1 ふたりの聖女
暖かい布団の中で眠ってた。
その事だけは覚えてる。
でも、ふわふわーんな布団の感触じゃなくて、ゴッツゴツのこれは・・・床?
硬い、固い、堅すぎぃと不満爆発で目が覚めたら、そこは自分の部屋じゃ無かった。
「んあ?」
半分寝ぼけてるのだ、そんな声が出てもしょうがない。
電気は消したはずなのに、天井にシャンデリアが見える。
なんか周囲には人がたくさん・・・ひいふうみい・・4人?
白ヒゲのじいさんと、金髪のボイン美女、セーラー服を着た私と同じ年頃の女の子と、最後はなんか王冠ぽいのかぶってる威厳のあるおじ様。
夢?って真っ先に思った。でも、夢って床が冷たいとか感覚の再現まであるの?
そんなわきゃー無いと自分にツッコんだところで完全に目が覚めた。
「2人いるぞ」
「途中でちょっと術式間違ったかも・・・」
「どちらかが聖女のはずだ」
「召喚にどれだけ時間と費用がかかったと思ってんの。どちらかが聖女なのは間違いないでしょ。ステータスで分かることだわ。ほら、さっさとしてよ」
最後のセリフはボイン美女。戸惑ってる他の人達の反応にイライラしてるのか、怒鳴り気味に白ヒゲのじいさんに言った。
「うむ、そうだな・・・」
白ヒゲのじいさんはコホンと咳をし、私とセーラー服の女の子2人に向かって話し始めた。
「まず、突然の召喚で驚かせてしまい申し訳ない。ここはティアード王国という場所で私たちは国の重要人物になる。私は国家魔術師のザナン。そこの金髪の女性は国家治癒師のファイン。そちらの王冠をつけた方はこの国の王であるリード王だ」
それぞれの人物を紹介し、また一つコホンと咳をついた。
「この国では今、魔国という場所から人々を傷つける魔物が多く発生していて、毎日誰かが亡くなっておる。それらの魔物を倒すには、この世界に住む者ではなく異世界の者を呼ぶ必要があった。突然に呼ばれて不快な気持ちにさせたであろうが、どうかこの世界が魔物に浸食されないよう協力をしてもらいたい」
えっと、異世界から勝手に呼びつけた挙句、魔物を退治してくれってことよね。
それってかなり調子良すぎない?人権なめてる?
私はバイトの日程や試験のことを思い出して徐々に怒りがこみあげてきていた。
けれど、もう1人一緒に召喚とやらをされた子は両手を握りしめてにっこりと笑顔を作り
「これはきっと神の試練なのでしょう・・・私でお役に立てるなら喜んで」
え、やるの?なにその順応の速さ。
ポカンとして女の子を見ていると、首には十字架のネックレスが下がっているのが目に入った。
あ・・・なるほど・・・?神の試練ね・・・。
どんなことがあっても神さま神さまってことなのね・・と、なんとなく納得した。
それにしても、魔物を倒すって・・・私に倒せるの?
ふと疑問に思った瞬間だった。ピコンと音がして私の目の前にノートパソコンくらいの大きさを思わせる画面が出てきた。
ステータスという文字が最初に目に入る。
そして、名前:白月 唯 レベル:326 称号:異世界からの聖女 所有スキル:コピー 隠ぺい 合成 無限収納 治癒 という文字が並ぶ。
これ・・・ゲームのやつじゃん?あれ、聖女ってある。私が?
聖女ってことは魔物倒すの?いや、単純にヤダ。無理。平和最高。
画面を睨みながらグルグルと考えていると、ザナンは白いボーリングにつかうアレみたいな玉を出した。
「この玉に手を置いてくだされ。ご自身のステータスが見えます」
ザナンのセリフに興味深々のもう1人の子は、いそいそと手を置く。
ピコンというさっき私が聞いたのと同じ音がし、名前:赤月 優 レベル:30 称号:異世界からの召喚者 所有スキル:弓 という文字が出てきた。
・・あっれ?レベルが私とけっこう差があるんですけど??
なんか苗字ちょっと似てるな・・・でも、称号とかは微妙に違う。なんかこれ、やばい感じするかも。
「赤月優様ですな。ほほお、レベル30とはかなり高いですな、さすがです。称号から見ると貴方が聖女のように思えますなぁ」
感心したようにザナンは言い、次は私とばかりに玉を差し出した。
いやいやいや、レベル30で高いってことは私どうなの?まずくない?魔物とか退治するの無理っていうか嫌よ。悪いけど平和主義者なのよ。
変な汗がツウと伝う。どうにかならないかと頭をフル回転させていると、自分のスキル表示を思い出した。
隠ぺいって改ざんするのとかも入ってるんじゃない?私の思い通りに表示させられたら・・。
手を触れないと怪しまれる。てか、この玉に触れないとステータスが表示されないってことは、私は根本的に他の人と違うことが多いのかも・・・。
コクリと唾をのむと、私はそっと玉に手を置いた。
お願い・・・私が思うとおりの表示をして。
「白月唯様ですな。レベルは6・・スキルは治癒・・・称号は無し・・これは・・・」
お前はハズレだと言わんばかりの冷たい視線が、その場の全員から投げつけられてきた。
今度は王様がコホンと咳をし、
「すまぬが間違えて召喚されてしまったのは白月様のようですな。大変申し訳ない」
めちゃくちゃ冷たい視線。これはもう用済み確定という感じ。
「いえいえ、しょうがないです。ところで間違いなら元の世界に戻りたいのですが・・・」
手をモミモミさせながら言うと、王様も魔術師も治癒師も顔を見合わせてため息をついた。
「大変申し訳ないが元の世界に戻す魔術は無い。そなたには当面の生活費を渡すので、すまないが町で暮らしてもらいたい」
そうなのー!?
心の中ではふざけんな無責任野郎、勝手に呼んで城から出てけってどういうことよとか色々な罵詈雑言が思い浮かんだけど、当面の生活費とやらが欲しくて黙っていられたのは自分を褒めてあげたいと思う。