episode 9 嘘
紅葉との模擬戦の後、クラスメートたちの質問責めを華麗にスルーしてライラを弄って適当に時間を潰した。
・・・・何かに目覚めかけている気がするが気のせいだろう。
そんなこんなで時は昼休み、場所は食堂。
俺、ライラ、紅葉、それと中等部からわざわざやってきた桜と一緒に食事に勤しんでいた。
今日のメニューは、俺がざるそば、ライラがまたも肉うどん、紅葉と桜が昨日の俺と同じエビフライ定食。
「そう言えば高等部のトーナメントって今週だったよね?」
唐突に桜がそんなことを言い出した。
「ああ、そうみたいだな」
取り敢えず頷いておく。まぁどんなのか知らないけど。
そんな俺の心情を察したのか、紅葉が補足してくれる。
曰わく。
「当日はケータイ端末に開始時刻、次の対戦相手と場所が随時送られてくるの。全高校が参加するから、アリーナからアリーナに移動なんてこともザラにあるわ。だからトーナメント期間中はゲートも解放されるの。転移してバトって、また転移してってなるから気をつけてね」
だそうだ。
「うわっ!めんどくさっ!」
「単位は?」
「うっ」
それは欲しい・・・・。くそぅっ!!
ニヤニヤしながら見てくる紅葉とライラ。今朝のやり取りを知らない桜は何がなにやらといった様子だ。
「ん?そういや期間ってどんくらいあんの?」
「進行状況にもよるけど土曜日から始まって10日ちょっとあれば終わる、なっ」
ちっ、肉貰おうと思ったら弾かれた。
なるほど10日ね〜。長いな〜、めんどいな〜、でも単位は欲しいな〜。
「そんな甘いこと言ってないで、少しは特訓でもしたら?」
「ん〜、まぁそうなんだけどな〜・・・」
なんだかやる気でないんだよな〜。
『学年一位は伝説武器保持者なのよ?一回戦ったことあるけど、むちゃくちゃだったんだから。ゆうは“ファランクス”とか“影月”とかも使うつもりないんでしょ?』
ぐーたらな考えを浮かべていたら急に頭の中に声が聞こえてきたので少しびっくりしたが、ライラと桜にはまだ話せ無い内容も混じっているので助かる。
『伝説武器持ち?そんな大物がここにいんのか?』
これは驚いた。
伝説武器には普通の補助武装と違っていくつか特殊な性質がある。
その一つが保有者の選択。
伝説武器は所有者を選ぶ性質がある。その判断基準はそれぞれ異なり、ある物は強さ、またある物は強靭な精神力といった具合にだ。
それを普通の高校生が扱えるとはね。
それとも俺みたいな異端の存在なのか。
そんな感慨に浸っていると、先程の問いの答えを返していないことに気づいた。
『ん、まぁな。あんなのポンポン持ち替えてたらさすがにまずいだろ?』
それが答えだ。
『せめて一個ぐらいは使ったら?』
『この名前だけでも怪しまれるかもってビクビクしてんだ。それに伝説武器保持者なんて今時ググれば一発で出てくる』
『・・・そう』
それだけ交わすと念話を切る。
それから食事を終え、適当にだべって昼休みを平和にすごした。
☆☆☆☆☆
「はぁ・・・」
自室に戻るなり紅葉はベッドに飛び込んだ。妹の桜は日直で少し遅くなるらしい。
そんな中ふと昨日の昼の悠希の言葉を思い出す。
『別に。任務で出ていただけだ』
「・・・・嘘ばっかり」
私は別にゆうみたいな鈍感じゃない、気づいてないとでも思ったのだろうか。
でもそれを問い詰めるわけにもいかない。何か無闇に聞いていい話では無い気がしてならないのだ。
もやもやする感情を持て余していると、机に置かれたケータイの着メロが鳴った。
「姉さん?」
『もー、お姉ちゃんって呼んでもいいって言ってるのにっ!!』
なぜかいきなり叱られてしまった。こんなバカなことを一言目に発するバカはもちろん一葉姉さんだ。
「きるよ」
『ちょっとま――』
構わず切る。するとまたすぐに着信がかかってきた。
「・・・なに?」
『ひどいよ紅葉ー、いきなり切るなんて。お姉ちゃん悲しい』
電話越しに啜り泣く声。勿論演技に決まっているのだが。
もう一度切ってしまおうか?などと本気で思っていると、泣き声が止み、変わりに真剣身を帯びた声が響いてくる。
『・・・今から理事長室に来てちょうだい。大事な話があるの』
「大事な話って?」
思わず聞き返してしまった。無駄だとわかっているのに。
『・・・来ればわかるわ』
案の定はぐらかされてしまった。とりあえず肯定しておいて電話を切る。
桜に「ちょっと出かけてくる」とメールを送り、外出届を提出して寮を出る。
空は薄暗く染まり、昼間と比べれば大分涼しい風が肌に触れた。
ここから都市庁までそう遠くは無く、ゲートを使う必要も無い。
私は歩いて都市庁まで向かった。
☆☆☆☆☆
都市庁に付くと、すぐに警備員に通された。
エレベーターで最上階に上がり、廊下を真っ直ぐ突き進むと、一葉のいる理事長室に到着する。
「姉さん、入るよ?」
「はいは〜い」
さっきの真面目な声はどこに行ったのやら、間延びした一葉の声に促されドアのノブを回す。
「いらっしゃ〜い」
中に入ると二人用ソファーに寝転がって足をバタバタさせている姉の姿が、そこにはあった。
「失礼しました」
「ちょっと紅葉っ!?ごめんごめん!もうふざけないからっ!ねっ!?」
腕を掴みながら涙目で謝罪してくる姉の姿を見て、なんだか悲しくなってくる。
「で、なんなの?」
「うん、大したことじゃないんだけど・・・・」
「さて、桜が待ってるから」
「待って待って!!」
一体なんなのだろう?大したことないなら早く帰りたいのだが。
目で催促すると、「あ〜」「うー」などと奇怪な声を上げる姉。やがて意を決したように口を開いた。
「・・・悠希になにか言われた?」
その言葉を聞いた瞬間言いようのない不安感が押し寄せてきた。
なんでかわからないけど。
「姉さん、ゆうに何があったのか知ってるの?」
「質問に答えて」
真剣な表情で問い詰めてくる一葉に、私は首を横に振る。
「・・・ううん。何があったのか聞いたけど、答えてくれなくて・・・」
「そう・・・」
沈黙が訪れる。
しばらくすると一葉から口を開いた。
ただ、それは予想外の一言だった。
「どうする?教えてほしいなら私の知ってる範囲で教えるけど?」
「えっ!?」
その一言に驚愕していると、一葉はそんなことお構いなしに続ける。
「知りたいんでしょ?どうするの?」
その問いに、私は数秒悩んだ。やがてある疑問がよぎる。
「それは、ゆうも良いって言ってるの?」
じゃあなんであの時に言わなかったの?
そんな早とちりした考えとは裏腹に、一葉は首を横に振った。
「いいえ、でも紅葉が知りたいなら教えるわよ?」
再びの問い。
だがその瞬間答えは決まった。
「ううん。教えなくていい」
そうだ。教えてもらわなくてもいい。
「どうして?」
優しく尋ねる姉に、私は笑顔で答える。
「だってゆうが話さないってことは、まだその時じゃないってことだもん。私の興味本位でゆうを傷つけるなんて絶対嫌。ゆうは色んなもの背負ってきてるのに、私が足を引っ張るなんて絶対嫌よ」
そうだ。
死ぬはずだったゆうは私を助けてくれた。それが偶然だったってこともわかってる。
でも私は生きてる。
ゆうのお陰で生きてる。
だから私はゆうを守りたい。少なくともゆうが自分の背負った物の重みで潰されないように支えていたい。
「だから私はゆうが自分で言い出すまで待ってる」
私はゆうを信じてるから。
「・・・・もう雅人がいなくても安心ね」
「え?」
何か聞こえた気がしたのだが一葉は「なんでもない」と手をひらひら振っている。
気のせいかな?
その後くだらない話に突入しそうになったので、適当に切り上げて寮に戻る。
さっきまでのもやもやが晴れた、そんな気がしたのだった。
トーナメントまで残り4日。
感想お待ちしてます。