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episode 13 死神との約束



「2日間ありがとうございましたっ!!」


目の前で深々と頭を下げる綾芽さんに、どうしたものかと苦笑いしながら考える俺。


今は7時半少し前。

今日も彼女の指導をして、アリーナの閉館時間ギリギリに切り上げて寮へ帰っているところである。

明日はアリーナが整備で使えないため、明日の特訓も無くなり、自動的に今日までとなったのだ。


「そんなに畏まらなくたっていいって。たった2日間しか教えられなかったし、俺も精霊魔法を直に見られて参考になってるから」


思ってもいないことを口にした。

精霊魔法を参考にどうとかいうレベルはとっくに卒業しているし、他国の軍隊と合同で任務に当たっていたこともあって熟練した精霊術師を目の当たりにしたこともあるので今更参考にはならない。


「そうなんですか。それなら良かったです!」


満面の笑顔を向けてくる彼女に心が痛む。

纏わりつく罪悪感に気付かれないよう俺も笑顔を向ける。


「それじゃ俺こっちだから」


「え?寮はこっちですよ?」


首を傾げる綾芽さん。


「ああ、ちょっと用があるから」


「そうなんですか?なら門限に遅れないようにしてくださいね。寮長の説教がこれまた長いんです」


忠告してくれる彼女に「努力する」と手を振り寮とは別の方向へ向かう。




「……ジェネレート」


彼女が見えなくなったところで呟く。手首に光が纏わりつき、ブレスレット型の補助武装が現れた。


特化型だ。


補助武装を複数持つやつは少数ながらいると前に話したと思うが、俺はその中でも一際多い。

瞬間展開(マジック・トレース)なんていうチートな技を使えるのでタイムラグ無しに武器を持ち替えられるからだ。


だが特化型と武器型を同時に使いこなせるやつは極稀だ。


理由は三つある。

一つは魔法を並立発動出来る者が少ないないということ。

簡単に言うと魔法を発動させる手順を同時に複数も出来る人間は限られているということだ。


二つ目は補助武装はその構造上常に魔力が流れる仕組みになっていること。

特化型と武器型では構造が異なるため、流す魔力も別々に流さなくてはならない。


最後は魔力の消費が凄まじい割に発動するまでの時間が長いということ。

当然のことながら一つのコップに水を入れるのと2つのコップに同時に水を入れるのでは2つの方が量も時間もかかる。

魔力もそのことが言えるわけだ。


だから特化型と武器型2つを持つ奴はほとんどいない。


俺はその三つ全て問題無く使えるので、大丈夫なのだが。




魔力を流し込み、術式を展開。

魔法が発動し、俺の周りを風が覆う。突如足が地面から離れ、俺の体は上昇していった。

風属性の“浮遊”という魔法だ。

これまた魔力消費が激しい高等魔法を使って移動することにしたのだ。



俺はそのまま今歩いてきた方向とは反対――つまり学校へと向かった。





☆☆☆☆☆





流石に薄暗い空に点のように浮かぶ俺に気づくやつなどいないだろうと思った矢先に不穏な視線を感じた。


「……ビンゴ」


学校まで残り1kmぐらいの距離でこの射抜くような視線を感じるということは、俺の予想が的中していることを伝えていた。





屋上にゆっくり着地すると、そいつは突然現れた。いや、元からいたのだろうが“隠蔽(ハイド)”の魔法を使っていたのだ。


目に映るのはプラチナブロンドの髪を短く切った俺と同じ歳なのだが、そうは思えない小柄な美少女だった。だが、その少女の顔はおおよそ感情というものが抜け落ちたように感じるほど無表情なものだった。

そんな中金色の瞳だけが俺を射るような視線を投げかけてくる。


「お久しぶりです“テュラン”さん。よくここがわかりましたね」


「やっぱり“トート”だったか。別に、ただの勘だよ」


死神(トート)”の2つ名を持つ彼女はニコラ・ベーレ。俺がドイツ軍との合同任務で出会ったドイツ軍所属の死霊術師(ネクロマンサー)だ。(ちなみに“テュラン”ってのはドイツ語で暴君って意味なんだとか。つけたやつに抗議したい)


「それで、どうしてここに来たんだ?」


改めての問い。だが予想通りの答えが返ってきた。


「あなたを抹殺するように命令を受けました」


「あー……やっぱりか」


予想していたとはいえ実際に口にされると結構辛いな。

頭をガシガシ掻いていると、ある疑問が沸いてきた。


「じゃあなんであの時殺らなかったんだ?あの時以外でも殺す機会なんていくらでもあっただろ?」


あの時とは今朝の教材を運んでいたときのことだ。

思えばあの時以外にも隙なんていくらでもあったはずだ。

当然の疑問に、しかし全く別の答えが返ってきた。


「私も明日からこの高校に転入することになりました。既に書類は提出しています」


「はい?」


抑揚の無い声でそう言うニコルに対してわけがわからず混乱する俺。

そんなことなどお構いなしに彼女は続ける。


「明後日のトーナメントには出場できるそうです」


「は?」


全く意味の解らない言葉を紡ぎ出すニコラの顔から思考を読もうとするが、無表情の彼女からそんなことは無駄とすぐに諦めた。

首を傾げる俺に、彼女は更に意味の解らないことを言い出した。


「そこで私と戦ってください」


「…………は?」


さっきから「は?」しか言っていないな、俺。


いやいや待て待て!!

何考えてんだよこいつ。


全く表情を動かさないこいつに探り合いで勝てるはずもなく、取り敢えず思いついたことを問う。


「……えーっと…………なんで?」


「あなたには前に一度負けましたから」


「は?」


あれ?俺、こいつとやり合ったことあったっけ?

いくら記憶を辿っても思え出せない。そんな俺を見て察したのかニコラが続ける。


「第六次世界大戦の時です」


「……」


その言葉に顔をしかてしまう。

忘れていたいのに忘れられない単語。


俺の心に穴を空けた出来事。

俺が英雄なんて欲しくもない栄光を得た戦い。


七年前。

当時最強の軍事国家であるロシアが中国に侵攻したことが引き金となり、世界中を巻き込んだ大戦争。

およそ二年間で一旦休戦になり、今現在も冷戦状態が続いている。



頭の中でズキズキ痛む何かを抑えながら、言葉を紡ぎ出す。


「お前も“あれ”に参加してたのか?まだ10なってなかったろ?」


「あなたにだけは言われたくありません」


即座に無表情で言い返してきたニコラに思わず苦笑いを浮かべる。

だが、それでもおかしい。


「あの時はヨーロッパと極東、あとアメリカは軍事同盟を結んでいたはずだ。ドイツもその中に含まれていたはずだろ?」


強大な戦力を誇るロシアに対抗するためにすぐさま各国が軍事同盟を結んだ。

それでも今は休戦状態に持ち込んだだけなのだ。


首を傾げる俺に、ニコラはコクリと頷く。


「そうです。私は実際にはあなたとは戦っていません」


「どういうことだ?」


わけがわからん。

こいつは何が言いたいんだ?

もう今日何個目かの疑問符を浮かべていると、急にニコラが押し黙った。

重苦しい沈黙が数瞬流れたが、彼女は口を開いた。


「あなたは私の獲物を横から奪い取りました」


…………あれ?そんなことあったっけ?


「私は当時には伝説武器を所持していました、そんなときに初めて伝説武器所持者と戦いました。ですが苦戦してしまっていたところをあなたが乱入してきて一瞬で終わらせてしまったんです」


……あ。


「…………もしかして弓使いの女か?」


コクリと頷くニコラ。


あー、思い出した。

確か開戦から一年ぐらい経ったときだっただろうか。

まだそのときは暴走していなかった頃なのでよく覚えている。

だが、あの時は――。


「…………女の子が襲われてると思ってたぞ」


あんなところに子供がいたら普通逃げ遅れたって思うだろ。

俺もなんどか間違えられてその度に居心地の悪い思いをしたものだ。

そんな感慨に捕らわれていると、ようやく話が見えてきた。


「つまりあの時自分が倒せなかった相手を俺が倒したのが悔しいと?」


コクリ。


再び頷いた。

こいつ見かけによらず負けず嫌いなんだな、きっと。

けどなぁ。


「なんでわざわざトーナメントなんだ?」


当然の疑問。だが、


「他のところだと狭すぎます」


「あーなるほど」


こんなところでレア持ち二人がやり合ったらとんでもない大惨事になりかねない。

でも俺に何のメリットがある?


「あなたが私に勝った場合、軍には私から命令の中止を要求します。もし拒否されても私が軍を辞めればすむ話です」


「は!?」


何をいきなり言い出すんだこいつは。

俺の心情を察したのだろうニコラがそんなことを言い出した。

俺としては嬉しいのだが。


「……お前はそれでいいのか?」


「はい。これは私の意志です。それに私は他の保持者たちと同じように祖国への執着はありませんので」


即答でそう言い切るニコラ。

伝説武器所持者はどういうわけか自国への執着心が薄い。もちろんそうじゃないやつもいるが、基本的に保持者たちは自分の欲求を優先させるのだ。


「そうか、なら俺も遠慮せずに済むな」


「伝説武器を使いたくないなら使わなくてもいいです。勝てる自信があればですけど」


うっ、読まれてる。


こいつもしかして精神干渉の固有魔法でももっているのではなかろうか。もしそうなら今世紀二人目の発現者だな。


「では私はこれで。また明日お会いしましょう“テュラン”さん」


「ああ」


突如彼女の身体が霞む。

“隠蔽”の魔法を使ったのだろう。

そこで俺はあることに気づいた。


「これからは“テュラン”は止めろ。恥ずかしい」


「ではなんと?」


「好きに呼んでいい」


もうすでに彼女の姿は見えなくなっしまったが、顎に手を当てて悩んでいるのがわかった。


「では悠希さん、と。私のこともニコルで構いません」


「わかった」


“ニコル”という愛称で呼ぶことを認めてくれたって事は少しは距離が縮まったかな?

気配も感じられなくなった彼女にそんなことを思い、少し嬉しくも感じた。



このときには門限を過ぎていることにまったく気づいてなかったのだった。




トーナメントまで後2日。

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