3匹のブー
むかしむかし、あるところに、三匹の子豚の兄弟が住んでいました。
おおきな森のはずれで、お母さん豚と暮らしていましたが、ある日、お母さんは言いました。
「おまえたち三匹とも、そろそろ自分の家を持ちなさい。風にも狼にも負けぬよう、しっかりした家を建てるのよ」
三匹の子豚は、旅支度をして、それぞれの道を進みました。
⭐︎長男ブーの家の場合⭐︎
長男ブーは、気楽な性格でした。
「オレは草のベッドで寝ていたい。家なんて軽くていいんだ」
ブーは畑から藁を集め、あっという間に藁の家を建てました。
屋根はふにゃふにゃ、壁はすきま風が通り、だけれど寝心地は良さそうでした。
「これでじゅうぶんだよ。狼が来ても、隠れてればいいさ」
⭐︎次男ブーの家の場合⭐︎
次男ブーは、ちょっぴり用心深く、でも面倒くさがりでした。
「藁じゃ心配だけど、石は重すぎるしなあ……木にしよう」
森の木を切って、器用に組み上げ、立派な木の家を建てました。
扉には鍵をつけ、煙突も作り、窓からは森がよく見えました。
「これなら、狼が来ても大丈夫だろう」
⭐︎三男ブーの家の場合⭐︎
末っ子の三男ブーは、無口でまじめな子でした。
彼は山のふもとで石を集め、ひとり黙々と石の家をつくりました。
朝から晩まで汗を流し、何日もかけて頑丈な家を建てました。
扉は重く、窓は小さく、暖炉には火が絶えず、雨も風も通しません。
「これで、だれが来ても、こわくない」
そして、ある嵐の夜、森の奥から灰色の狼がやってきました。
風は唸り、雷は空を裂き、雨は大地を打ちつけました。
狼はまず、藁の家の前に立ちました。
「ブー、ブー、わたしを入れておくれ」
「やだよ!」
「ならば、息を吹きかけて、家を吹き飛ばすぞ!」
ふうううううう、と吹きかけると、藁の家はあっけなく吹き飛び、長男ブーは悲鳴を上げて逃げ出しました。
次に、狼は木の家の前に来ました。
「ブー、ブー、わたしを入れておくれ」
「だめだ!」
「では、息を吹きかけて、家を吹き飛ばすぞ!」
狼がふううううううと吹くと、家は大きく揺れ、屋根が飛び、扉が外れ、次男ブーも逃げ出しました。
三男ブーの家にたどり着いた兄たちは、息を切らしながら叫びました。
「開けてくれ! 狼が来るんだ!」
三男ブーは黙って扉を開けました。
兄たちは震えながら入ってきて、家の奥に逃げ込みました。
まもなく、狼が扉の前に立ちました。
「ブー、ブー、わたしを入れておくれ」
三男ブーは静かに言いました。
「だめだ。ここには入れない」
狼は息を吸いこみ、大きく吹きかけました。
だが、石の家はびくともしません。もう一度。もう一度。
吹いても、吹いても、家は崩れませんでした。
狼はとうとう、息を切らし、雨の中に立ち尽くしました。
中からは、暖炉の火の音と、子豚たちの話し声が、かすかに聞こえていました。
夜が明け、嵐も去りました。
狼は、何も言わずに、森の奥へ帰っていきました。
三匹の子豚は、石の家で肩を寄せ合い、朝の光を浴びました。
「ありがとう、弟よ」
「おまえの家じゃなかったら、今ごろ……」
三男ブーは、ゆっくり首を振って言いました。
「家を作ったのは僕だけど……助かったのは、三匹でいたからだよ」
兄たちは、目を合わせ、うなずきました。
それから三匹の子豚は、石の家で一緒に暮らしました。
兄たちも手を動かし、畑を耕し、煙突を直し、屋根に花を植えました。
森にはまた、静かな風が吹いていました。
3匹の子豚より