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episode 12 英雄の肩書き



“英雄”

その肩書きは嫌いだった。




ただ怒りに身を任せて殺戮の限りを繰り返していただけなのに、後々そんな風に呼ばれ出した。




呼ばれる度に「人殺し」と罵倒されている気がしてならない。事実向こうの国ではそう呼ばれているだろう。




別にそのことに後悔しているわけではない。




ただそう感じるというだけだ。




だからその肩書きが“英雄”から“犯罪者”に変わったところで何も感じない。




だがなんだろうこのやり場の無い気持ちは。




矛盾している。




何も感じないはずなのに苛立ちを隠せないでいる。




そんな自分がただやるせなくて、情けなくて。




俺はただ心の中で叫び続けることしかできなかった。




☆☆☆☆☆





7月18日木曜日。

今日も暑い中蟻たち(俺たち)はせっせと巣穴(教室)に餌(教材)を運んでいた。

なぜこうなったのか改めて振り返ることにしよう。





―――――――


数分前。



「あら、いいところに」


そんなミレア先生の第一声には嫌な予感しかしなかった。


「どうしたんすか、先生?」


おい、ばかやろう。

ここの選択肢は黙って通り過ぎるしかないだろっ

いやだよ、絶対嫌なことしかおこらないよ、今死刑宣告待つ囚人の気持ちだよ。


「ちょっと頼みたいことがあるんだけど」


そらきたぞ。


「もちろん慎んでおう――」

「辞退させて頂きます」


何か勝手に承諾しそうになったバカがいたので変わりに断っておいた。


「何言ってんだ!?ミレア先生の頼みだぞ!?」

「お前こそ考えて見ろっ!!相手はあのミレア先生だぞ!?」


睨み合う俺たち二人。

やがてどちらからでもなく――。


「「じゃんけん――」」





―――――――





「なんであの時に俺はパーを……」


自分の手が恨めしい。


そんな出来事があり、現在教材室から次の魔術学の授業に使う教材を運びに行くところだ。


教材室は校舎の隣に位置するため、屋外を通らなければならないのだ。


「なんでここだけ校舎と別なんだよ」


「魔法に使う教材なんて幾らでもあるからな。量てきに校舎内だと入りきらないんだと、ほっ」


頼まれた教材を抱え、俺たちは来た道を戻る。


「なー、これ終わったらジュース奢って。てか奢れハゲ」


「なんで俺が奢んなきゃなんたいんだっ!?てかハゲてねーよ!!」


「え?気づいてないの?頭頂部の頭皮が若干……」


「マジで!?やばい!!どうしよう!?」


「正常なままだった」


「悠希っ!!!」




しょーもないことで笑い合い、道も半ばまできた。


もう少しで着く。

そんなことを思っていると突如耳元で誰かが囁いた。


ゾクッ!!


ゾッとするような冷たい声、背筋に途轍もない寒気を感じ、反射的に振り向く。

だが、そこには何もない道がただ延びているだけだった。


気のせいか?

いや、そんなはずはない。

あの背筋に走った戦慄は本物だったはずだ。


ならば十中八九、死霊術師(ネクロマンサー)の“隠蔽(ハイド)”の魔法だろう。


だが問題は普通の死霊術師の“隠蔽”で俺が気づかないはずがないということだ。


「ん?どうした悠希?」

「……なんでもない」


訝しげな顔で俺の顔を覗き込むライラにそう答え、再び歩みを進める。


あの凍るような冷たい声音。どこかで聞いたことがある。


ここの都市の住民、もしくはここに侵入でき、俺の背後を取れるほどの実力者で、なおかつ幻術などに長けている死霊術師。


(あいつ……いや、そんなはず……)


頭を振り、その考え否定しようとする。だが、頭の中にへばりついたまま中々消えてはくれない。


さっきのあの言葉が心の中に居座り続け、心に暗い影を落とす。


とりあえず手に持った教材を教室に運ぶ当初の目的を遂行するために足を動かす。


―――背後に気をつけてください。


未だに耳に残るその言葉と冷たさから逃げるように俺その場を後にした。






☆☆☆☆☆






5限目、死霊学。

この時間は死霊術師の特徴などについての授業だ。

死霊学講師のデミス・クリア先生が、仏頂面のまま教科書を読み上げている。


普段なら寝て過ごすのだが、今の俺には死霊術師は特別な意味合いを持つ。


「死霊術師は自身の姿を隠した隠密行動を得意とする術師だ。幻術で身を隠し、ある時は魔法、ある時は武器で、またある時は使い魔で相手に襲いかかる」


普通の術師にも魔獣を手懐けて使い魔とするものはいる。ただ、召還術師と違うところはそれ自体で戦うか、あくまでサポートをさせるか、それに使い魔の数などもある。使い魔を手懐けるにはそれなりのセンスと知識がいる。そのため召還術師の使い魔の数の平均は15.3、それに対して他の術師は0.4。この統計から見てもわかる通り他の術師だと極端に少ない。


そんな中でも死霊術師の中では使い魔を所持しているものは多い。

理由としては自分の身代わり、もしくはさっき先生が言ったように死角からの先制攻撃などが挙げられる。


「もう一つ彼らには特殊な魔法がある。それが“傀儡(くぐつ)”だ。無系統魔法に属するこの魔法は、ある程度の質量の物体を自由に動かせる。死霊術師が戦場でこそ、その真価を発揮できるのは動かせる物、要は死体が沢山あるからだ」


そのことを聞いた生徒はみな顰めっ面をしだす。女子の中では顔を青白くさせている人もちらほら。


無系統魔法、または解析不能の能力(インビジブル・アビリティ)

解析不能の名前の通り、現代の科学では解明できない魔法のことだ。

その人が生まれたときから潜在的に持っている固有魔法や、伝説武器の特殊性についてもこれが言える。

その中でも“傀儡”は固有魔法に含まれる魔法だ。



そんなことは実戦でなんども見てきたことだし、普段ならこの授業も退屈だと感じるのだが、今朝のことが未だに頭から離れずについ聞き入ってしまっていた。



我ながらどうかしてる。


内心で苦笑しながら意識を思考に落とす。


今朝のあいつ死霊術師だった、それは間違いない。

だが普通の学生でも無いだろう。でなければ気づかないはずがない。



俺の頭の中では半ば誰なのか結論がでている。


だがまだ確証がない。


だがもしあいつならなんの目的も無しに俺に接触する筈がない。



じゃあなんの用で?


俺が犯罪をおこしたからか?


でもそれだけでわざわざあいつが出向く玉か?





頭がオーバーヒートしそうな程の疑問を処理していると、ふとある考えが頭をよぎった。




わからないなら直接本人に聞き出せばいい。


そんな元も子もないことなのだが、なんとなくあいつがいそうな場所に心当たりがあった。


取り敢えず頭の中で予定を組み立てる。


そうこうしている内に授業が終わりへと近づいていった。


前ではライラがいびきをかきながら爆睡。

隣ではせっせと鉛筆を動かしている紅葉。

そんな二人をぼんやり眺めながら授業が終わるのを今か今かと待っていた。



感想よろしくお願いします。

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