43話:もどかしい
アナ視点です。
「リベルタス。あなたは前世の自分の名前、憶えているの?」
「ええ、覚えています。紗々川秀俊です」
そこからはもう大変。
私は自分が誰であるかを話し、秀俊……リベルタスは大いに驚くことになる。
「まさか、愛美なのか!? 本当に!?」
スティーブンとリベルタスと三人で会うお茶会は、週に一回だった。
だが私は両親に頼み、リベルタスと二人きりで会う機会を週に一回作ってもらうことにした。表向きは、彼から馬術を習うためだ。
こうしてリベルタスと乗馬の練習をしながら、話をする時間をもてるようになり、そこで沢山いろいろなことを話した。
そこでは前世で素直に言えなかったことも、打ち明けることができたのだ。その結果、私とリベルタスは……秀俊は、もう一度恋に落ちたのだ。
「自分の体が五歳なのが、もどかしいな」
「仕方ないわ。今は手をつなぐのが限界。キスは社交界デビューするまでは、お預け」
「でも額へのキスは? 祝福のために、額へキスすることは、許されているだろう?」
五歳の私たちが額にキスをする姿を見て、両親は愛らしいと思っていた。
だが私からリベルタスと婚約したい!と打ち明けると、大いに慌てることになる。
「お前たちはまだ五歳だ。早過ぎる。社交界デビューしてから、正式に婚約としよう。その方向性でラングリー伯爵にも相談してみる。だが、我が家は男爵家。果たしてラングリー伯爵家にとって、メリットがあるかどうか」
父親にこう言われた私は、ラングリー伯爵夫妻を攻略することにした。
これまで私の領地に、リベルタスは足を運んでいたが。
今度は私がラングリー伯爵領へ、足を運ぶことにしたのだ。
ラングリー伯爵家には三人子供がいたが、皆、男の子。
女の子はいない。
ラブリーな私に、ラングリー伯爵夫妻はすぐにメロメロになってくれた。
その上で、乙女ゲームで知り得た知識を披露。
つまりこれからは船を使った交易が盛んになるから、造船業に力を入れた方がいいとか、海運業に出資した方がいいなどだ。でも子供が言うこと。半信半疑で聞いていたラングリー伯爵夫妻だったが、半年後には私が言っていることが正しいと分かる。そこからは私が可愛いだけの子供ではないと分かり、リベルタスとの婚約も認めてくれたのだ。
さらにリベルタスが騎士見習いとして、我が家に来ることも許された。
こうして私と秀俊……リベルタスは、前世のやり直しをするため、共に歩み始めることになった。その中で何度も話したのは、茜のことだ。
「茜は……シートベルトを着けていなかった。家を出発した時は、着けていた。だがサービスエリアで休憩して乗り込んだ時、シートベルトを着けなかった。指摘しようとも思ったが、煙たがれると思い、言えなかったんだ。すまない」
「いえ、それはあなただけの責任ではないです。私も確認すればよかったこと。……そうなると茜も……。茜の魂は、天に召されたのかしら」
「そうだな。こんなゲームの世界に転生するなんて、そうあることとは思えない。もし転生しているなら会いたいが……。でももう一度。君との間に子供ができたら、それが茜かもしれない」
リベルタスにそう言われると、一刻も早く婚約し、結婚したくなる。
もう一度茜を産むことができるなら、産みたい!
茜に会いたい。
その時はすっかり忘れていた。
ヒロインの立場を。
だがすぐに気が付く。
「私は一応、このゲームの世界のヒロインなの。ヒロインは……攻略対象と結ばれないといけない気がするのだけど……」
「なんだって!?」
そこからはリベルタスと作戦会議だ。
攻略対象は三人いるが、この国の王太子や隣国の第二皇子のルートを選んだら、絶対逃げられないと思った。よって攻略するなら公爵家の嫡男ジャレッド・イートンだろう。ゲームの流れに沿い、ジャレッドと適切な距離を保ち、好感度を上げないようにすればいいと思いつく。
「でもジャレッドには婚約者がいるの。その婚約者は悪役令嬢と呼ばれ、ヒロインとジャレッドの恋路を邪魔することになるのだけど……。でもそれって正しいことよね? 婚約者がいるのよ、ジャレッドは。それなのにジャレッドがヒロインに横恋慕するなんて。そもそも間違っていると思わない?」
「思うけど……そういうゲームなのだろう?」
「そうだけど、そこを逆手にとるのよ。婚約者がいるのに浮気しようとした最低男って。そして悪役令嬢の味方をする。そしてジャレッドとは、悪役令嬢にそのままゴールインしてもらうの」
私は “ラブマジ”のことは知っていた。だが乙女ゲームのなんたるかや、その世界に転生した場合のいろいろなお約束なんて、知らなかった。思いついたこの方法が、最善だと思っていたのだ。
「まあ、試してみるしかないだろう。だが本当にそのジャレッドという男と学校で過ごすことになるが、大丈夫なのだろうな?」
「大丈夫って? 学校ですから。問題ないかと」
少しむっとして私を抱き寄せる秀俊……リベルタスは、前世と違い、愛情表現が豊かだ。
離婚を決意した頃は、お互いに感情を見せることもなかった。でも今度はそうならないように。私への好きという気持ちを、精一杯表現してくれているのだと思った。
こうして私は王立エール魔法学園へ入学した。
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今年もそろそろコンテストで動きが!
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【お知らせ】第六章スタート!
第5回HJ小説大賞前期の二次選考中作品
『転生したらモブだった!
異世界で恋愛相談カフェを始めました』
https://ncode.syosetu.com/n2871it/
章ごとの読み切り作品。
第六章開始です。
併読されていた読者様、お待たせいたしました!
ぜひご覧くださいませ~
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