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episode 16 一回戦−意地−



球技場内に上がると、観客席から歓声が湧く。だが、すでに思考さえも重たくなってきた俺には届かった。


前を見据えると誰ががが立っていた。それだけしかわからない。


「君が噂の転校生か。今日は楽しませてくれよ」


もう声も出したくない。

このままぶっ倒れていたい。だが、そんな醜い醜態をさらせるわけにもいかず、ただ目の前の男を見据える。


そんな俺の態度をどう感じ取ったのか、男は舌打ちをした。


「随分生意気なんだね。上下関係ってのを教えてあげるよ。ジェネレートっ!!」


男が言い放つのと、開始前のサイレンが鳴り始めたのは同時だった。


「これより!!第一試合華瀬悠希vsアルフレッド・ボートンの試合を始めます」


審判らしき男の声がスピーカーで増幅されて聞こえてくる。


「武装展開しなくていいのか?」


審判が問う。

だが、何を言われたのか理解できない俺は何も反応できなかった。


「そうか、では初めっ!!」


その声と同時に俺は対戦相手、アルフレッドの背後に半ば無意識で回り込んでいた。


ドサッ


会場内が静まり返る。

開始一秒も経っていないのにアルフレッドが倒れたのだ。


ぽかんとしている審判を尻目に俺は控え室へ向かう。

そんな俺の態度で我に返ったのか、彼が俺の下へ駆け寄きた。


「い、今のは何をしたんだ?」


至近距離で話しかけられたお陰で、俺に対するものだと理解できた。


「別に。首筋を瞬間的に圧迫して気絶させただけです」

「ま、魔法は?」

「身体強化だけです」


愕然とする審判。

どうでもいいから早く終わらせて欲しい。

「もういいですか?」と、目で催促すると、ようやく気がついたのか再び声を上げた。


「す、すまない。勝者っ!!華瀬悠希っ!!!」


その言葉で正気に戻った観客が一斉に沸いた。

今度こそ俺は控え室へと戻っていった。




控え室に戻ると、ロッカーに置いてあった携帯に6通のメールが届いていた。


順番に見ていく。


―――――


ライラ

一回戦突破おめでとう!!

その調子なら大丈夫だな!!

こっちは波風が一回戦突破したぞ!!

俺もがんばんねーとな。


―――――


紅葉

初勝利おめでとう。

倒れちゃうんじゃないかって心配してたんだからね?

こっちも一回戦勝ちました。

お互い頑張ろう!!


―――――


お兄ちゃんおめでとー!!

さすがお兄ちゃんだね!!

でも、あんなにきつそうにしてたので心配です……。

無理しないでね?


―――――


綾芽

悠希さん初勝利おめでとうございます!!

私は悠希さんが勝つって信じてましたよ!!

お体は大丈夫ですか?

限界を感じる前に棄権してくださいね?


―――――


一葉

まずは初勝利おめでとう。

でもどうかしたの?

らしくなかったわよ?


―――――


大会運営

一回戦突破おめでとうございます。

対戦相手が決まりましたら再びメールさせて頂きます。


―――――



(ニコルからは無し、か。というか情報回るの早いな)


返信を打つ体力も無く、そのまま携帯を閉じた。



控え室を出ると、そこには先程ここに案内してもらった遥、里香、セシルの三人がそれぞれの顔に興奮を隠せないような表情を浮かべて立っていた。


「す、すごいです!!学年23位を瞬殺なんて!!」


真っ先に詰め寄ってきたのは遥だ。

若干気圧されていると、里香とセシルまでも寄ってきた。


「ゆっきぃーすごいですぅ。あれって身体強化ぁ?全く見えなかったよぉ」

「あ、あんな短時間の模擬戦見たことないでございますっ!!」


のほほんとした里香がそういうと、妙な尊敬語を使ってくるセシルが目を爛々と輝かせた。


「そ、そんなことないから、ね?」


ここで意識を手放すまいと必死に三人を宥める。

朦朧とする意識の中で俺たちはゲートまで移動した。





「あ、私たちは第9高校ですので」

「じゃあねぇゆっきぃー」

「失礼いたしますっ!!」


ゲートまで到着すると、三人が先に転移する。


そこでようやく安堵の溜め息を吐くと、手放すまいと気を張っていた意識の糸がプツンという音をたてて切れてしまった。

突如視界が霞だす。



「くそっ……!」


俺はそこで意識を手放した。


まどろみの中でわずかに写る視界には、無表情な女生徒が立っていた。





☆☆☆☆☆





「ゆう!!」


誰かが俺を呼んだ。

重たい瞼をゆっくりと持ち上げると、そこには紅葉、ライラ、桜の顔があった。どうやら気を失っていたらしい。どこかの高校の保健室のようで、消毒液の匂いが充満していた。


「……どれくらい気を失ってた?」

「ここに運び込まれて二時間ぐらい……だと思うよ?」


安堵の表情を浮かべる桜。見回すと他のみんなも同じような顔をしていた。


「早川さんもさっきまでいたんだけどな。次が初戦だから行かせた」


と補足するライラ。

彼の言うとおり確かに綾芽さんの姿が無い。


「……俺の次の試合は?」

「まさかまだ出るつもり!?無茶よっ!!」


ということはまだ棄権にはなっていないらしい。

俺はポケットに突っ込んだケータイを開き、大会運営からのメールを確認する。


「あと30分後か」


ベッドから起き上がり立ち上がろうとすると、再び激しい目眩に襲われてふらつきかけたが、すかさずライラが支えてくれたお陰で、もう一回倒れずに済んだ。


「こんな状態でもまだ単位が欲しいのかよっ!!!」


ライラの怒声が耳元に響く。

いきなりのことで驚いてライラの顔を見上げると、少し褐色の顔を憤怒に歪めさせていた。


「そんなもんのために、これ以上ダチを放っておけるかよっ!!!!」


“ダチ”。

その言葉が心に突き刺さる。

今までそんなことを言ってくれる友人なんて紅葉たちやレア持ちの一部ぐらいしかいなかった。

ただ自分の憂さ晴らしの為に力を使い回す俺を、殆どのやつは怖がるか、憐れんでいたんだと思う。

そんな俺を認めてくれたライラ。そんな彼の優しさに甘えそうになる。


「……悪いライラ。今はもう単位のことなんてどうでもいいんだよ」


だが、これだけは譲れない。


「じゃあ――!!」

「俺はあいつの影に怯えたくない。弱いあの頃のままで居たくない。これは俺の意地だ。例えお前らでも邪魔はさせねー」


例え唯一無二の友を失おうとも、もうあの頃の無力な自分に戻りたくない。

守れたかもしれない誰かを守れないなんて絶対に嫌だ。


ここにいる紅葉以外は意味わからない発言だっただろう。だが、俺の本気に気圧されたのか、次の言葉を言い返せないライラたち。

そんな彼に背を向け、ふらつく足取りで出口に向かう。


「…………すまん」


最後にそう吐き捨てるように呟き、逃げるように次の会場へと向かった。

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