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ChatGPT君と遊ぼうシリーズ

『魔王様に婚約破棄を言い渡されましたが、もともと討伐対象だったので問題ありません』

作者: エンゲブラ

ハッピーエンド保証。


ただし、後書きを読むと……?

王国が魔王討伐のために編み出した作戦は、誰がどう見ても悪趣味だった。武力でも、魔法でも、英雄の血筋でもない。――答えは「婚約」である。


王都から遠く離れた辺境の村に生まれたリュシアは、幼いころから剣を握って育った。父は騎士だったが、名誉の戦死。母は早くに亡くし、姉妹もいない。人並みの暮らしには縁がなく、男の子と変わらぬ身のこなしで生きてきた。


そんな彼女が、王都の使者に呼び出されたのは二十歳の誕生日の直後だった。教会の奥の密室で、王国の老宰相が無表情に切り出す。


「君には、()()()()()()になってもらう」


最初は冗談だと思った。

だが老宰相は書類を広げ、魔王城の地図と、毒物一覧と、懐剣(かいけん)の設計図を差し出してきた。


「婚約者となり、魔王の懐に入って、機会を見て暗殺せよ。君の美貌と忠誠心は、王国が最も信頼する武器だ」


冷たい部屋に、妙に静かな沈黙が落ちた。

リュシアはしばらく考えて、それからあっさり答えた。


「……いいでしょう。もともと、ろくな人生じゃありませんし」


それが、彼女の『婚約』の始まりだった。


愛だの誓約だのは、最初から形だけ。指輪は偽物、誓いの言葉は演技、ドレスは王国の軍資金で借りたもの。彼女の目的はたったひとつ――魔王を殺すこと。


婚約者として魔王城に招かれたリュシアは、粛々と「内側からの討伐作戦」を進めていた。甘い言葉を交わし、愛想笑いを浮かべ、城の構造を記憶する。どんなに優しくされても、指一本、心を許す気はなかった。


――この婚約は、武器だ。

討伐のための道具でしかない。


リュシアは、それを疑ったことすらなかった。



魔王城の生活は、驚くほど穏やかだった。

リュシアの予想に反して、血も硝煙(しょうえん)の匂いもない日々が続いていた。


魔王は毎朝、礼儀正しく「おはよう」と挨拶し、食事の席には彼女の好きな紅茶を用意した。夜は部屋まで見送り、扉の前で「おやすみ」と微笑んだ。


まるで本物の恋人同士のように。


だが、リュシアの胸に湧くのは「疑念」と「任務」の二文字だけだった。


(……きっと油断させるためだ。(だま)されない)


その日も、普段と同じ穏やかな朝だった。

魔王城の広間に、いつも通り魔王が座っている。

漆黒のマントをまとい、金の瞳を伏せ、落ち着いた声で彼は言った。


「リュシア。今日は少し、大事な話がある」


リュシアは表情を変えず、椅子に腰かけた。

懐には毒薬を仕込んだ小瓶。懐剣も左太もものベルトにしっかり隠してある。


(――ついに来たか。疑いを持たれたのか、それとも私の正体を()ぎつけたか)


魔王はしばし言葉を選ぶように指先を組み、静かに、まるで天気予報でも告げるように言った。


「……婚約を、破棄しようと思う」


沈黙。

広間を満たすのは、柱時計の秒針の音だけ。


リュシアは、少しだけ(まばた)きをして、次の瞬間にはあっさりと椅子から立ち上がった。


「――了解です」


あまりにも冷静すぎた自分の声に、魔王が目を瞬く。


「……怒らないのか?」


「もともと討伐対象だったので、問題ありません」


リュシアは、何の感傷もない顔でそう答えた。心の奥では「よし、敵認定が正式に下った」と計算していた。暗殺のタイミングさえ、もう心の中では決めかけていた。


けれど――魔王は、なぜか苦笑いすら浮かべず、静かに頷いただけだった。


「そうか。問題ないのなら……よかった」


あまりにも穏やかで、未練もなく、名残惜しさすら感じさせない声音(こわね)。敵としての緊張すらほどけてしまいそうになるほど、あっさりとした別れの言葉。


その瞬間、リュシアはほんの少しだけ違和感を覚えた。――討伐対象が、討伐の対象らしからぬ顔をしている。


しかし任務に揺らぎはない。

たとえ破棄されようと、敵は敵。

彼女は懐の小瓶に手を伸ばしながら、魔王に軽く頭を下げた。


「では、短い間でしたが、お世話になりました」


魔王も、ゆっくりと席を立った。


「こちらこそ。……楽しかったよ、リュシア」


その言葉の意味を理解するには、もう少し時間が必要だった。



婚約が破棄された翌日。

リュシアは荷物をまとめ、魔王城の門へ向かった。


長い廊下を歩きながら、頭の中では任務の結末を考え続けていた。――暗殺は失敗だ。


肩書きが消えた今、討伐の大義名分も消える。王国に戻れば、失敗の責任を問われ、次は自分が処分対象になるだろう。


(まあ、それも仕方ない)


彼女は、もう覚悟していた。

だが、城門を出る寸前、最後の最後で魔王の声が背後からかけられた。


「リュシア」


振り返ると、魔王は門の影に立っていた。

漆黒のマントも王冠も外し、ただの青年のような顔つきで。


「……君の使命は、最初から知っていた」


リュシアの手が、無意識に腰の剣へと伸びかける。だが魔王は、剣に手を伸ばす様子もなく、むしろ少し肩を落とした。


「最初は警戒していたよ。けれど、君は……殺さずにいてくれた」


沈黙。

言い訳も、反論も、命乞いも浮かばない。

冷静さは維持していたはずなのに、不思議と剣を抜く気にはならなかった。


魔王は続ける。


「君が命を取らなかった分、俺も君を殺すつもりはない。だから、討伐も、婚約も、全部なかったことにしよう。――君は自由だ」


その言葉に、リュシアは目を瞬いた。


討伐対象と婚約者――そのどちらからも解放された。敵でも味方でもない。ただの「自由な人間」として、この場を去れという意味だ。


(――何だそれは)


自分の立場がぐらりと揺れる感覚に、リュシアは戸惑った。討伐に失敗したはずなのに、罰もなく生きて帰れる現実。自分の任務を否定されるほど、奇妙に胸が痛んだ。


魔王は一歩、門の前まで歩いてきて、小さく微笑んだ。


「どうか、元気で。――また、どこかで」


「……ええ。……まあ、生きてれば、ですね」


それだけ言葉を交わして、リュシアは城を後にした。


道中、誰もいない森の小道で足を止め、独り言のようにぽつりと漏らす。


「討伐対象のくせに……変な奴」


そう言いながら、自分の胸に手を当てた。軽いはずなのに、なぜか心は妙に重たかった。



魔王城を後にして、リュシアは独りで歩いていた。背中に差すのは、温かい春の日差し。けれど、心の中はひどくざわついていた。


森の小道は、こんなにも長かっただろうか。魔王城へ向かうときは、ただ任務のことで頭がいっぱいで、景色なんて目に入らなかったはずだ。


今は風の音も、小枝の揺れも、足元の石の感触さえも、やたらとはっきり伝わる。


(あれで終わり、なんだ)


ふいに、そんな実感のない言葉が胸をよぎった。偽りの婚約生活は、剣も毒も使うことなく、あっけなく終わった。本来なら、清々しいはずだ。敵を討てずとも、敵に討たれることもなかった。生きて帰れる。それだけで充分なはずだ。


……けれど。


胸の奥に、かすかな鈍い痛みが残っていた。それは任務の失敗によるものとも違う。誤算だったのは、任務そのものではなく――あの言葉だ。


『楽しかったよ、リュシア』


ふと思い出してしまい、思わず足を止める。

城門の前、魔王の顔。

あのときの声音。

任務を知りながら、それでも最後まで普通のふりをしていた優しさ――いや、愚かさかもしれない。


(……どうして、あんな顔をしたんだろう)


リュシアは、自分の感情がよく分からなかった。剣や毒では計れないものが、胸のどこかに引っかかっている。名前も形もないその感情をどう処理すればいいのか、分からないまま、足だけが前へ進んでいく。


ふと、道端に咲いた小さな白い花に目を留めた。こんなもの、任務中なら絶対に気にも留めなかった。でも今日は、なぜか立ち止まってしまう。


「……自由、か」


魔王が言ったその言葉を、もう一度口の中で転がしてみる。不思議と重みを持って響いた。


討伐対象でも、婚約者でもない――何者でもない自分。剣も、任務も、王国への忠誠も、何ひとつ背負わないただの人間。その「空っぽさ」に、不意に足元が揺らぐような心地がした。


(あいつのことを――魔王だって呼ぶのも、変な気分だ)


その思いが湧いた瞬間、リュシアは少しだけ、自分の胸に手を置いて苦笑した。


「……本当に、変な奴」


自分に向けたのか、魔王に向けたのか。

誰にともなく呟いて、また歩き出す。


森の木々の隙間から、見慣れた王国の街並みが遠くに見えた。これから待っているのは、任務失敗の報告と、処罰かもしれない。でも、不思議と焦りも恐怖も、湧いてこなかった。


(それでも……まあ、また会ったら)


最後まで言葉にはならなかった。

けれど、心のどこかで、何かが小さく芽を出した気がした。



王都へ戻ったのは、夕暮れ時だった。城門をくぐった瞬間、リュシアは自分の「居場所」がもう、どこにもないことを理解していた。


――任務失敗。

それは王国において、裏切りと同義だった。


報告書も書くまでもない。

顔を見た上官たちは、わずかに眉を寄せるだけで、すぐ次の命令を下した。


「本日をもって、リュシア・カーネリアの任務は解任する。討伐失敗、及び敵性認定者への協力の疑いにより、拘束――または処分対象とする」


淡々とした声。

何の感情も、慈悲も、言い訳の余地すらない。


リュシアは、ただ黙ってそれを受け入れた。

元より、想定していた結末だった。

魔王も、王国も、自分にとっては同じ。

どちらも「任務」という檻の外には出られない世界だ。


だから、抵抗もせずに連行される道を選んだ。

城の地下牢に収容され、ひんやりとした石壁にもたれかかったとき、不意に看守が声をかけた。


「手紙だ。お前宛てだ」


差し出されたのは、見覚えのある漆黒の封筒。

リュシアは、受け取る手を一瞬だけためらった。


それでも、ゆっくりと封を切った。

中には、たった一枚の便箋。魔王の字で、こう書かれていた。


――リュシアへ。


自由になれたときの、君の顔が忘れられない。討伐も、婚約も、すべて終わってしまったけれど。もし次に会うときは、敵でも婚約者でもなく――ただ、名前で呼んでくれると嬉しい。 魔王より


リュシアは、便箋を持ったまましばらく動けなかった。


敵でもなく、任務でもなく、ただ名前で呼ぶ。

たったそれだけの言葉が、どうしてこんなにも胸を締めつけるのか分からない。だが、確かにその一文だけは、今までのどんな命令文よりも重かった。


そっと便箋を胸元にしまい、天井を見上げる。


(名前だけ、か)


ゆっくりと目を閉じると、不思議と牢の中は、少しだけ温かく感じた。



処刑日の朝は、驚くほど晴れ渡っていた。


護送されるリュシアは、もう諦めきっていた。

任務に失敗した自分に、王国が情けをかけることなどない。たとえ処刑されずとも、一生地下牢に繋がれるか、見せしめとして消されるだけだ。


だが、広場の処刑台には、想像もしない人物が待っていた。


「よく来たね、リュシア。遅かったじゃないか」


そこに立っていたのは――王国の王。

ではなく、その隣に立つ黒衣の男。

魔王だった。


周囲の衛兵たちは全員、無言で頭を垂れている。

武器を捨て、魔王の前に(ひざまづ)く兵士もいた。

状況を理解するのに数秒かかった。


魔王は歩み寄り、リュシアの手枷を指先ひとつで砕く。


「――王国は、昨夜、滅んだよ」


短く、あっさりと告げられた。

魔王軍が、何の抵抗も受けずに王都を制圧し、王城も既に陥落。この広場に集まっているのは、王国の住民ではなく、魔王の新たな臣民だった。


「王国は君を討伐対象にした。でも、俺は違う」


魔王は、彼女の左手を軽く取り上げた。

その薬指に、再び指輪をはめる。

それはかつて、討伐任務の仮初(かりそ)めの証として渡した婚約指輪と同じものだった――ただし、今度は偽りではない。


「君を自由にするって言った。だから王国を壊した。さあ、討伐対象でも婚約者でもなく――王妃として、隣に来てほしい」


リュシアは息を呑んだ。

討伐も、任務も、偽りの婚約も、すべて終わったはずだった。だが、彼はそのすべてを踏み越え、今度こそ本物の「求婚」を突きつけてきた。


答えは、すぐには出せなかった。

だが、自分の指には確かに指輪がはまっている。

その事実だけが、すべてを物語っていた。


魔王は、手を差し出した。


「名前で呼んでいいか?」


しばらく沈黙したあと、リュシアは小さくうなずいた。


「……好きにすれば、陛下」


魔王はにやりと笑った。


「陛下、か。――なら君は今日から、俺の国の王妃だ」


広場に、新たな王国の民たちの歓声が響いた。

こうして、かつて王国の「最終兵器」として育てられた少女は、討伐対象だった魔王と、世界を変える新たな物語の主役になった。


挿絵(By みてみん)

(ChatGPT生成によるリシュアと魔王)



【後日談】

――王妃の日記・一頁目。


「魔王が、王国を滅ぼした日」

私は、牢の中にいた。


……いや、正確には「私が牢にいる日」を、魔王は選んでいた。


きっとあの男のことだから、すべて計算済みだったんだろう。


王国が処分命令を出したのも、魔王がそれを待っていたのも。


私を引き取る権利を得るために、王国が自ら私を切り捨てる瞬間を待っていた――そう考えれば、合点がいく。


それに、牢番の態度。

今思えば、あの看守も魔王軍側に寝返っていたのだろう。


私に差し出された手紙も、釈放も、全て筋書き通り。処刑台への護送も「引き取り」を公開するための儀式だった。


全部、あの男の筋書き通りだった。


……でも、王国は私の「帰る場所」を奪ったけれど。魔王は、私の「生きる場所」を作った。


それが、たった一つの違いだ。


「名前で呼んでいいか?」と、あの日聞かれた時。私は首を縦に振ったくせに、結局いまだに、あの男を「陛下」と呼んでいる。


多分これは、負け惜しみだ。

でも、負け惜しみを言える相手がいるのは、悪くない。


討伐対象から王妃へ。

誰がこんな結末を予想できただろうか。


私自身も、未だに信じられない。

けれど、指輪がちゃんと薬指にはまっている限り――これが現実なんだろう。


(了)


―― さて、この作品を読んだ皆様の率直な感想はどのようなものでしょうか?


実はこの作品、ChatGPTといっしょに「大喜利的に」創り出した異世界恋愛モノ作品であったりします。


『魔王様に婚約破棄を言い渡されましたが、もともと○○だったので問題ありません』


「このタイトルで短編を書くとしたら、どのようなあらすじが考えられますか。何例かよろしくお願いします」から始まったAI小説。


ChatGPTは本作以外にも『魔王様に婚約破棄を言い渡されましたが、もともと顔を覚えられてなかったので問題ありません』『魔王様に婚約破棄を言い渡されましたが、もともと人間じゃなかったので問題ありません』『魔王様に婚約破棄を言い渡されましたが、もともと偽装婚約だったので問題ありません』なども、あらすじといっしょに提案してくれましたが、私は本タイトルを選択し、今回このような作品に仕上がることとなりました。いわゆる編集者的な作業のみです。


率直なご感想や評価などが頂けると幸いです。

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