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飾り物の国

第三話 ――飾り物の国


この国には、飾り物が多い。


それに気づいたのは、福箱の板が村に戻ってきてからだった。


村の家々を回るたび、

どこかで見覚えのある形が、当たり前のように置かれている。


床の間。

棚の上。

仏壇の脇。


黒く、平たい板。

透明な筒。

奇妙な形の小物。


どれも、動かない。

どれも、反応しない。


そして――

どれも、丁寧に扱われている。


「これは、うちの福箱の品でな」


地主の屋敷で、そう言われた。


指し示された先には、

透明な容器がひとつ置かれている。


中には、色のついた液体。


「中身は分かりませぬが」

「割れず、腐らず、変わらん」

「見た目も悪くないでしょう?」


確かに、

この時代の器とは明らかに違う。


気泡のない透明度。

均一な形。


だが、

用途は分からない。


「飾っておく分には、ちょうど良い」


それで話は終わる。


別の家では、

小さな円筒が並べられていた。


「これは、昔の世の小物らしい」

「同じ物が、よく福箱から出る」


持ち上げると、軽い。

振っても音はしない。


誰も、

中を気にしない。


「危なくなさそうだからな」


危なくなさそう。


それが、この国での最高評価だ。


俺は、村を歩きながら考えていた。


この国では、

機能しない物は“飾り”になる。


役に立たなければ、

捨てるか、祀るか。


その中間に、

「飾る」という選択肢がある。


そして――

飾り物は、誰も深く考えない。


夜。


行灯の下で、

俺は福箱から戻ってきた板を膝に置いた。


反応はない。

何も起きない。


それでも、

この国では十分すぎるほど「完成」している。


綺麗で、

壊れず、

変わらない。


だから、

疑われない。


「……うまく、できてるな」


思わず、そう呟いた。


文明が終わったあと、

残った物がどう扱われるか。


使えないものは、

危険でもなく、

価値もなく、

ただの景色になる。


俺は、あることに気づいた。


この国は、

未来を捨てたんじゃない。


**未来を“理解しないまま受け入れた”**だけだ。


だから、

壊れた物は土に戻り、

動かない物は飾られ、

分かりやすい物だけが、価値を持つ。


その結果――

この国は、静かに安定している。


誰も困らない。

誰も疑問を持たない。


行灯の火が、揺れた。


その向こうで、

黒い板が、何も語らずに横たわっている。


本来は、

世界をつなぎ、

人を動かし、

社会を変えていた道具だ。


でも今は。


この国の、

無数ある飾り物のひとつだ。


「……まだだな」


俺は、板を布で包み直した。


今、意味を与えれば、

この静けさは壊れる。


それが、

良いことか悪いことか――

まだ、分からない。


だが、ひとつだけ確かなことがある。


この国は、

飾り物の上に成り立っている。


そして。


その飾り物の意味を知っているのは、

俺だけだ。

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