宝箱
冒険者アベルは地下迷宮を攻略していた。
名前の通り、通路が非常に複雑に入り組んでおり、下り階段を見つける事すら困難だった。
しかも地面と天井、壁の至る所を太く立派な蔦が覆っており、歩くだけでも一苦労だ。
階によっては、一度、この階に来た際に使用としたのとは別の階段で上の階に上がり、その階のフロア内にある囲まれたエリアから、来た時とは別の下の階に下りる階段を見つけ出し、その階の囲まれたエリアから新たな下階段を見つけてようやく下の階に行ける、といった類の面倒な仕掛けもあった。
途轍もなく深い迷宮で、最下階が何階かもわかっていない。
伝説では約8000年前にこの地を統治したムスタファ15世が奴隷を投じて作られた迷宮で、宝玉を最下層に安置すると、建造に携わった奴隷と図面を引いた設計者、建設者らを口封じに皆殺しにして、迷宮の図面を一切残さなかったという。
大体、10階に一匹の割合で、その階を守る怪物や妖怪が配置されていて、その連中の強さも異常だった。
幸い、各階に水飲み場があり、草も自生していて、食用に適した動物も棲んでいる。
また建設に当たった奴隷達の使用した寝床や便所もある。
迷宮の中で食料を確保し、奴隷の寝床で睡眠を摂りながら、迷宮を攻略する事が出来た。
既に迷宮に入って5年近くが経過していた。
3000匹目の怪物を倒し、下の階に下りると、小さな部屋に大きな宝箱があった。
宝箱は元は黄金に光り輝いていたのだろうが、埃がこびりついて黒ずんでいる。
「やっと、辿り着いた……のか?」
アドルがトラップを警戒し、剣の束を使って宝箱を開けた。
宝箱を覗き込むと、小さな指輪があった。
「こんなちんけな指輪が、お宝なのか?」
指輪を掌に収めた途端、意識が飛んだ。
気づくと地下迷宮の外に出た。
最下階に設置された宝物は……地上に戻る魔法を封じ込めた瞬間脱出の指輪だった。
「こんなものに何の価値があるんだ! 畜生!! 馬鹿にしやがって!!」
アベルは激怒して指輪を地面に叩きつけた。
そしてその場を去ってしまった。
その指輪には、持ち主が現れた場合、王座を譲り渡すよう、この地を支配する王族らに代々口伝されていた大切なものだったとも知らずに。