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しゃべるお地蔵さま

 むかしむかし、ある山里に、貧しいけれど仲の良いおじいさんとおばあさんが住んでおりました。 年の暮れも近づいたある日、おばあさんが言いました。

「もちもないし、正月は塩むすびだねぇ」

「そうじゃのう、腹の中もさびしゅうなるわい」

 おじいさんは、少しでも金になればと、家にあった古い笠を五つ作って、町へ売りに出かけました。


「笠はいらんかねぇ〜、年越し笠じゃ〜」

 おじいさんは声を張って町を歩きましたが、誰も振り向きません。

「いらん」

「もう買った」

「うるさい」

 それどころか、犬に吠えられ、雪玉をぶつけられ、子どもには「古い」と笑われました。

「こりゃあ、売れんわい……」

 しょんぼりと帰る道すがら、おじいさんは、田んぼのあぜ道で、お地蔵さまたちを見つけました。 雪の中、六体がずらりと並んで立っています。

「こんな寒空に……なんとも気の毒な……」

 おじいさんは、売れ残った笠を、ひとつずつ、お地蔵さまの頭にのせていきました。

 ところが、笠は五つしかなく、最後の一体には、手ぬぐいをそっと巻きました。

「こらすまんのう、頭だけでも冷やさんようにの」

 すると、最後のお地蔵さまが、

「おおきに!」

 と、ぺこりとおじぎをしました。

「……い、今しゃべったかの?」

「うむ、確かにしゃべったぞ」

 他のお地蔵さまは黙って雪をかぶっていました。

「おい! みんな、黙ってないでなんかしゃべれ」

「……まあ、わしら普段はしゃべらんようにしておるんでな」

「そ、そうじゃよ。ありがたみが薄れるからね」

「わしだけつい口が軽うてのぉ」

 最後の一体、六番目のお地蔵さまは、妙に饒舌でした。

「それでも、手ぬぐいありがとうのう。これで風邪ひかんですむわい」

 おじいさんはぽかんとして立ち尽くしていましたが、

「風邪ひかないって……地蔵が風邪ひくのかの?」

「そらひくさ。くしゃみもするし、たまに鼻水も出る。あ、見せようか?」

「い、いや、遠慮しとく」


 その夜、吹雪のなかで、おばあさんとおじいさんは、囲炉裏の火を囲んでいました。「結局ひとつも売れなんだなぁ」

「まあ、来年があるわい」

 そのとき、外から、どすん! どすん! と大きな音がしました。

「なんじゃ? 地震か?」

 戸を開けてみると、そこには、さきほどの六体のお地蔵さまたちが笠と手ぬぐいを頭にのせてずらりと並び、大きな袋を置いていきました。

 一番目のお地蔵さまが、口を開きました。

「感謝の気持ちですじゃ。もち、米、酒、だいこん、そして……」

「漬け物もあるで!」

 六番目のお地蔵さまが割り込んで言いました。

「勝手にしゃべるなって」

「つい……」

 お地蔵さまたちは一方的にしゃべるとぺこりと頭を下げて、静かに去っていきました。 雪は、音もなく、しんしんと降っておりました。

 

 お地蔵さまが大きな袋を持ってきてしゃべるなんてもしかしたら夢だったのかもしれない、と思っていたおじいさんとおばあさんでしたが、

「夢じゃなかったのう」

「こんなにもちがあるとは……!」

 つぎの日から、おじいさんとおばあさんは、少しだけ裕福になりました。

 村では「しゃべる地蔵がいる」と噂になりましたが、本人たちは次から次へと知らぬふり。

 でも、六番目のお地蔵さまだけは、今でもたまに、

「よお、今日も雪じゃな」

 と、誰かに話しかけているそうです。

笠地蔵より

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