episode 10 推薦枠?
7月17日水曜日。
トーナメントまで後三日ということもあって、そろそろ準備が始まりだしたようだ。
何やら屋台も並ぶとか。
そんな今この頃。
サンサンと降り注ぐ太陽の光が心を清々しい気持ちに―――。
「なわけあるかっ!!」
「うおっ!?」
――させるわけなかった。
いきなりキレだした俺を何こいつ、みたいな目で見てくるライラ。
俺が今イライラ(ライラじゃないよ?イが多いよ?)している理由を、一言で表すと“暑いから”だ。
「暑いんだよ!!離れろライラ!!」
「俺のせいかよっ!?いい加減にしろ悠希!!」
「うるさい黙れ鉄板野郎っ!!」
「そこまで熱籠もってねーよ!!」
こんな道のど真ん中で俺たちは何をしているのだろう?
通り過ぎていく生徒たちは皆俺たちを可哀想な物でも見るような目を向けてくる。
・・・・そんなことしてるより早くクーラーの効いた教室に行けばいいのに。
☆☆☆☆☆
「あ〜、生き返る〜」
「大袈裟なやつだなー」
そう言いながらもライラも満更ではなさそうだ。
場所は教室。
あれからあーだこーだ言い合いながらもようやく到着して、今は涼しい教室でくつろいでいるところだ。
「しっかし、あの波風に勝っちまうとはなー」
「またその話か・・・」
げんなりしながら机に突っ伏す。あー、机が冷たくて気持ちいい。
昨日はそのことについて鬱陶しいくらいに聞かれ、そのたびに誤魔化してきたのに。
「昨日も言ったが、あいつとは古い付き合いなんだから行動パターンはある程度わかるんだよ。そのせいだ」
「いや、それでもすげーよ。あいつに勝てるやつなんて同学年に5人いるかいないかだしな」
「わかった、わかったから」
俺としてはあいつに勝てるやつがこの都市に5人もいることが驚きなんだが。
「そういや一年だけトーナメントするってことは上級生はどうすんだ?この都市の一学年っていったらそれだけでアリーナ全部使っちまうんじゃねーの?」
そんな疑問が頭をよぎったので取り敢えず聞いてみる。
「あー、お前って転校生だったな。あんまり馴染みすぎてるからついこの前転入してきたことなんて忘れてたぜ。」
む、どういう意味だ?
「上級生の話だったな。俺もあんま知らないんだけどさ、二年生にからは定期的に集団演習ってのがあるらしいんだよ。それって魔獣指定区域に行って実際に魔獣と戦ってみるっていう危ない授業でさ、単独じゃ危険だから二、三年混合でチーム組むらしい。有望な生徒をスカウトするための品定めするとかどうとかじゃないか?」
「へー、意外と面白そうな授業あるんだな」
魔獣ってのは人間が魔法を使えるようになったときにいきなり現れだした生物のことだ。性格は大体のやつが好戦的。外見がうさぎみたいな魔獣でも熊を食ったりするぐらい怖いし強い。
魔獣指定区域ってのは魔獣が集団で生息してる場所のこと。一般人は立ち入り禁止になっている上に、その近辺10km範囲に住み着くことは法律で堅く禁じられている。
ちなみに召還術師はその魔獣を手懐けて戦わせる術師のことだ。
俺も任務でたまに指定区域に入って行って適当に数減らしてたな〜、などとどうでもいいことを考えていると、ふと疑問が浮かんだ。
「ん?それじゃあ三年は関係無いんじゃねーのか?俺たちが二年に入るころには卒業してるわけだし」
「いや、そうでもないんだな、これが」
「は?なんで?」
今言ったことなら俺たちがその集団演習ってのをやるのは二年生からのはずだ。
そうじゃない?
頭に浮かぶ疑問が泡のように浮いてははじけ、また浮いてははじけていく。
「なんでも“推薦枠”ってのがあるらしい」
「推薦枠?」
なんじゃそりゃ?
「一年のトーナメントで十位以内に入って、どっかのチームリーダーに推薦してもらえればそのチームに入れるんだと。だから三年も観戦しにくるみたいだぜ」
「ふーん。じゃあ紅葉もその集団演習ってのやったことあんのか?」
俺が問うとライラが首を振る。
「さっき言ったけど一年だけだ。中学の時のは含まれねーよ」
「あー、なるほどな」
じゃあ無理だわな。
いくら強くても経験の無い子供が魔獣と殺り合ったら命を落とし兼ねない。
紅葉が普通の魔獣と戦って死ぬとは思えないが、何が起こっても取り替えしがつかないのが魔獣指定区域だ。
内心でその校則を作った人に感謝していると、ライラが思い出したように呟きだした。
「・・・そう言えば去年その校則について一騒動あったっけな」
「騒動?」
「あったわね、そんなこと」
いきなり後ろから声をかけられて心臓が飛び出しかけたが、なんとか表情に出さないように自制できた。
後ろを振り向くと、今日はその長い黒髪を後ろで纏めた紅葉が立っていた。
「おはよう、紅葉。で、何があったって?」
「おはよ。なんか去年中3の一位になった子を自分のチームを入れさせてくれ、て言い出すリーダーたちが沢山いて、まぁ結局無理だったんだけど」
「へー、確かレア持ちなんだっけ?」
レア持ちっていうのは伝説武器保持者の略称のことだ。他にも伝説武器をレア武器、と言ったりする。
「そうそう。確かにあの子ぐらいのレベルなら三年にもそうはいないと思う」
「へー、そんなにか」
そんな奴保持者にいたっけ?
一人だけ思い浮かぶんだが、あいつは軍隊所属のはずだしなー。
あ、でももう一人いるにはいるんだが、やっぱないな。
「まぁ伝説武器保持者ってこの都市に4人もいるんだけどさ、やっぱ自分のチームにほしいってのもあるんだろうな」
「へー、そんなにいんのか」
すみません、5人です。
しかし俺のけて4人ねー。何人か会ったことありそうだが、自分から会いに行く気なんてさらさらないので取り敢えずスルー。
そうこうしているとHRの時間がやってきた。ミレア先生の話が終わり、授業が始まる。
集団演習。
推薦枠。
そんな単語が頭の中を蹂躙して、授業なんて身が入らない。
単位のためとか思ってたけど、とんだびっくりイベントがあったもんだな。
つい頬が緩む。
これから楽しくなりそうだ。




