47話:物語の終わり~絆~
沢山用意されているスイーツ。
それを見た瞬間。
私の心臓は早鐘を打っていた。
市松模様のクッキー。
前世子供の頃は、チョコレートとプレーンの組み合わせより、イチゴとプレーンの組み合わせを好んだ。でもなかなかその組み合わせのクッキーはなく、母親が手作りしてくれたのだ。
さらにスライムみたいな形をしたキスチョコ。これも大好きで、よく子供の頃に食べていた。この世界でこの形のチョコは……今日、初めて見た。
そして夏に欠かせないのがフルーツパンチ! 暑いと喉が渇く。しゅわしゅわ炭酸がきいたフルーツパンチは、水分補給もでき、フルーツの食感が大好きで、よく食べていた。これも前世での記憶だ。
「あっ……」
前世においてパンケーキは、日曜日の朝のお楽しみだった。
私はハーフ&ハーフと言って、半分にたっぷりの練乳を、もう半分にたっぷりのイチゴジャムをつけ、子供の頃に食べていた。そして先程から感じる甘い香りは、そのハーフ&ハーフを再現したかのようなパンケーキのものだった。
再現したかのよう……。
席に着き、まじまじとパンケーキを見た。
これは再現したかのよう、ではなく、再現している。
この世界に練乳は、まだないはずなのに。
ちゃんと練乳だと思う。
これは、どうして……。
「茜」
懐かしい名前を呼ばれ、一瞬固まる。
「え……?」と思い、顔を上げ、声の主を見る。
「練乳はこの世界にないから、お母さんが自作したのよ。もう試行錯誤して。練乳なんて手作りしたことがなかったから。でも作れたわ。牛乳とお砂糖でね。茜の好きなパンケーキ、用意できたわ」
見た目は乙女ゲーム“ラブマジのヒロイン、アナなのに!
言っていることは、前世の母親そのまま。
「茜が好きだったキスチョコは父さんが作った。パティシエにチョコについて教えてもらってな。前世で料理なんてしたことなかったのに。頑張ったつもりだ」
父親は典型的なしょうゆ顔だったはずなのに!
鼻は高くなり、瞳なんてルビーみたいで。
攻略対象になれるぐらいハンサムになっている!
そう、今の言葉を発したのは、リベルタスだ!
「お母さんとお父さんなの……?」
「ええ、そうよ。あの時、三人一緒だったのよ。みんなでこの世界に転生していたの!」
立ち上がった私は二人に抱き着き、もう言葉が出ない。
しばらくは三人、ぎゅっと抱き合い、涙を流すことになる。
「……茜。父さんが余所見運転したせいで、こんなことになってすまなかった」
「そんなお父さん、仕方ないよ。運転、お父さんに任せきりだったし、寝不足だったんでしょう」
「でも……」
正直。
前世では私たち家族に閉塞感が漂っていた。
お父さんとお母さん、離婚するのかな。
それは薄々と感じていたこと。
でもこの世界で二人は婚約をしている。
つまり、やり直すことができたんだ!
「お父さんとお母さんは、この世界に転生できて、幸せなんでしょう? 私も幸せだよ。だって、推しと婚約できたんだよ、私。しかもこの国の王太子! 私、未来の王妃様なんだよ! 文句なんてないから。私たち家族はこの世界でやり直しできたのだから!」
「茜……!」
「茜、父さんを許してくれて、ありがとう……!」
悪役令嬢に転生した私は「なんでヒロインに転生できなかったのか!」と思ったものの。それには理由があった。女性の主要キャストは二人で、転生ものと言えば、ダントツで悪役令嬢だ。だからこそ“ラブマジ”中毒だった私が悪役令嬢エマに転生し、母親はヒロインのアナに転生したのだろう。
お父さんが見たことがない……もしくは覚えていないだけのモブに転生したのは、未プレイヤーだからだ。おまけで転生できたのかもしれない。なんて、ね。
ともかく悪役令嬢に転生し、断罪されずに済んだのは、他でもない。
母親のおかげだった。
とんでもない運動神経は、ヒロインチートとラッキーを駆使し、そして全力で私が断罪されないようにするために、発揮してくれたものだった。
しかも私と推しであるセシリオが結ばれるよう、二人三脚の時も。課外授業のチーム分けだって。「本と薔薇の日」の本も、私が間違えるような厚みの本を、敢えて用意していた。
まさか母親が私とセシリオの距離が縮まるよう、画策してくれていたなんて……!
もう、お母さんってば、やるじゃん!
前世の私は親孝行なんてすることなく、こちらの世界に来てしまった。
でもこれからはいっぱい、親孝行をしたいと思う。
そのためには……。
父親には立派な騎士になってもらわないと。
母親は良妻賢母で、父親をよいっしょしてもらう。
それで私はセシリオに頼んで……。
父親に爵位を授けてもらおう!
悪役令嬢という役目から解き放たれた私の新たな目標。
それは大好きなセシリオを王妃としてサポートし、あとは親孝行だ!
お読みいただき、ありがとうございます。
ヒロインチートの原動力は、偉大なる母親の愛だったという本作。
お楽しみいただけたでしょうか。
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なお、ページ下部に悪役令嬢ものから婚約破棄ものまでいろいろリンク付きバナーが並んでいます。
ご覧いただけると幸いです☆彡
ぜひ皆さまの次の読書の旅でも、お会いできると幸いです。
素敵な読書体験を。いってらっしゃいませ!