般人とは違う時間軸で生きている、そんなことを思っている者も少なくないだろう。

そんな彼らの“力”は当然軍事力としても使われる。

前世紀の兵器は術師の軍隊には遠く及ばない。それ程に協力な物であり、国家が彼らを優遇するのは必然であった。

だが、彼らも人間だ。悪意を持って力を使わないとは限らない。それは国際会議でも危ぶまれたことだ。

術師をきちんと育成し、危険な思想を抱かせないようにする。それがこの世界の課題となった。


そんなときに発案されたのが人口島“学園都市スフィア”の建設である。


各国が予算を出し合い、能力者を同じ場所で教育し、国が干渉できない場所。

すぐに国際会議で決定され、人口島の建設が進められた。なんと太平洋のど真ん中に。


飛行機で行かなければならないような場所であるが、それらを簡略化させる装置も当然作られた。


ゲート――正式名称『時空間転移魔法装置』。国の干渉ができないようにするため学園都市が許可した者のみをワープさせる夢アイテム。

各国が膨大な資金を投資したこれらは、ある人物の活躍により発案から僅か八年で完成された。

小、中、高、大学までの生徒数は約200万人。縦横およそ300キロメートルと広大な面積であり、もう一つの国と言っても過言ではない。


俺はそんな学園都市へとゲートにより一瞬で到着した。





☆☆☆☆☆





「よっと」


ワープしてきた俺は初めの一歩を踏み出す。

眼前にはヨーロッパや、日本風などの様々な建築物が広がっていた。今は7月16日。夏ということもあって夜だと少し涼しいぐらいの気温だ。初めてきた学園都市としては「綺麗なところ」といった感想だった。


「・・・・疲れた」


そこで自分が先程まで走り回っていたことに気づいた。今更になって汗が滴り、呼吸が乱れる。

深呼吸。

肺の隅々まで酸素を行き渡らせるように何度も息を吸っては吐いていく。


「はぁー・・・・しっかしなんというか・・・」


子供ばっかだな。

そう思ったが、自分も16なので口にはしない。

だがそう思うのも当然で、見渡す限り少年少女しか見当たらない。さすがに店とかには大人もいるらしいが、7時半の帰宅ラッシュのこの時間に子供だけってのはなんだか変な感じだな。


トゥルルル。


そんなことを思っていると、ポケットの中に突っ込んでいた携帯が鳴る。通話ボタンを押して耳にあてる。


「・・・もしもし」

『もしもし?悠希?」


電話越しに俺を呼ぶ落ち着いた声。


「一葉か。わざわざケータイにかけずに念話でよかったのに」

『私はあんたより魔力無いから疲れるのよ』


首を竦めた気配が伝わってくる。念話とは、互いの思考を魔力で飛ばして会話する魔法だ。先程一葉の声が頭に響いてきたのはこの魔法のためである。


「まぁいいや。で、俺はどこに行けばいい?」

『そうね、そこから一番高いビルが見えない?』


言われて辺りを見回す。すると一葉の言った通り一際大きい建物が目についた。


「ああ、見える」

『そこの最上階に来て。警備には私から言っとくから』

「ん、了解」


電話を切り、再びポケットに突っ込んでビルに向かって歩き出した。





☆☆☆☆☆





ビルにたどり着くと警備員に声をかけられたがすんなり通してくれた。

エレベーターに乗り込み16階、最上階のボタンを押す。微かな浮遊感に包まれ、上昇していく。最上階へ到着し、真っ直ぐに伸びる廊下をスタスタ歩く。

すぐに奥の扉の前に辿り着く。軽く深呼吸してドアをノックすると「どうぞ」と促されノブを回す。


「久し振りね悠希。それとも英雄、華瀬悠希(はなせ ゆうき)様のほうがいいかしら?」

「黙れ腹黒女。その英雄ってのやめろ」


ニコニコ軽口を言ってくる腹黒女こと波風一葉(なみかぜ かずは)

俺より10歳は年上のはずなのだが、どうみても2つ上にしか見えない容姿は俺の暴言にも眉一つ動かさずに笑顔を振りまく。


「あらあら、せっかく困ってるところを助けてあげたのに」

「それに関しては素直に感謝してる。でもそれだけはやめろ」


軽く睨むと一葉は大袈裟に肩をすくめる長い黒髪がサラサラとなびく。普通ならばこの仕草だけでもバカな男が惚れるのではないかと思わせるほどのものだ。


「まぁあんたには五年前に紅葉を助けて貰ったから別にいいんだけどね」

「気にしなくていいのにな」


今度は俺が肩を竦める。


「まぁその話はまた今度にしましょう。じゃあ本題に入るけど・・・」


そこで言葉を区切る。続けられた問いは半ば予想していたものだった。


「・・・何があったの?」


こちらを窺うように上目遣いに聞いてくる一葉に俺は目を瞑った。数十秒の沈黙の後、口を開く。


「・・・俺がロシアからの大使たち14名を暗殺したんだと」


苦笑しながら言うと、ポカンとしてフリーズ。しばらく間を置き、俺の言葉を理解したのか顔面蒼白になりながらおずおず聞いてくる。


「そ、それって何かの間違いでしょ?なんで悠希がそんなこと・・・・」


最後ぐらいから消え入りそうな声になり、表情が沈んでいくのが目に見えてわかった。


「もちろん俺はなにもしてないけど、大方俺がまだ五年前のことを恨んでるとでも思ってるんだろうな。それか日本が俺を危険だと判断して殺そうとしたとか」

「・・・・・・・・」


自嘲気味に言うと再びの沈黙。実際こればかりは言い返せないだろう。確かに俺は今でもあいつらを許せないし、何度も発狂しそうにもなった。そのたびに身を切るほどの憎悪を耐えて今まですごしてきたのだ。だがそんなこと言っても信じて貰えないのはわかりきっていることだ。


(さて、これからどこに行こうか)


幸いここにはゲートがある。これを使えば他国にも一瞬でつく。もちろん向こうのゲートに大人数で張り込まれていたらアウトだが、多少の包囲ならどうにでもなる。

これからの予定を立て終えたとき、沈黙を守っていた一葉の口が開かれた。その言葉はここに来る前にある程度予想していて、ここにきて忘れていたものだった。


「・・・じゃあしばらくここで過ごしなさい。もとよりそのつもりで呼んだんだし。それまでに私があんたの無実を証明してあげる。絶対にあんたを殺させやしない」

「ちょっ、それは・・・」


迷惑かかるし。

そう言おうとしたが手で制された。一葉ならばそう言うと思っていたのだが、ここにきた安堵でそのへんを考えていなかった。彼女の顔を注意して見ると僅かに憤怒に顔を歪めている。だがそういうわけにもいかない。


「・・・そこまで迷惑をかけられない。それに俺は指名手配になるだろうし、そんなことすれば一葉だけじゃなくて紅葉にも迷惑がかかる。第一あんたはここの理事長だ。責任取らされてやめさせられたらどうするんだ?」

「指名手配になんてならないわよ」

「・・・は?」


あまりにも平然と言ってのける彼女の言葉を俺は一瞬理解することができなかった。


「何言って―――」

「あんたは仮にもあの国で英雄なんて呼ばれてたんだから公表したらえらいことになるでしょ」

「・・・・あー」


なるほど。

すごく不本意であるがそれならば納得できる。確かに俺が犯罪なんてしたって言ったら全世界パニックものだろう。俺の名前は五年前の出来事で知れわたってしまっている。


「だけどさ・・・」


逃げ道が見つからず口ごもってしまう。否定の材料が見つからない。そんな俺の態度を見て一葉は優しげな声音で囁きかける。


「あんたは今まで一人でなんでもかんでも背負ってきたんだから、たまには他人を頼りなさい。確かに私はあんたに恩がある。けどだから助けるんじゃないの。困ったときはお互い様よ」


いつもの穏やかな笑みを浮かべる彼女に、俺は俯きながら「ありがとう」と呟いた。それが彼女に伝わったかはわからない。向かい合ってそんなことを言うなんてなんだか照れ臭い。

顔を上げて俺も心からの笑みで答える。もう心は決まった。


「じゃあ世話になることにする。もし面倒ごとになりそうになったら捨ててくれていいからな」

「そんなことしたらあの子たちに殺されちゃうわよ」


一葉の冗談で笑い合い、この話はこれで終わりとなった。



今思えばこの決断で俺の人生が180度変わったんだろう。もしあのまま逃げ続けても禄なことにはならないのは目に見えているのだから運命ってのは皮肉なものだ。

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